第80話「繋ぎ合わせ」
5月9日、午前9時12分。
警視庁LUXE事件捜査本部。
定例の捜査会議が始まり、今回は俺、山崎、水越、後藤、森下、中村、横峯、他取調官2名に裏付け要員の捜査員3名が参加していた。
「じゃあ定例始めようか。まずは中村主任から、内山いまりの供述内容の連携を。」
山崎の合図とともに、室内の空気が引き締まった。
中村がモニターに供述要旨を映し、話し始めた。
「昨日から今日にかけての内山いまり取調べの結果を報告します。」
[資源庁管理対策官福田弥生の脅迫]
[シーシャバー甘南備大原麻子/薬物流通]
[東京科学大学倉橋和美医師/資源庁許可研究]
[石田翔一は甘南備に連行後、消息不明]
[キーワード:再教育/シーチェスト]
「まず、最重要ポイントですが、LUXEの内部で男性に薬を投与、その後に脳波計でデータを取る治験が行われていたようです。内山は『男性の性格を穏やかにし、精液が潤沢に提供できるような元気な体にする薬』と説明を受けていたとのこと。」
部屋の中の沈黙が一層深くなった。
「脳波データは倉橋和美が解析し、異常が出た被験者は医療目的で移送されていたが、移送担当は甘南備のスタッフとのこと。」
「まさか、それが弁天島か?」
山崎の目が一瞬鋭く光りった。
「それは分かりませんので、続けます。内山は倉橋から『男性に対する再教育』だと冗談めかしく言われていたらしいです。資源庁がそれを公的研究として容認していた可能性があります。」
会議室の空気が静まり返った。
後藤が資料をめくりながら言った。
「つまり、男をより国家資源として便利な形に矯正するってことよね……倫理もへったくれもない。」
「もう一つのキーワードのシーチェストはどういう流れで出来たんですか?」
俺の質問に対し、中村が自信なさげに答える。
「それは、みのりと大原がの会話を聞いていた記憶を思い出したという話で、シーチェストという単語で何か話していたということでした。」
水越が端末を操作し、モニターにスペクトログラムと弁天島周辺の海図を表示させた。
「私が解析したデータ類が示していた弁天島と、内山の証言にあったシーチェスト。この二つが繋がりません?」
水越はそう言って船の断面設計図を表示させた。
そこには船舶の下部分にシーチェストという表記があった。
中村がそれを見て大きな声を出した。
「あ!ここ!私が署で組対の薬物事件捜査してた時、ここに麻薬積んで密輸してたの検挙したことあります!密輸企図者は船舶保有者に気付かれないように運べるので、『パラサイト型密輸』って呼んでました。」
「でも、さすがにここに人間入れるのは無理だろう。」
山崎の意見に、水越が反応する。
「なら麻酔薬みたいなのをここに積んでいるか。若しくは次回の男性売買オークションの拠点が記された地図とかですかね。」
その声に、皆がごくりと息をのんだ。
内山みのりの遺した最後のメッセージの一つ『石田は男性売買オークション会場に輸送。』と言うのを思い出したからだ。
「まぁ行ってみるしかないか。座標のポイントを確認したら、海保に許可が必要とのことだった。もうすでに申請しているから資格は得られると思う。」
次に横峯が口を開いた。
「この弁天島について家族に聞いてみました。あそこは無人島ですけど、昔は資源庁の研究施設があったらしいです。で、うちの家族が写真を撮ってきてくれました。建物には鍵がかかっていたらしいですけど。」
そう言って横峯が何枚かの写真をモニターに表示させた。
少し古びた外観の白い施設がたたずんでいたが、さすがに何の施設かは分からない。
「で、20年くらい前に閉鎖になってるみたいです。でも、最近でもたまに釣り人が上陸することはあるらしいんですよね。」
俺たちは話を聞きながら建物写真を眺めていたが、森下が何かに気付いたようだ。
「あれ、ここになんか書いてありません?」
そう言って森下が指差ししたのは、建物の外壁のかなり下の方、金色の四角いものが映っていた。
「ちょっと画像拡大して鮮明化するよ。」と水越がいい、その金色部分を拡大していく。
すると、『接地極埋設標』という文字と何やら情報が書かれたものが表示された。
「なにこれ?特に意味わかんないし、なにこれって感じだね」
と後藤が言うと、水越がそれを訂した。
「いや、結構大事ですこれ。これってアースの情報です。注目したいのはこの接地種別Aっていう表記。かなりの高電圧が必要な特別な施設って意味です。……例えば電気を使う細胞融合の実験とか。」
「っていうか、一番下に『国家生殖資源庁』って書いてあるよ!!」
後藤が大きな声で水越の説明を遮った。
「ほらここ!ここ!やっぱ弁天島に何かあるんだよ!」
そう言って指を刺した位置には、掠れた文字でかろうじて『資源庁』の文字が読めた。
「では、実際に行く人員を決めましょう。所定の日付は明々後日の22時半です。土地勘のある横峯は確定としても…」
俺の言葉に山崎が反応する。
「そうだな。あとは香川県警の水上警察隊と調整をしていた私と、動きのいい森下と、もう一人くらい欲しいか。あ、佐藤主任は男だから駄目だ。」
少し残念に思ったがそれは仕方ない。
男性が薬漬けにされる場所に行かせること等出来ないという判断だろう。
行くことを諦めた俺が一同を見渡すと、水越が手を挙げた。
「現地でシーチェストに何が付いてるか分からないからね。暗号化されたデータを即時解析する必要あるかもしれないから、私が行きます。」
「助かる。それじゃ確定だな。」
山崎が即座に応じた。
そのやり取りを見ていた中村が、小さく息を吐いた。
「……気をつけてください。内山いまりの供述は、どこまでが真実か、正直分かりかねてます。如何せん話が大きすぎて。」
その言葉に俺は頷いた。
「だからこそ、確かめに行くんですよ。何が出るか、事実にどこまで近づけるのかを。」
「そうだな!よし!横峯、水越、森下、準備に入れ。明日の午後には出発するぞ。」
「え?後藤って名前が聞こえなかったけど?あたしも行くよ!」
と、本気で言ったであろう後藤の発言に、皆が声を揃えて笑った。
会議室の時計が午前10時を指し、山崎の指示で会議は幕を閉じた。




