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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第七章「潜流」

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第87話「再起」

料亭を出た時には、空気がすっかり冷えていた。


白南風の灯りが背後で静かに滲み、夜の空気にはわずかに炭の匂いが混じっていた。


俺はSPとタクシーを呼ぶために、ポケットからスマホを取り出しかけた。


「おい、SP呼ばなくていいぞ。俺もSP適持ちだ。それに車呼んでる。」


関の声が先に飛んだ。


言葉が終わると同時に、黒い公用車が料亭の前に滑り込むように止まった。


ドアが開き、関が顎をしゃくる。


「おら、うちの係の車だ。乗れ。」


半ば押し込まれるように後部座席に座ると、関は助手席に回り込み、運転席の女性に短く声を掛けた。


「突然運転頼んで悪かったな。」


「いえ、係長。ちょうど近くにいましたので。」


女性の声は落ち着いていたが、どこか緊張を含んでいる。


車が静かに動き出す。


エンジンの低い唸りとウィンカーの音だけが、沈黙の中で際立って響いた。


重い空気を破ったのは、やはり関だった。


「……おい佐藤、白川のばあさんの話、聞いてどうだったよ。」


不意を突かれた俺は、少し間を置いて答えた。


「そうですね。通常の捜査では時間をかけてやっと判明するようなことを、住民から直接聞けました。それが単純に、凄いと思いました。」


「そうだ。」


関は窓の外の夜景を見ながら、ぼそりと呟く。


「街を一番見てるのは、そこに住んでる人なんだよ。その目を信じられねぇ警官は、現場に立つ資格がねぇ。」


その言葉に、俺は小さく頷いた。


白川の話が脳裏で蘇る。


深夜のミニバン、ワゴン車、入れ替わる男性従業員。


きっと男性売買オークションの話と深く絡んでいる。


「で、甘南備、見たいか?」


唐突な問いに、俺は数秒言葉を失った。


「……見たいとは思いますが、もうあの事件捜査のメンバーではないですし。」


「違うだろ。」


俺の言葉を聞いて関は静かに笑った。


「住人が不安に思ってることを、『防犯係として見に行くか?』って聞いてんだ。」


その言葉の重みが、車内に沈んだ。


俺は視線を前に向けたまま、短く答えた。


「……はい。行きます。」


関は口元だけで笑い、タバコを一本取り出した。


「そうこなくちゃな。」


関が火をつけようとした瞬間、運転席の女性が手を伸ばし、煙草を叩き落とした。


「禁煙車です。」


関は苦笑して、タバコをポケットに戻した。


「ほらな、こういう時代だ。現場も煙たくなるわけだ。」


車はそのまま池袋の街を抜け、夜の庁舎へと向かった。


「関統括、つかぬ事をお伺いしますが。」


俺がそういうと、関は横眼で後部座席を見た。


「あ?なんだ?」


「昨日、妹さんがいるって仰ってましたけど、私と統括の妹さんはどこかで一緒だったんですか?」


関はめんどくさそうに頭を掻いた。


「俺の妹は関洋子。年は10歳も下なのに、今や階級は俺より上の出来る妹だ。」


「関教官のお姉さんだったんですか!もっと早く教えてくださいよ!」


思わず声が上ずった。


助手席の関が振り返り、面倒くさそうに手を振った。


「教える必要ねぇだろ。俺と違って真面目で堅い女だ。それにお前の大ファンときたもんだ。そんなこと知れたら、余計な気ぃ遣うだろうが。」


「……確かに、そうかもしれませんけど。」


俺は思わず笑ってしまった。


教官として大学時代に面倒を見てくれていた関陽子が、まさか関の妹だったとは。


なんだが、妙な縁を感じた。


関はシートにもたれ、腕を組んだ。


「あいつはお前の事褒めてたよ。男だけどガッツがあって、どんどん成長していったってな。それに刑事を目指して努力を続けた素晴らしい人間だって。」


「……それは、関教官に言われたからです。刑事になると言っても馬鹿にせず、励ましてくれました。あの人がいなかったら、たぶん今の俺はここにいません。」


「だろうな。」


関は短く返し、しばらく黙った。


「……そんな陽子からお前の着任の前に連絡あったんだよ。『捜一から外されてショックだろうから、よろしく』ってな。」


関教官の優しさに思わず息を飲んだ。


関は不意に背もたれから体を起こし、低く言った。


「そしたら、腑抜けた国家資源様が来て俺は目を疑ったぜ。まるで防犯係が警察官じゃねぇみたいな顔して毎日来やがって。まぁ、さっきから多少ましな顔つきにはなったがな。」


その言葉に、俺はただ頷くことしかできなかった。



車が俺の自宅の前に止まり、ドアが開く。


夜風が吹き込み、白南風の残り香がふと蘇る。


関が降り際に一言だけ残した。


「おい。明日、110番(ひゃくとー)の合間縫って見に行くぞ。防犯活動の名目でな。準備しとけ。」


「了解!」


ドアが閉まり、車が走り去る。


遠ざかるテールランプを見つめながら、俺は息を吐いた。


きっと、この異動は捜査とは何なのかを見つめ直す機会だったんだろう。


スマホを取り出し、目当ての番号を探す。


この時間は、彼女はまだ起きているだろう。


電話をかけて半コールで通話がつながった。



「連絡せずにすみません。中村さん。調子はどうですか?」

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