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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第六章「山羊」

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第76話「捏造報道」

【警視庁本部 広報室(※三人称視点)】

5月6日、午前9時。


警視庁本部の広報室に、慌ただしい足音とキーボードをたたく音が満ちていた。


壇上に姿を現したのは、刑事部長の錦霞、捜査第一課長の竹村松子、同課理事官の御厨葉子だった。


表情は硬く、事務的な原稿を手にしていた。


記者クラブへの事前連携は「電子計算機損壊等業務妨害および監禁事件の公表」とあった。


「それでは本日の発表を行います。」


錦は一呼吸おいて、淡々と読み上げた。


「本年4月下旬、国家生殖資源庁より電子計算機損壊等業務妨害の被害届が提出されました。所定の捜査の結果、資源庁が保有する男性管理データベースに対し、不正アクセスおよびデータの不正更新が行われていたことが確認されました。実際の更新操作をしたアカウント所有者が資源庁総合管理局システム企画課の職員、内山みのり(30)であることを特定しました。」


記者たちが一斉にざわめき、激しくキーボードが叩かれる音が再び鳴り響いた。


「当庁は、内山みのりを本日付で被疑者死亡で東京地方検察庁へ送付いたしました。被疑者につきましては、捜査員が自宅へ赴いた際に死亡を確認しており、現在のところ自殺の可能性が高いと判断しております。」


錦は原稿をめくり、続けた。


「また、別件として、内山みのりの姉・内山いまり(32)を首魁とする男性監禁事案を4月29日に検挙しました。被疑者は4名であり、それぞれ内山いまり(32)、毒島霧子(36)、緑川ひなみ(26)、桜木真冬(30)です。被疑者らは、投資名目で男性に借金を背負わせて抵抗する意思を奪ったうえ、全寮制の違法風俗店に勤務させ、女性客らに性的サービスを強制させていた疑いがあります。」


記者たちのざわめきが一層大きくなった。


「当庁としては、被害者とされる男性が風俗店で強制的に勤務させられる直前に、繁殖適格判定、通称精液ランクが降格しており、内山みのりの電子計算機損壊等業務妨害との関連があるのかを、現在も慎重に捜査しております。」


錦は原稿を置き、一礼をして席に座った。


「「「質問いいですか!」」」


記者達が一斉に手を挙げる。


広報課の職員は、順に指名しマイクを渡す。


「監禁していた違法風俗店はどこのなんという店ですか?」


「新宿区島原にあるPrivate Reproduction Salon - LUXEという店舗です。表向きは準合法セクターとして営業届が出ておりました。」


「4名の被疑者の関係性は何ですか?」


「違法風俗店のスタッフです。彼女がどのような知り合いだったかは捜査中です。」


「内山姉妹は違法風俗店を経営するために“ランク改ざん”を行った、そう理解してよろしいですか?」


一人の質問に錦は眉をひそめ、短く答えた。


「そうは答えていません。関連については現在、捜査中につき、詳細は控えます。」


そう言って軽く会釈し、壇上を降りた。



【警視庁本部 LUXE捜査本部(※佐藤視点)】


午後の捜査会議を終えた頃、執務室の片隅でつけっぱなしのテレビから夕方のニュースの声が響いた。


『資源庁職員の女、職務上の機密データを改ざんか!?』


『被害者男性は、自分の社会的ランクを操作され自暴自棄に――』


『一方で姉妹による男性監禁・違法風俗斡旋も発覚!資源庁職員の闇とは?』


画面には、内山みのりの顔写真と<自殺か>という見出し。


そしてテロップの下には、まるで確定した事実のように


<不正にランクを改ざんした上で、詐欺被害者の男性を監禁>という文字が流れていた。


「……ふざけんな。」


佐藤はテレビのリモコンを握りしめたまま呟いた。


警視庁の発表では捜査中としか言っていないにもかかわらず、報道はあたかも確定事項のように編集されている。


「まだ何もわかってないのに……。」


横でコーヒーを啜っていた水越が肩をすくめた。


「記者は事実より“絵”を撮るからね。数字になるし、自分たちが世論を動かしてると勘違いしてる。」


「……人の人生を数字にしてるゴミが。」


怒りを抑えきれず、つい口調が荒くなる。


「すみません、少し出てきます。」


そう言い残し、俺は庁舎の外に出た。



『自殺』という二文字が、事件の全てを曖昧にしていくような、そんな感覚が胸を刺した。


死は最大の証拠隠滅だ。


被疑者死亡で書類送付、その後不起訴。


以後、同件を捜査すること等無い。


しかし、内山みのりは俺たちに何かを伝えようとしていた。


本当に自殺だったのか。


俺たちはなぜ強制捜査にもっと早く踏み込めなかったのか。


春先のやわらかな風が頬を撫でる。


だがその温かささえ、胸の奥に沈んだ怒りと無力感をほどくことはなかった。

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