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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第五章「X」

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第51話「中村英子:現行犯逮捕」

捜索差押が始まって15分ほど経っただろうか。


内山はいまだ椅子に座ったまま、足を小刻みに震わせていた。


視線は時折、天井の方を泳ぎ、落ち着かない。


気にしているのは、五階に行った佐藤たちの動きだろう。


そのとき、佐藤からの通話が来た。


『中村主任、五階に男性三名の生存を確認。全員、部屋の外から南京錠。監禁の構成要件満たしてます。現行犯逮捕げんたいいけます。』


「了解」


私は短く返事をし、通信を切った。


橋本の供述が真実だったことに胸が締めつけられる。


彼らを助けられるのに、半月も待たせてしまったのだ。


「内山いまりさん。LUXE五階で男性三名を監禁していたことに間違いありませんね?」


内山がハッと顔を上げ、目が泳いだ。


額に浮かぶ汗がこめかみを伝い、彼女は虚勢を張るように笑う。


「は?何言ってるんですか。防犯対策ですよ、防犯対策。うちのスタッフはイケメン揃いなんでね。」


「部屋の外から南京錠で施錠するのは、防犯とは言いません。」


私は声を抑え、鋭く続けた。


「被害者三名とも、自分の意思で部屋にいたわけではないと訴えています。いずれもLUXEの男性セラピスト、橋本陽太、北村南人、丸山義春。あなたが運営者ですね?」


沈黙。


内山の喉がひくりと動いた。


爪が膝を掻き、震える息が室内の空気を震わせる。


「内山いまりさん」


私は一歩踏み出した。


「4月29日午前3時18分、あなたを監禁罪の現行犯で逮捕します。」


そう言って内山に手錠をかけた瞬間、空気が変わった。


内山は抵抗もせず、糸が切れたように崩れ落ちた。


床に涙の音が落ちる。


「これより監禁罪の逮捕現場における捜索差押に切り替える。午前3時19分着手!」


私の声と同時に、部屋の空気が爆ぜた。


捜査員たちのブーツの音、紙袋の擦れる音、シャッターの閃光。


これで進まなかった捜索差押現場が、一気に戦場に変わる。


監禁罪に切り替えることで、廃棄物処理法に関連しないもの、つまり男性に関する全てを押収可能となる。


御厨理事官が教えたウルトラC(秘策)を、佐藤は自分で導き出していたことになる。


「……これで同じ警部補か」


私は思わず、息を吐いて呟いた。


佐藤の判断の速さ、冷静さ、さらに場慣れ感は、時に怖いほどに感じていた。


私が情を抑え、法に従おうとするほどに、彼はまっすぐに『警察官としての正義』を形にしていく気がした。


使命と現実的手段のバランスを取るのが抜群に上手く、まさに理想の刑事だった。


「……負けてられないな。」


私には私の職責と任務がある。



床に座り込んだ内山と視線を合わせるため、私は膝を折って話しかけた。


「内山さん、あなたの取調べを担当する中村です。とりあえず椅子に座りましょう。」


私の指示に内山が従って、椅子に腰かけた。


内山の肩が小刻みに震えている。


強がっていた仮面が、ようやく剥がれたのだろう。



ここからが本番だ。


「改めて、私は警視庁捜査第一課の中村英子と言います。内山さん、あなたの事も教えてください。」


「……」


内山は俯いていて全く答えようとしない。


話す気が無いという意思を強く感じる。


これまでの経験から、こういう時は北風と太陽方式がいいはずだ。


「このお店、デザイン家具でまとまっててお洒落ですよね。入った瞬間に優しいアロマが、癒しを感じました。これ、何の香りだろう?」


私が独り言のように話しかける。


「『テルペン』っていう商品…」


内山がようやく会話のキャッチボールを始めてくれた。


「そうなんですね。初めて知ったアロマだ。甘い花のような香りですよね。」


「大麻由来の天然成分が入ったアロマだよ…普通に店で買えるやつ…」


私が大麻という単語にぎょっとしたものの、一般購入可能な品であれば問題無いはずだと判断した。


「そうなんですね。私も家に置いてみようかな。……普段、どの辺で買ってます?」


少し間を置いて、雑談に見せかけた。


私は焦らぬよう気を付けながら、会話をさせることに集中する。


「あー、よく行く池袋のシーシャバーがアロマも扱ってて…そこで……」


「シーシャかー、私シーシャってやったことないんだけど、どんな感じなの?リラックスする感じ?サッパリする感じ?」


「私はスーってするミント系とか好きかなー。ってか警察官サツカンはシーシャとか嫌いそうだよね。やったことないのイメージ通りだ。」


そう答えながら、内山から少し笑みが零れる。


サツカンという響きに、内山の反抗心と恐れが混じって聞こえた。


しかし、それを咎めるより、受け止める方が今は早い。


なぜなら、彼女の第一段階の防波堤は突破できたようだったからだ。


「そうね。たしかに煙は苦手かも。でも、話を聞く分には興味あるな。」


私は微笑みを返しながら、わずかに身を乗り出した。



『池袋のシーシャバー』という一言が私の記憶に引っかかった。


もしかしたら繋がるかもしれないと。

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