第14話 地雷原に足を踏み入れた男
「え?
あ、まあ……正直に言うと……はい……」
A姉さんは、少しだけ視線を外した。
「じゃあ……ちょっとだけ、
俺君に聞いてもらおうかな」
「私ね、前に“相方”って呼べる人がいたの」
いきなり核心きた。
「私が好きになったっていうより……
相手からぐいぐい来た感じだったけどね」
「でも、悪い子じゃないって分かってたから……
まあ、いいかなって流されて」
……うん、あるある話か?
……って思った、その次。
「でもね……
だんだん、その子が私“しか”見えなくなってきたの」
「依存……って言うのかな」
嫌な予感しかしない。
「リアルでも一緒にいたいとか、
家出するから一緒に暮らそうとか……ね?」
「私は社会人。
でも、その子は……学生だったの」
……あ、これ重いやつだ。
「でね……
私、その子を“許せなかった”の」
「え?
……許せなかった……?」
空気が、明らかに変わった。
「ふふふ……
やっぱり俺君も“普通の人”だったのね?」
「……え?」
「今の反応で分かるわ」
……何この詰め方。
「私が許せなかったのはね――」
A姉さんの声が、少し低くなった。
「その子の家、そこそこお金持ちだったのよ」
「なんでも親に買ってもらってて、
ゲーミングPCもしょっちゅう買い替えてた」
「……羨ましいとか、そういう話じゃないわ」
いや、もう怖い。
「一番腹が立ったのはね……」
「その子が“家出して一緒に暮らそう”って言ったこと」
「愛情表現のつもりだったのかもしれないわね?」
「でもね?」
――来た。
「私はね……
親に守ってもらったって記憶が、ほとんどないの」
「家にいても、
ずっと気を張ってなきゃいけなかった」
「だから――
“家出して一緒に暮らそう”なんて言葉が、
どうしても許せなかった」
…………。
正直、
かなり重い話だ。
どう返せばいいか、すぐには分からない。
「そんな裕福で、優しい親を、
簡単に捨てるとか言う人……」
「本当に許せなくて……」
「“私の人生は何だったの?”って思ったわ」
「私と変われよって。
お前もこの地獄の生活やってみろよって」
……息が詰まる。
「その子が私に依存してたのは知ってた」
「だからね、何も言わずにログインするのやめたの」
「当分、サブキャラで活動してたわ」
「……そしたら案の定よ」
「1か月もしないうちに、
その子ログインしなくなったわ」
……重すぎる。
「結局それだけの覚悟の子なのよ。
ぬくぬく温室育ちで……」
「……ふざけんなって思ったわ」
何故だろう。
俺の方が、少し息が荒くなっている。
「……正直、
軽く受け止めていい話じゃないとは思います」
頭で整理する前に、返事を送ってしまった。
A姉さんは、少しだけ目を細めた。
「……私ね、
こういう話をする人間なのよ」
「それを話した途端、
距離を置かれることも多い」
「だから……」
少しだけ、言葉を探す間があって。
「フレンドでいられるかどうか、
分からなくなってきちゃって」
「……」
「俺君が悪いわけじゃないの」
「私が、自分の過去を引きずってるだけ」
「それは分かってるの」
「……でも、どうしても頭から離れないの」
「どうしても思い出すの……
あの苦しみを」
「……ごめんね」
「会ったばかりで、
こんな話するつもりなかったの」
「でも、何故かな?」
「俺君なら聞いてくれる気がして……」
「……ごめん」
「今日はありがとう……」
「……またね」
そう言って――
A姉さんは、ログアウトした。




