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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第五章「X」

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第53話「令状請求」

4月29日 午前3時34分。


内山の逮捕から15分程が経った。


俺は橋本陽太、北村南人、丸山義春の聴取を終え、救護班へと引き継いだ。


現場でまとめた報告書を確認していると、背後から森下の慌ただしい声が飛んできた。


「佐藤主任! 車、準備できました!」


「ありがとうございます。すぐ行きます。」


紙を綴じ、LUXEを後にした。


廊下を歩く途中、森下がぼそりとつぶやく。


「後藤部長の目が血走ってるんで、安全運転でって言って頂けると嬉しいです。」


「無事故無違反は大事ですからね。任せてください。」


俺の言葉に森下は少し安心したような顔つきになった。



外に出ると、夜風が肌に刺さるように冷たい。


後藤は街灯の下で腕を組み、眠気を飛ばすように缶コーヒーを一気に飲み干していた。


「お待たせしました。では、法定速度ガン無視の緊急走行きんそうでお願いします。」


森下が「さっきの話と違いますぅ」と小声で言った。


「仮にも監督責任を持つ警部補の口から出るセリフ!?」


後藤はそう突っ込み言いつつ、運転席に飛び込み、アクセルを踏み込んだ。


車体が低く唸り、街灯が流れていく。速度計の針は一瞬で100を超えた。


「まさか、こんな時間に追加で逮捕状おふだ取りに行くとは……ほんと、あんた狂ってるよ。」


「でもこれが無いと、毒島霧子、緑川ひなみ、桜木真冬、あの三人の身柄、確保できませんから。」


後藤は笑いながらも、目だけは真剣だった。


「……あんたのそういう熱さ、嫌いじゃない。もう慣れたけどな。」


「後藤部長って、人を褒めることあるんですね。」


「うるさっ。」


一瞬だけ、車内に静寂が落ちた。


その沈黙が、夜の街よりも濃く感じられた。


---


午前4時。


簡易裁判所の玄関前では、山崎係長がコートの襟を立てて待っていた。


目の下には深いクマ。缶コーヒー片手にこちらを睨む。


周りには捜査車両が3台、エンジンをふかしていた。


「やっと来たか。佐藤、追加報告書あるんだろ?」


「はい。これです。じゃあ中に行きましょう。」



森下を車に置き、三人で庁舎へ入った。


夜明け前の庁舎は、不気味なほど静かだった。


蛍光灯の唸りだけが、規則的に時間を削っていた。


俺たちは、令状請求書を受付に並べる。


受付の「お預かりしますので、待合室でしばらくお待ちください。」という声で、待合室へと移動した。



裁判官の審査を待つ間、自然と情報共有が始まった。


「男性三人の供述、どうだった?」


山崎が椅子に座るなり俺に尋ねてきた。


「全員同じです。投資話の誘いを元SPから受けて、精液提供の頻度が高いから失敗しても大丈夫だ、と。詐欺か金商法違反かはまだ判断つきませんが。」


山崎は口に手を当てながら頷いた。


「営業マニュアルみたいな物は見つかったか?」


「まだ、捜索差押ガサ中ですから分かりませんね。金の流れも取れて無いんで、詐欺でいけるか分かりません。」


山崎が顎に手をやり、眉を寄せた。


「店舗運営絡みは?」


「直罰規定のオンパレードですよ。パッと思いつくだけで強要、売防法の管理売春、国家資源毀損、交配権等管理法違反、男性保護義務法違反、精液採取適正化法違反、といった感じです。」


俺の言葉を受け、山崎が深い深い溜め息をついた。


「……地検、こりゃ相当頭抱えるな。」


「いや、一時捜査権はウチですから。向こうの悩みはこちらの悩み。一蓮托生ですよ。」


俺の言葉に山崎は恨めしそうにこちらを向いた。


「ほーんと、佐藤主任は眩しいくらい前向きだな。私と交代して係長やってくれない?」


確かに、山崎は指揮能力がそれほど高くは無い。


「現場ひと月の新人ですよ。係長の胃痛までは引き継げません。」


山崎は苦笑した。


冷めた缶コーヒーを見つめながら、山崎がぼそりとつぶやく。


「……正念場だな。」


俺が相槌を打とうとした瞬間、無線のイアホンから怒号のような声が聞こえた。


『佐藤!今どこだ!?緑川のとこに怪しいデータが飛んでる!』


桜木班の古賀からの無線だった。


「え、どういうことですか?」


『水越からメッセージ送らせるから!』


そう言ってぶつっと切れた後、俺のところに水越からメッセージが届いた。


俺たちが水越からのメッセージを確認していると、廊下の奥から事務官が走ってきた。


「捜一さん、裁判官がお呼びです。」


呼ばれた部屋に入ると、老齢だが品のある裁判官が座っていた。


「座って下さい。お急ぎでしょうから手短に2つほど確認を。」


促されるまま、俺たちは席についた。


「1つ目、証拠隠滅の虞とありますが、客観資料はありますか?」


裁判官のメガネの奥の瞳が、光の反射で一瞬だけ刃のように見えた。


俺はタブレットを開き、水越に依頼しておいたデータ削除画面を表示させた。


「我々がLUXEを捜索中にwinterというアカウントがリモートワイプという完全削除を実行し、現実に15%のデータが復元不可能な形で消失しました。」


裁判官は画面を指でなぞるように確認し、頷いた。


「では、2つ目、資源庁の一時カードを悪用したサービスをするため、男性を監禁したとありますが、現在報じられてる資源庁のニュースと関係ありますか?」


さらに裁判官の目が鋭くなった。


これは、威圧なのか、単純な興味なのか。


「公平、公正な裁判官の判断が、俗世のニュース一つで揺らぐものなのでしょうか?」


俺の回答に、山崎と後藤の顔が青ざめた。


質問に質問で返した上、裁判官を貶したと勘違いしたのだろうか。


「なっ、おぁっ、馬鹿!!裁判官すみません!こいつまだ一年目なもので!すみません!!」


「あんた何いってんだよ!!裁判官すみません!!」


しかし、裁判官は急に表情が柔らかくなった。


「ふふっ…気にしませんから、大丈夫ですよ。」と言いながら手で静止した。


「あなた、昔の警察官のように気概がありますね。捜査機関は私達裁判官に遜りすぎだと思っていました。裁判官一人一人が独立した司法機関とはいえ、一人の人間ですから、判断が揺らぐことも少なくない。」


そう言いながら裁判官は少し俯いた後、再び俺に向き直った。


「だから、あなたの指摘は正しい。本来提出された資料のみで判断すべきところを、ニュースの関与を聞くなんてね。ただ……」


裁判官はゆっくりと眼鏡を外し、机の上に置いた。


「私たちは安易に印鑑を押すわけにはいかない。あなた方の感覚よりも私達の法的拘束力は社会的に強いものですから。それでも、これがニュースの件を悪用し、国家資源を傷つけたというなら、現時点で関与が確定しなくても印を押す必要がある。それだけです。」


静かな声だったが、重く響いた。


後藤と山崎は息を詰め、俺は黙って頷いた。


「現時点ではわかりません。しかし被害男性は全て元SPからの投資話に了承した後に精液ランクが降格しています。件のニュースを悪用した蓋然性は十分有ります。」


数秒後、裁判官は書類に目を落とし、後ろの棚に置いていた令状を差し出した。


「試すような真似をしましたね。実はもう令状は出来ていました。どうぞ、これを発付します。3名の逮捕状、および関連施設への捜索差押許可状になります。」


俺は差し出された令状を受け取り、部数を確認した。


「ありがとうございます。」


俺が深く頭を下げると、裁判官は柔らかく笑った。


「礼は不要です。夜は明けますが、あなた方の捜査はまだまだ続くでしょう。」


---


庁舎を出た瞬間、夜気が肺に突き刺さった。


東の空がわずかに白み始めている。


「やれやれ、胃が痛い。」と山崎がぼやき、後藤が缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れた。


俺は、令状を受け取りに来ていた車に乗った捜査員を集め、必要なものを配布していく。


配布が終わり、それぞれの捜査員に対して山崎が指示を飛ばす。


「これから身柄を抑える!みんな頼むぞ!」


その声にこたえるように返事が大きく響き、3台の捜査車両がそれぞれの場所へ向かった。

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