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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第六章「山羊」

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第63話「第二母親」

「私と佐藤主任は倉橋を追う。中村主任に負担かけて悪いが、内山の取り調べを継続しつつ、監禁事件のまとめも頼めるか?人が必要なら御厨理事官に言ってくれ。」


山崎の過酷な指示に、中村は眉一つ動かさずに頷いた。


「激務には慣れてますから、問題ないです。」


「よし、なら後藤と森下にはLUXEの営業実態の裏付けをさせよう。二人には私から指示しておく。」


山崎がそう言ってスマホを取り出してメッセージを打ち始めた。


「係長、金の捜査は捜査第二課ざいむはんの方が、はかが行くでしょう。現場封鎖班に居た的場瑠月巡査部長を借りれないか交渉してください。彼女なら全体会議出てますし状況把握してるでしょう。」


俺の追加人員要求に、山崎は「わかった」と一言だけ返した。


「さて……佐藤主任、行こうか。国立男性総合病院新宿へ。」


山崎がスマホをポケットに戻し、上着を羽織った。


「え?やっぱりメンタル検査しないとダメですか?」


俺がとぼけたように言うと、山崎は目尻を上げた。


「大丈夫そうだから検査は不要だ!倉橋のこと聞きに病院行くんだ!」


「いや、それなら病院は行っちゃダメですよ。」


「えっ!?」


一瞬、空気が止まった。


---


「なるほどなぁ、こういうルートは考えてなかったよ。流石佐藤主任だ。」


そう言いながら山崎は、東京科学大学の卒業生名簿と、倉橋和美の戸籍謄本をパタパタと仰いだ。


「倉橋を調べるのに資源庁や病院に乗り込むのは、組織ぐるみだった場合に捜査がばれますから。その点、大学や自治体は手を回すのが遅くなりますから、気づかれにくいです。」


「そうだな。しかし、倉橋は優秀だな。医学部医学科なのに国試対策の傍らで卒論まで執筆してるとは。」


横目で山崎を見ると、『男性の生殖本能の強さと脳波パターンの相関分析』と書かれた書類が見えた。


「『男性の生殖本能の強さと脳波パターンの相関分析』……タイトルだけなら神経科学の範疇ですが、流石に香ばしいですね。」


思わず口に出すと、山崎が小さく笑った。


「私は研究のことなんて全くわからん。ただ、問題は、この研究の被験者がどこから来たか、そして資源庁に倉橋が採用された理由だな。」


俺はハンドルを握りながら黙って頷いた。


大学の研究資料のコピーには、『男性被験者:42名(提供元:国家生殖資源庁・協定第11号)』と小さく記されていた。


「これを見る限り、大学時代から、すでに資源庁と繋がっていたことになるしな。」


「そうなりますね。しかも、この第11号協定は公になっていないものです。調べても出てきません。協定内容の確認を大学に依頼したら流石に捜査が漏れそうですね。」


俺の言葉に、山崎の声が低くなった。


「推測すると、資源庁の非公式研究提供ルート。倉橋は、医師になる前から資源庁に選ばれてた可能性がある。」


窓の外では、昼の光がぼんやりと霞んでいた。


俺は運転をしながらある違和感を覚え、路肩に停車した。


「……係長、倉橋の戸籍、附票も含めてちょっと見てもいいですか?」


「ほい。急にどうした?」


山崎から書類を受け取り、生年月日、出身地、両親の名、居住地の変遷等を目で追う。


一見、何の変哲もない戸籍だったが、元第二母親の欄、大原芥子という名前に目が留まった。


この国では、血縁の親を実母、実母のパートナーを第二母親と呼ぶ。


同性同士が生活・経済・子育てを支え合う『共同生活契約制度』によって成立する関係だ。


「倉橋の実母と離縁した元第二母親の大原って……まさか。」


俺が呟くと、山崎が顔を上げた。


「住田の元SPの血縁者か?」


「行方不明になっている住田のSPに繋がる可能性はあります。大原芥子の現年齢は63歳、大原麻子が子どもの説もあり得ますね…」


「大原芥子か……誰なんだろうな…」


山崎は腕を組んで顎を擦った。


「Webで今調べたところ、PMDAの審査センター長に名前がありますよ。」


「PMDAの審査センター長……つまり、医薬品の安全性を最終確認する立場か。」


山崎の返事に俺は頷いた。


ちなみに、PMDAとは厚生労働省所管の独立行政法人『医薬品医療機器総合機構』のことだ。


「しかし、直接資源庁に繋がるものではないな。国の仕事をしているという共通点しかない。」


車内に沈黙が落ちた。


助手席に積まれた資料の束が、わずかに車の揺れでずれる。


紙の擦れる音が、妙に耳に残った。


沈黙を破ったのは山崎のスマホだった。


「はい。山崎です。……えっ…は、はい……本当ですか?」


山崎が何やら焦っているように感じる。


「あ、外ですがすぐ戻れます。…はい、夕方4時ですね。わかりました。…はい、気を付けます。」


山崎が通話を切り、深いため息をついた。


「係長、誰からですか?」


険しい表情が張り付いている山崎に尋ねた。


「御厨理事官からだったよ。で、理事官が資源庁に出向していた時の担当上司から連絡があったそうだ。」


「まさか、データベースの再編絡みですか?」


ただ、資源庁のデータベースの件はすでに炎上しており、警察は関係ないような気がするが。


「そのまさかだ。資源庁の監査部の聞き取り調査で、みのりは『精液ランクの改ざんをした。理由は、SPの姉が男性から暴行を受け、精神的に壊れていくのを見ていられなかった』と白状げろったらしい。」


山崎がこめかみを抑えながら続けた。


「資源庁もそれは看過できないと、『電子計算機損壊等業務妨害罪』で被害相談をしたいと連絡があったそうだ。で、今日の16時に国家生殖資源庁様の総合管理局長とシステム企画課長が来るから同席するように、と。」


「今回の事件に絡むからウチが受けろってことですか。」


俺の言葉にやれやれといった表情の山崎が頷いた。

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