第9話「腕の傷」
石田が腕の傷と言った瞬間、臨場前にちらっと見たファイルで「腕の傷」と記載があったような気がした。
今回の喧騒は単なる偶然か、それとも行方不明の徴候か。
『これは見逃してはいけない部分だ!』と、前世の刑事の感も言っている気がした。
移動中に聴取を続ける間、後部座席の隅で中村が小さくメモを走らせているのが見えた。
彼女は不用意に言葉を発しないが、目は鋭い。
後藤は窓の外を警戒しつつ、無造作に話の梗概を訂正する一言を投げてくる。
要所での連携が、一気に男の不安を和らげる。
本部に戻る前、俺は石田にぽつりと言った。
「ここで話したことは外には話さないから安心してください。あとSPの件はしっかり行政に通報するのが良いと思います。」
「ありがとうございます。本当に…ありがとうございます。」
「最後に、もし次何かあったら遠慮なく110番通報してください。かけるか迷った時はかけてください。」
石田は安心しきった顔でうなずき、被害者支援課の男性とに連れられて行った。
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「Dランク落ちでSPが変わるっていうのは結構あるらしいけど、飛んじゃうとはね」
執務室に戻りると中村が口を開いた。
「まぁ不能なんて守ったところで国益になんねーってもんでしょ!」
あっけらかんと後藤が答える。
「それより、石田の元SPが気になりませんか?」
俺の言葉に後藤は訝し気な表情を浮かべた。
「気になるって、担当変更なんてよくある話じゃねーのか?」
俺は、臨場前に手に取ったファイルの1ページを開いた。
「この男性に付いていたSP、防カメ画像で腕に傷あるんですよ。」
そう言って、中村と後藤の間にファイルを置く。
二人とも食い入るように写真を見ていた。
その時、ゆっくり扉が開き山崎も帰ってきた。
「行方不明の件こっそりまだデータ残ってる防カメ回収しようと思ったが、もっと良い情報が転がり込んだな。」
その顔には少し笑みが浮かんでいる。
「石田の元SPの話ですよね。」
「ああ、石田の元SPがかなり怪しいからここ中心に捜査しようと思ってる。ただ外に出ると余計な注目を浴びる。どうすればいいか考えながら捜査するぞ。」
山崎はそういって、石田の情報が記載された紙を机に投げた。
「参考だが、男性情報検索システム叩いてみたら、不運なことに石田はDランクになる前はBランクで、急に2ランクダウンしているようだ。これで石田の聴取結果はほぼ信用できると考えられるな。」
俺は、病気もなく2ランクダウンが考えにくいのではと思ったが、3人とも気にしていなさそうなので、口に出すのはやめた。
ひとまず、石田が記した“腕の傷”に該当するSP――彼女は一体何者なのか、それを解明しなければならない。
捜査は静かに秘密裡に始まる。




