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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第七章「潜流」

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第83話「御厨葉子:指示」

時は少し遡り、5月12日、午前9時42分。



国家生殖資源庁、長官室前の扉に私は立っていた。


隣には、かつて資源庁に出向していた時の直属上司ラインである福田弥生、秩父真由美が居る。


廊下ですら分厚い絨毯が敷かれ、革靴の音はかけらも聞こえない。


ストレスからか、古傷がある背中がズキズキと痛んだ。


扉が開き、若い女性が「お入りください。」と言い、部屋の中に案内した。


中で待っていた女性は、私より年上に見えるが、艶やかで、威圧感があった。


机上には『国家生殖資源庁長官・刑部正美』と書かれたネームスタンド。


私を含めた3人は姿勢を正し、福田が口を開く。


「本日のご報告の前に、警視庁から刑事部捜査第一課・御厨葉子理事官をお連れしました。この間お話しした、以前警視庁から資源庁へ出向してた者です。」


その声を聞きながら、私はかすかに震える。


刑部は挨拶もすることなく、私を鋭い目で射抜いた。


「プログラム拒否男は、捜査一課から追い出したか?」


私は一拍置き、静かに頷いた。


「はい。佐藤主任は所轄へ“栄転”となります。本日の昼に示達し、明日辞令交付予定です。」


刑部の唇が僅かに歪み、満足げな笑みが現れた。


「よしよし。プログラムを受けないような男はリスクしか無いからな。」


福田が、柔らかな声で続けた。


「それで?抵抗は?」


「人事異動の決裁においては、ありませんでした。」


私は声を整え、淡々と答える。


「警大卒の一年目ですから、女性と同様に研修の一環として地方実務収集に名を借りた転属です。本人には、『男性の受け入れに適した環境が整ったから、別の事案も見てこい』と伝える予定です。」


その報告に、福田の赤い口紅が笑みに弧を描いた。


「ふふっ……完璧ですね。被害届の時はピーチクパーチク囀ってたあの男が、捜査中の事件から締め出されるのはさぞ悔しいでしょうねぇ。」


「男に感情なぞ要らんのだよ。」


刑部は椅子に深く腰掛け、残酷に笑った。


「できるやつだな、御厨。上に立つ器がある。」


「過分なお言葉です。」


「この国の発展には、君のような柔軟な倫理(・・・・・)が要るな。そう、監禁事件は監禁事件としてのみ解決させるような柔軟さがね。」


要するに、『資源庁の関与は無かったことにしろ』という意味だ。


その言葉の本質を、私は正確に理解した。


福田が補うように低く言った。


「結局、倫理も社会通念も、私たちが定義するものですからね。その資源庁にこれ以上の炎上は不要。」


「分かりました。実質、本件は『プログラムを受けない反逆男性』が事件指揮をしている状態です。彼が抜けるため、勝手に瓦解するかと。」


三人の間に、重い沈黙が落ちる。


やがて刑部が、ティーカップを軽く揺らした。


それを見て私が言葉を選び、慎重に発言した。


「あとはその男が所轄で泣いて『やっぱりプログラム受けます』という流れになるかと。女性区に繁華街があるタイプの、治安の悪い警察署にしましたので。」


私の声に、刑部達が声を上げて笑った。


私も合わせて、口元だけで笑みを作ると、退室を促された。


---


『朝の報告会』とやらが始まるため、私だけ部屋を出て、静かな廊下に戻る。


ようやく緊張から解放されたものの、まだ背中の傷の痛みは止まなかった。


絨毯に吸い込まれる足音の中で、私はそっと懐のスマートフォンを取り出した。


ディスプレイは午前9時52分を示していた。


以外と時間が経っていないことに驚いた。


それほど緊張していたのかと。


さらに脇に汗をかいていることに気づき、少しの不快感とともに警視庁の本部庁舎へと戻った。


---


庁舎に戻りすぐに佐藤を呼び出した。


彼の今の刑事人生を終わらせるために。


「御厨理事官、お呼びでしょうか。」


佐藤が私の元まですぐにきた。


額に少し汗をかいており、焦って走ってきた様子がうかがえる。


「佐藤主任、忙しいのにすまない。少しで終わるが、かけてくれ。」


そう言って打ち合わせスペースに座らせ、佐藤と向かい合った。


「で、早速本題ですまないが、明日君に辞令が出る。」


佐藤は一瞬目を丸くしたが、すぐに普段の様子に戻った。


「分かりました。どこにでしょうか?」


「池袋警察署だ。」


私の言葉を聞き佐藤は少し考えを巡らせているようだ。


「それは、併任でしょうか?所属異動でしょうか?」


「後者だ。本来警大卒業者は警部補として実務収集を行うが、佐藤主任はその成績と男性という理由で本部配置になっていた。しかし、それに疑問の声が出てきてね。厚遇すべきではないから、警察署へ実習に行かせろという形になったんだ。」


私の説明を聞き、佐藤は納得したような表情をした。


「それから、池袋では生活安全課の防犯係長と聞いている。それと警察庁からの指示で、池袋では宿直勤務もあるそうだ。……君の処遇を守りきれなくてすまなかった。」


「いえ、お気になさらないでください。生活安全課も宿直勤務も警大実習では経験していないので、しっかり勉強してきます。」


そう言った佐藤は、何でもないような顔をして平然と回答した。


「佐藤主任、LUXEの件から外れることになるのに悔しくないのか?」


私は思わず佐藤に疑問をぶつけた。


「組織の人間ですから。警大入学時点で、自分の思いとは異なる配置もあろうかと覚悟しております。」


「なるほど。警察官として理想的なマインドだ。だから君には、餞としてこの言葉を贈る。『置かれた場所で咲きなさい』と。頑張ってくれ。」


「ありがとうございます。」


そう言うと佐藤は、非常に丁寧に敬礼をし、警察礼式通りに立ち去った。


私にはそれが、なぜか慇懃無礼に見えて仕方なかった。


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