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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第六章「山羊」

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第75話「驚愕」

5月4日、午前7時22分。


俺、山崎、後藤、森下、それに応援の捜査員4名を加えた計8名で、内山みのりが住む資源庁の単身者住宅の前に到着した。


玄関前には報道陣が群がり、脚立を立て、レンズを構えながら互いに押し合っていた。


後藤がハンドルを叩き「なにこれ、邪魔すぎるんだけど!」と叫んだ。


運転していた後藤を見ると青筋を立てているのが分かった。


報道機関が警察車両を見つけた途端、レンズが一斉にこちらへ向けられた。


「全員、そのままだ!管轄署と連絡を取るまで降りるな!佐藤は屈んで、絶対姿見られるな!」


山崎の声が車内に響く。


全員、無言のまま視線だけで状況を確認し合った。


後藤が車をUターンさせ、俺たちはいったん現場を離れた。


---


そこから1時間ほど経ち、管轄署の地域課員によって入口が確保され、ようやく俺たちは内山みのりの玄関に着いた。


警備会社から借りたマスターキーを差し込み回すと、金属が擦れる乾いた音がした。


山崎が先行して入り、俺たちは後に続いた。


カーテンは閉ざされ、埃の匂いとこもった空気が喉に重くのしかかる。


嫌な胸騒ぎがした。


「……内山みのり、警察だ。出てこい。」


山崎がそう言いながら部屋の奥に進んでいく。


リビングと思われる扉を開けた瞬間、山崎の声が弾けた。


「誰か刑事課呼べ!他のものは手伝え!」


山崎の怒鳴り声が、勢いよく玄関の外にまで突き抜けた。


一番入り口に近かった捜査員がそれを聞き、すぐに理解して踵を返した。


ドアの隙間から覗いたリビングに、ひとつの影が、宙に、静かに揺れていた。



俺は思わず一歩、踏み出した。


ドアの隙間から差し込む光が、その影をゆっくり照らしていく。


首元に食い込んだ紐。


足元には倒れた椅子と、スマホにノートパソコン。


スマホの画面には『国家資源は人間だ!内山は恥を知れ!』、『内山っていうのクズ過ぎる。死んでほしい。』、『文書出すだけで記者会見すら開かないのおかしくね?内山さらし首にして謝罪だろ。』等、資源庁と内山みのりを糾弾するSNSで溢れていた。


後藤と森下が宙づりの遺体を支え、他の捜査員と共に慎重に床へ降ろした。


山崎はすぐに検視官を呼び、臨場を要請した。


それが終わると、床に横たわった内山みのりと思われる体の眼球や縊溝を確認し、呟いた。


「……自殺か。」


その声には、確信よりも戸惑いの色が濃かった。


現場保存のため、俺たちは一度外に出て、管轄署の刑事課を待っていると、資源庁の徽章をつけた人物が現れた。


つい最近も見た顔、資源庁の祖母井課長と望月が、内山の部屋の前まで来た。


「あれ、警視庁さん。どうしてこんなところに?」


白々しく祖母井が山崎に話しかけた。


「あなた方が出した被害届について捜査した結果ですよ。これから内山とお話しするところです。」


そう言って山崎は祖母井を睨んだ。


「そうでしたか、ですがそれは叶わないのでは?我々は内山が自殺したと聞きここに来ました。そこをどいてもらえますか?」


顔色ひとつ変えずに言う祖母井に、山崎は驚愕の表情を浮かべた。


それを気にせず、祖母井は部屋に入ろうとドアに手をかけたため、俺が静止した。


「いえ、我々の確認が先です。立ち入るのはやめて頂きたい。」


「国家資源の分際で、犬の真似事か。……一人前の口を聞くなよ。ここは資源庁の建物、施設管理権は我々にある。邪魔だ。」


そう言って俺を払い除けようとする。


「残念ながらこちらには捜索差押許可状もあります。強制処分を妨げるのであれば、公務執行妨害になりますよ。」


俺の言葉に祖母井は舌打ちをして、後ろに下がった。



やがて、刑事課の応援と検視官が現場に到着した。


庁舎前の報道陣がざわつき始め、黄色い規制線の外から、無遠慮なフラッシュが何度も焚かれた。


「記者ども、うざったいな……」


後藤が低く呟く。


山崎は腕時計を確認し、淡々と検視官に声をかけた。


「じゃあ確認をお願いします。私たちは周辺の捜索に入ります。」


検視官は無言で頷き、内山みのりの身体を慎重に確認していく。


首の縊溝、鬱血、死斑、瞼、温度そして足元に散らばる紙片。


やがて検視官は静かに言った。


「部屋の状況を踏まえても自殺とみて間違いないでしょう。」


山崎は小さく頷き、俺たちに指示を出す。


「よし、捜索差押えに着手だ。署の邪魔するなよ。立会人は施設管理権を考慮して望月さんにお願いしよう。」


珍しくキビキビと指示をする山崎に少し頼もしさを感じた。


「では後藤部長は玄関側を。森下さんは寝室を。私がはリビングをやりましょう。他の方はそれぞれに付いてください。」


皆が頷いたのを確認し、俺はテーブルの上にあるノートパソコンを開いた。


電源がつけっぱなしのノートパソコン。


そのデスクトップに『遺書.docx』というファイルがあった。


念の為ファイルを開こうとすると<ファイルが破産しています。復元しますか?>と表示された。


<はい>ボタンを押下すると、<さよなら>と一言書かれていた。


俺はそれを見ると、パソコンをそのまま消して押収した。


水越なら内容が確認出来るだろう。


そのとき、森下の声がした。


「佐藤主任、コレ……引き出しの奥にありました。」


後藤が差し出したのは、銀色の金属プレートが2枚。


プレートには刻印があり、並んだ英数字が不規則なパターンを描いていた。


「……何だかわかりませんね。パスワードとかですかね?」


「一枚目と二枚目、で刻印されてる文字が違いますけど桁数は同じですね。念の為押収で良いですか?」


「お願いします。」


森下がプレートを丁寧に押収用の封筒に入れた。


森下が持ち場に戻ったため、俺はふと部屋に置いてあった大きな観葉植物の鉢植えの裏を見た。


前世で一度、大きな家具の裏にキャッシュカードが貼り付けてあったことがあるからだ。


壊さないようにそっと鉢植えを動かすと、その裏には『VoiceMemo』と書かれたSDカードが貼り付けてあった。


隠されていた状況を写真で保全し、そっと封筒に仕舞い込んだ。


捜索を再開すると「佐藤ー、ちょっと来て」と後藤の声が聞こえた。


「これ、靴の中に入ってたんだけど」


そう言いながら後藤が差し出したのは、小さなメモ用紙だった。


そこには「甘南備」と書かれた文字と、緯度経度らしき数字が並んでいた。


「……甘南備って書いてありますけど、池袋の店舗の座標じゃなさそうですね。」


「あんた見ただけでわかるの!?」


「東京はだいたい北緯39東経139ですから。それと数字が違うなと思っただけですよ。」


後藤が「ほー、じゃ一応押収ね」と返事をした。


その後は恙無く捜索は終了した。


記録係がつけた押収品目録交付書を望月に渡し、俺たちが部屋を出た。


その時、祖母井が廊下で腕を組み、こちらを見下ろすように笑っている。


「押収ですか。ずいぶんと熱心ですね。まるで何かを探しているようだ。」


山崎は眉をひそめ、低く言い返した。


「我々は事実を確認するだけです。私個人としては、あなたが朝からここに来た理由の方がきになりますけどね。」


祖母井の笑みが一瞬だけ消えた。


「当然でしょう。彼女は私の部下、それだけですよ。」


そう言い残し、何事もなかったように背を向けた。


だがその瞬間、山崎が小さく呟いた。


「……内山みのりは本当に自殺?」



腕時計の針は、すでに午後一時を回っていた。


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