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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第七章「潜流」

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第94話「覚醒」

自宅に戻り、玄関の鍵を閉めた瞬間、ようやく胸の奥に重しが落ちてきた。


『謹慎』


言われた通り家に帰ってきただけなのに、まるで勾留中のような気分だった。


午前中の眩しい日の光を遮るために、カーテンを閉めてソファに沈み込む。


スマホを開けば、SNSやニュースが男女警察官の不祥事を面白がって拡散している。


<男は国家資源としての義務に集中させるべき>


<一部の男が調子に乗ると、こうやって女に迷惑がかかる>


<男に公用車を与えるな>


ネット上ではそんな言葉で溢れていた。


ひどい話だ。


昨日の写真に写っていた場面は、ただの資料確認に過ぎない。


水越と密着していたつもりなんて一切ない。


だが、男が一人関わっただけで、状況はスキャンダルに変換される。


まるで、男そのものが刺激物のような扱いだった。


「……くそっ、ほんとこの世界は。」


声に出すと、途端に部屋がひどく静かになった気がした。


ふと、ポケットに突っ込んでいたスマホに、メッセージが来ていたことを思い出した。


開くと差出人は中村だった。


<『おせおせ学園』の件、そして謹慎の件聞きました。31日成功させるために力を貸して下さい。LUXEの時と同じ方法で。動けるように手配はしておきます。>


中村の文字は、淡々としているのに、読み返すほど胸に刺さった。


簡潔な文章だが、想いが直に伝わる。


『佐藤主任が居なかったら、この事件が空っぽになっちゃう!』という、中村の言葉が、中村の表情が、俺の中で再び思い出された。


その中村が、俺を必要としているということ、それだけでなんだか力が出てくる気がした。


スマホを握ったまま、俺は思い返した。


『男が希少だから慎重に扱われる』という世の中で、俺たちは国家資源という扱いだ。


しかし、特務捜査係のメンバーは皆、俺のことを最初から人として接してくれていた。


この社会で、人として見られていない俺と共に立って、同じ方向を向いて、汗をかいてくれるかけがえのない仲間。


胸の奥が焼けるように熱くなる。


俺にできることは、ひとつだけだ。


謹慎だろうが、関係ない。


俺が動かなきゃ、この構造は変わらない。


静まり返った部屋で、決意の熱だけがゆっくりと体温に変わっていく。


「……やるよ。」


誰に向けてでもない、小さな声。


それはまるで、暗い部屋に火種を落とすような感覚だった。


この謹慎は、ただでは終わらせない。


謹慎中だろうが、俺は警察官だ。


記憶の中で誰から言われたか分からない言葉が思い出される。


『警察官は一度なったら24時間365日、一生警察官だ。』と。


くすぶっていた胸のざわつきが、確かな決意へと変わった。


ふと机の上に、捜査のメモを書き散らしたままのノートがあるのに目がついた。


そこには、『31日』『石田』『甘南備』等と殴り書いた文字が散乱している。


ページをめくると、内山みのりが命を賭して託した顧客リストの名前が目に入った。


資源庁、議員、財界、と誠実さを求められる側の人間が、男を買っていた。


「……ふざけんな。」


さらに、内山みのりの最後の告白。


『石田は男性売買オークション会場に輸送。』というあの一文が、今も焼けついている。


謹慎中の俺は、公式には動けない、普通の捜査手法は使えない、組織を動かす権限もない。


「……だったら、俺自身が行くしかない。中村を信じて。」


この世界で初めて『誰かを信じて』動こうと思った。



俺が再度スマホを見ると通知が2件。


1つは関から、車両の情報の連絡が来ていた。


<例の車両の車庫証明、最後の登録は麻麻商事の倉庫。見に行ったら今も停まってたぞ。後、Nシステムで確認したら、夜にお前の写真を撮ったの、この車だったぞ。>


これは、内山姉妹を飛行機から降ろすときに使われたメディアの仕掛けを、今度は俺を嵌めるために相手方に使われたというように解釈できる。


つまり、『警察の人事情報』を掴んだうえで、俺の事を日常的に張っている人間がいたということになる。


俺はさらにもう1つのメッセージを開いた。


「……えっ!?…御厨理事官?」


<突然のメッセージすまない。謹慎中と聞いているが、精神的に参って無いか?これを機にしっかり英気を養ってほしい。仕事のことはLUXE捜査本部のことや池袋署のことも含めて一旦忘れること。それを守って欲しい。>


まるで俺の心中を察し、釘を刺しにきたとも思える内容だ。


俺の頭の中で、何かがじわりと目覚めようとしている。


<ただ、警察官という衣は、一度纏ったら死んでも脱ぐことは許されない。どこにいても、何をしてても、24時間365日、常時警察官たれ。>


まるで俺の胸の奥の『決意』を正確に見透かしているような文章。


いや、それだけじゃなく、ここまで個人的なメッセージを送る理由は何だ。


御厨理事官とは、たかだか1か月上司部下の関係だっただけで、私的な接点も無い。


釘を刺すようでいて、慰めるようでもある。


そんな妙なメッセージに加え、最後の文だけが異様に重かった。


『常時警察官たれ。』


本当に俺に向けたメッセージなのか、疑問とともに、胸の奥がじわりと熱を帯びる。


それは焦燥とは違う、もっと奥深い場所から湧いてくる感覚だった。


何かが呼び覚まされるような、そんな奇妙な気配がする。


「……俺は、警察官。治安の最前線で、国家と国民のために奉仕する者。」


今、優先するべきことは御厨のメッセージの裏を読むことではない。


スマホを机に置き、深く息を吸い込む。


肺の奥が焼けるほど熱かった。


「……やるしかないだろ。」


人身売買を止め、石田を助け、被疑者を検挙する。


俺が動けなければ、甘南備も、資源庁の闇も、行方をくらましてしまう。


そして何より、中村を、仲間たちを裏切りたくなかった。


31日での、中村のコンセプトは理解した。


俺がやるべきなのは、環境を整えること、使えるリソースをかき集めることだ。


「白川と、関と、…あと一人」


そこまで考えた後、スマホを取り出すと既に午後3時を示していた。


と同時に、部屋のインターホンが鳴った。


モニターを見るとマンションの受付には見知った姿があった。


「えっ……後藤…?」

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