表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球樹【アースツリー】  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/7

第6話 アディル・サイード ――祖国が沈んだ日

アディル・サイードは、海の匂いを忘れていなかった。

それは懐かしさではなく、

胸の奥に残った、湿った重さだった。


彼の祖国は、地図から消えた。

一夜にして、ではない。

少しずつ、確実に。


潮位の上昇。

護岸の崩壊。

避難勧告の常態化。


人々は言った。

「まだ大丈夫だ」と。


その“まだ”が、一番危険なんだ。


アディルは何度も警告した。

数値を示し、予測を出し、

このままでは土地が持たないと訴えた。


だが、対策はいつも遅れた。

費用対効果。

政治的優先順位。


そしてある日、

彼の家は、水の下に沈んだ。


写真も、記念品も、

母が大切にしていた食器も。

すべてが、静かに奪われた。


彼は泣かなかった。

泣くより先に、

怒りが冷えて固まってしまったからだ。


宇宙船の居住区で、

アディルは惑星の地形データを見つめていた。


「この星は、持つ」


それは、分析結果に基づいた結論だった。

地殻は安定し、水循環も健全。

無理をしなければ、長く共存できる。


無理をしなければ。


その条件が、どれほど守られにくいかを、

彼は地球で学びすぎていた。


「アディル」


リオが声をかけると、

彼はゆっくり顔を上げた。


「この惑星を、人の都合で壊させない」


それは質問への答えではなかった。

だが、リオは理解した。


彼は、過去を悔いているのではない。

二度目を、許さないだけだ。


異星人たちと共に行った地形修復作業で、

アディルは一歩も引かなかった。


「今は大丈夫、という判断をしない」


その姿勢に、異星人たちは頷いた。

彼らもまた、長い時間を生きる種族だったからだ。


夜、

二つの月を見上げながら、

アディルは静かに息を吐いた。


沈んだ祖国は戻らない。

だが、同じ過ちを繰り返さない場所は、

作れるかもしれない。


そのために、

彼はここにいる。


怒りを、

守る力へと変えるために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ