第15話 フレンドリストに残ったもの
……どうしたらいいのか、分からない。
昨日のことが、頭から離れない。
A姉さんは、きっと本気で俺にぶつけてきた。
軽い愚痴とか、ノリのいい雑談とか、そんなレベルじゃなかった。
「A姉さんの地獄は分かるよ」
……なんて、言えるわけない。
当たり前だ。
俺はA姉さんじゃない。
同じ環境で育ったわけでもない。
俺が想像する以上の“本当の地獄”を見てきたんだろう。
それを、
軽々しく「分かる」なんて言えるほど、俺は傲慢じゃない。
……でも。
「フレンドになったんだよな……」
初めてのフレンドだ。
嬉しくないわけがない。
でも――
素直に喜べない自分も、確かにいた。
俺、どうするべきなんだ?
考えても仕方ない。
とりあえずログインしよう。
――ログイン。
フレンド欄を開く。
……光ってる。
A姉さんの名前が、オンラインを示す色で表示されている。
……ログインしてるのか。
しばらく、それを眺める。
……何やってんだ俺。
そもそもだ。
A姉さんの過去話が、なんだっていうんだ。
それとフレンドは、別の話だろ。
もしA姉さんが、誰かに言いたくなるなら――
俺が聞けばいいだけの話じゃないか。
それがフレンドってもんじゃないのか?
……よし。
俺から声かけよう。
個別チャットを開く。
「こんにちは、A姉さん。いますか?」
数十秒後。
「ごめんね、今忙しくて。
じゃあね」
……え、終了?
取りつく島もないな。
……いや、単純に忙しいだけかもしれない。
そうだよな。
深読みすんな。
また明日、声かけてみよう。
――次の日。
「こんばんは、A姉さん。
今日はどっか遊びに行きませんか?」
返ってきたのは、これ。
「ごめん、今日は他のフレンドと遊ぶから。
じゃあね」
……うん。
ゲーム内に他のフレンドがいるって言ってたしな。
仕方ない。
時間帯が悪かっただけだ。
……たぶん。
――また次の日。
「こんばんは!
A姉さん、今日は空いてますか?」
……返事なし。
いや、忙しいだけだ。
さすがに……そうだろ?
……でも、ちょっとキツいな。
俺、何やってんだろ。
もしA姉さんが本気で嫌がってたら――
俺、ただのストーカーじゃね?
嫌がらせしてるだけなんじゃないのか?
……もう、声かけない方がいいのか。
分からない。
他の人たちは、フレンドとどういう距離感なんだろう。
これが普通なのか?
――さらに次の日。
「A姉さん、こんばんは」
……返事なし。
……うん。
まあ、分かってた。
よく考えたら――
1か月インし続けてた、あの“相方”の子……すごいな。
たった1か月って言ってたけど。
俺なんか、4日で心折れてる。
……正直さ。
A姉さんの気持ちは、A姉さんにしか分からない。
でも――
ごめん。
相方の子の気持ち、俺はちょっと分かるよ。
どっちが地獄とかじゃないんじゃないかな。
……そう思いたかった。
だからさ。
俺は――
A姉さんにもらった、このおしゃれ装備。
これ、忘れないよ。
これからも、ずっと使う。
未練のためじゃない。
A姉さんを、ちゃんと忘れるために。
……ありがとう、A姉さん。
フレンド欄を開く。
カーソルを、A姉さんの名前に合わせる。
初めてフレンドになってくれた人を、削除する――か。
……俺も、相当ヤバい奴かもしれないな。
でも。
これ残してたら、
なんか、ずっと同じところにいそうだった。
本音を言うなら――
消したくない。
フレンドデリートって、
ラスボスより強いのかもな。
ポチッ
『A姉さんを
フレンドリストから削除しますか?
→ はい いいえ』
……はい。
……それでも、
ログアウトするまで何度もフレンド欄を開いてしまった。
――次の日。
もう、あの掲示板はやめよう。
A姉さんとの思い出が、あるからな。
募集、閉じるか。
……メールは来てない。
ちょうど良かった。
やめろってことだろ、これ。
じゃあな、掲示板。
どこの誰が作ったか知らんけど、
世話になったな。
――フレンド0からの再出発だけど。
俺のMMO人生は、
まだ終わってない。
……この時の俺はまだ、
自分が何を失くしたのか、
ちゃんと分かってなかった。




