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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第六章「山羊」

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第69話「名刺」

廊下を抜けて執務室に戻ると、蛍光灯の光がやけに白く見えた。


机の上には、山ほど報告書が積まれている。


七瀬の言葉が、まだ胸の奥で反響していた。


そんな静寂を破るように、廊下の向こうから大声が響いた。


「おつかれー(さまです。)」


大きな声とともに、扉が開く。


入ってきたのは後藤と森下だった。


「お疲れ様です。」と声を掛けると、後藤は椅子にどかりと腰を下ろし、ペットボトルの水を一気に飲み干した。


「支援課の連中、相変わらず堅いのよ!被害者聴取の男に話す隙すらくれない!『ウチの優秀な男性の書類が信じられないのか』って、こっちが悪者扱い!」


森下が苦笑いを浮かべて補足する。


「……まぁ、支援課の男性は被害者のメンタルケアと聴取を仕事にしてますから、精神に負担が来るんだと思います。他部の女との接触に神経質になってるみたいです。」


この世界では男性被害者の取り調べは被害者支援課に勤務する男性職員が担当する。


そのため、被害者支援課の男性達は特にメンタルケアに重点を置かれている。


取り調べが甘いと、男性職員に面と向かってケチを付けたら、翌日から出勤拒否になったという噂すらある。


「それでも限度があるの!こっちだってしごとなのに!」


後藤が机を指で叩く。


「雑談でも、表情でも、聞き取りの端々にヒントがあるって事件やったことないから分かんないのよ!こっちはそこから捜査が進むことだってあるのに!」


俺は少し笑って言った。


「落ち着いてください。調書だけでも持ち帰れたんでしょう?」


後藤は舌打ちを一つして、紙の束を机に投げ出した。


「全部で6通。被害者がいの3人全員が口を揃えて投資話からの違法風俗落ちだよ。それぞれ1通目が監禁事実について、もう1通がランク降格から詐欺までについてだね。」


俺は渡された調書をざっと流し見ると、添付資料に名刺が付いているものがあった。


名刺には『国家生殖資源庁 総合管理局 システム企画課 係長 内山みのり』とあった。


この調書の供述人は北村南人、確か山崎が持ってきた行方不明者で一番年上の男だ。


「後藤部長、北村の調書だけ内山みのりの名刺ついてますけど、これは何ですか?」


後藤は笑いながら答えた。


「流石、あんた気づくの早いね。北村は男とはいえ社会人10年もやってるからね。そういうの取ってたみたいよ。」


「そうじゃなくて、何故みのりの名刺が?」


惚けて答える後藤に、思わず食い気味に質問してしまった。


「北村は投資とかに疎そうな毒島の誘いに違和感があったみたい。難色を示したら、『投資システムを担当しているのは資源庁のこの人だ』と言って、みのりの名刺を差し出されたらしいよ。」


「みのり承諾済み何ですかね。」


「さぁ?事後報告かもしれないし、そもそも自分が渡した名刺なんて管理しきれないでしょ。」


後藤の言葉に、森下が小さく眉をひそめた。


「でも、資源庁係長の名刺を詐欺の証明書みたいに使われてたとしたら……組織的関与と言えますよね。」


「そう。でもそれは可能性がある程度のものね。司法で要求される蓋然性の高さは無いわね。」


中村が冷静に答えた。


俺は北村の調書を読み直すと、彼が名刺を受け取った後、すぐ投資を始めたことがわかった。


使われたシステムは『こーくばぐず君β』、利回りは週1.2%……典型的なポンジスキームだ。


「最初の振込先と、1発目のリターン振込元はどちらも『こーくばぐず』ですね。つまり、七瀬さんが言ってた外注3社の一角。」


俺の言葉に山崎が頷いた。


「詐欺で集めた金もLUXEの収益と同様にNPO経由で甘南備へ……ということか。七瀬係長の言う通り、流れを担保するための人の捜査がいるな。」


中村が口を開いた。


「これが資源庁の息がかかったポンジスキームというなら、資源庁の関与が名刺一枚のはずがありません。どこかに足跡があるはずです。」


その言葉で俺は思い出した。


「まず、調べるべきは桜木真冬、緑川ひなみ。その次に内山みのりです。倉橋和美はその二人の話を聞いた後の方が良いでしょう。」


「ちょっと待ってよ!説明足りない!」と後藤が叫び、中村がその声に応えた。


「現場で桜木は誰かからLUXEが保有する何かのデータの改ざんを指示されていたのよ。で、その実行をしたのが緑川。」


そう、しかしそれは推論の域を出ない。


「……でも、彼女らを動かした証拠がない。指示系統を示す物理的証拠がなければ、取調べは意味をなさない。」


俺の言葉に皆が黙った。


桜木も緑川も、証拠がなければ話さないだろう。


答えはまだ、誰の口からも出てこない。だが、沈黙の奥で、何かがこちらを見ている気がした。


山崎が椅子から立ち上がり、ファイルを閉じた。


「よし。明日は勾留質問で桜木も緑川も身柄は地裁だろう。明後日からきっちり取り調べをするぞ。内山みのりの身柄を抑える準備をしつつ、取り調べに備える。倉橋はその後だ。」


「「「「了解」」」」


その声が部屋の壁に反響した端で、無音で点いていたテレビ画面。


そこには<資源庁、男性DB改ざん問題で警視庁に被害届を提出!>というニュースが繰り返し流れていた。


しかし、俺を含めて気付くものはいなかった。



蛍光灯の光が、微かに揺れた。


まるで、これから何かが剥がれ落ちる前触れのように。

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