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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第七章「潜流」

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第84話「『栄転』」

「それでは、本日、池袋署へとご栄転となる佐藤警部補の離任式を始めます。」


そう言われて、部屋の真ん中に立つ。


1か月しか仕事をしてない人間なのに、しっかり離任式をやってくれるところに、少しながら嬉しさを感じた。


「では、佐藤警部補から一言ご挨拶があります。」


全体を見回すと、特務捜査係は一人も居なかった。


山崎、後藤は出張中、中村は内山いまりの取り調べだからだ。


昨日、離任行事には行くと言っていた中村だが、俺が事件優先でとお願いしたのだ。


「佐藤警部補は本日、池袋署勤務を命ぜられました。転勤に先立ち一言ご挨拶申し上げます。」


その一言を言った瞬間、係命免から昨日までのことが一気に思い出された。


「一か月強という短い時間ではございましたが、大きな事件に携わらせて頂き、また大過なく過ごせましたのも皆様のおかげと感謝しております。」


最初は横柄な雰囲気だった中村と後藤と打ち解け、出来る女風の山崎が意外とうっかり屋だったなぁと記憶が具に思い出された。


「また、一年目の若輩に心のこもった指導をいだだき、ありがとうございました。」


LUXEの捜索差押ガサから逮捕まではバタバタで刺激的だったこともかなり昔のことのように感じる。


これまでの人生からしたら、本当に短い期間だったのに、万感胸に迫る。


言葉に詰まりそうになるのを、新天地への決意の顔で押し隠した


「結びとなりますが、皆様と御家族のご健勝ご多幸を祈念いたしまして、離任の挨拶と致します。本当にお世話になりました。」


敬礼した瞬間、拍手が小さく響いた。


それは形式的な音だったが、不思議と胸の奥に沁みた。


それでも、自分で手がけた事件捜査を奪われた喪失感は埋められそうになかった。


---


御厨の計らいにより、公用車で池袋署に着くと、受け入れ要員の女性職員が迎え入れてくれた。


中に入ると、受付では怒鳴っている中年の女性がおり、署員も慌ただしく対応しているようだった。


「すみません。バタついていて。ロッカーに案内します。」


そう言って案内されたのは1畳くらいの簡素な小部屋だった。


鍵付きのロッカーもあり、着替えスペースとしても申し分ない。


「当署の男性は佐藤係長のみとなります。この部屋の鍵とこのロッカーの鍵は確実に管理をお願いします。荷物を置いていただきましたら、生活安全課までご案内します。」


俺がその言葉にうなずくと、持ってきた荷物を適当にロッカーに入れ、扉の鏡でネクタイを直す。


「お待たせしました。ご案内よろしくお願いいたします。」


---


生活安全課の部屋に行くまでにすれ違った女性署員たちは、軽く会釈を返すだけで、どこか探るような目をしている。


「真ん中が生活安全課長席、防犯係は一番右手になります。」


「失礼いたします。」と声をかけて、案内された執務室に入ると、40~50人ほどが居る広い部屋だった。


俺の元に一斉に視線が突き刺さり、「ああ、あの人か。例の。」と、ひとりが言いかけて、隣の職員に肘で突かれていた。


課長席に挨拶をすると、課長が「みんな注目」と声をかけた。


「捜査第一課から“ご栄転”、されたそうです。防犯係長をやってもらう予定の佐藤警部補です。男性だが警大出身だから侮らないように。じゃ、佐藤係長一言。」


そう課長が紹介したため、俺は全体に向き直った。


「本日着任した佐藤と申します。生活安全部門は実習等でも勤務経験がありませんので、皆さまからご教示いただくことが多いと思います。一日も早く戦力になれるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。」


そう言って、敬礼すると疎らな拍手がおこり、皆すぐに業務を再開していた。


「じゃあ、佐藤係長の席はあっちだから」と課長に指さされ、俺は防犯係の席についた。


「改めまして、佐藤と申します。よろしくお願いいたします。」


そう言って、防犯係席で再度挨拶をすると、もう一人の係長である40代後半の女性がわざとらしく椅子を引いた。


「ああ、どうも。統括係長の関陽子せきはるこだ。あんたが廃棄物処理法ゴミ捜索差押ガサで派手にやらかしたって噂の。」


関はそう言うと、刈り上げていた自身のもみあげをなぞった。


ツーブロックに近い短髪と言うこともあり、化粧をしてなかったら男に見えそうだ。


「……ええ、まあ。そうですね。」


「うちは防犯係なんで、事件屋とは勝手が違うから、勘違いしないように。」


冗談めかして言ったつもりなのかもしれない。けれど、空気は笑いを拒んでいた。


その言葉が、俺にとってやけに冷たく響いたからだ。


防犯係は古物や探偵業の許認可事務や、地域の防犯講習の企画運営、DVの対応や、お年寄り等の迷い人の対応が主な仕事だ。


事件捜査とは違った業務であることは間違いない。


俺はただ、うなずいて席につく。


「あ、あと聞いてると思うが、目立つから業務中はSP付かないから。もちろん宿直臨場含めて、な。」


初耳だが、その方がやりやすいことはあるだろう。


「ちなみに宿直班は、俺と同じ八班だ。最初の泊まりは明後日だ。今月は15,23,31だから、予定入れんなよ。」


そう言って、関はパソコンに向かい始めた。


俺の机の上には、昨日日付の防犯講習の資料。


表紙の角は指で擦り切れ、端には誰かのボールペンの跡が残っていた。


「……これが新しい居場所か。」


小さくつぶやき、パソコンを立ち上げる。


画面の奥に映る自分の顔が、思っていたよりも冷静で、それが少しだけ救いに思えた。

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