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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第五章「X」

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第50話「水越千早:winter」

「午前2時48分、着手!」


佐藤の雄々しい声で、捜査員が一斉にそれぞれに割り当てられた仕事を始めた。


「段取り通り、撮影担当GoPro起動!A班は私とMDF室行くよ!B班は内山のスマホ!C班は店舗内くまなく探して!」


私はメンバーに指示を飛ばし、すぐさまLUXE施術室に紛れたMDF室に向かう。



MDF室はファンの低い唸りが密閉空間にこもっていた。


空気は乾いていて、埃がカビたような独特の臭いが鼻を刺す。


部屋には端末が5台、壁際にはルーターやNASが並び、ランプの点滅が静かに呼吸しているようだった。


「用途毎に端末分けてるかもしれん。手分けするぞ!先にNASは切り離しとけ!電源は落とすなよ!」


私の指示で4ベイタイプのNASはそのまま各端末から切り離された。


この規模の店舗で4ベイのNASで、さらにUPSもある。


なんとも言えない違和感に襲われる。


「カードリーダー付きは端末が資源庁に繋がってるはずだから、ここの権限で触れる範囲のデータ保全!」


指示を出した私は、肝であるだろう『LUXE-NET MAIN』とテプラが貼られた端末の保全を始めた。


中身は、ホームページ素材に、営業マニュアル、顧客名簿等、この店の全てのデータがあるようだった。


私は、直近のアクセス先から保全するWEBサービスの選定をしつつ、各サービスに記載されたパスワード集を探し始めた。


lookme.txtと名付けられたファイルを開くと、ご丁寧に全端末全アカウント分のパスワードメモがあった。


すぐに印字をかけ、指示を飛ばす。


「5部印字かけた紙、メイン作業者に配って!」


「了解です!」


私は匿名性の高いメッセンジャーアプリを確認するとその保全と同時に、外部サービスのデータを次々に保全をかけていく。


少し負荷をかけすぎたのか端末の挙動が緩慢になってきた。


タスクマネージャーを開き、リソース確認をするとネットワーク使用率は余裕があるが、DiskIOが使用率100%となっていた。


「動作遅いと思っていたけど、ボトルネックがDiskIOって、そんなことある?何かおかしい。」


嫌な予感が背筋を走った。


プロセスを表示させるとCPUとDiskIOを食っているモノが判明した。


C:\LUXE_SYS\remote_wipe.exe

実行ユーザー:winter


「……なにこれ。ワイプ!?リモートワイプ実行中!?」


私の悲鳴に一瞬、全員が動きを止めた。


私は息を呑み、すぐさまキーボードを叩く。


「リモートワイプだ!?みんな!プロセス確認して!!こっちはwinterってアカウントから実行されてる!!」


私の撮影担当が端末を覗き込み、顔色を変えた。


リモートワイプ、遠隔からディスクを強制的に0で埋め、データを完全消去するものだ。


つまり、一度書き換えられたら痕跡を追うことも復元もできない。


額から汗が噴き出るのがわかった。


真後ろに居る私の撮影担当が「アカウント名winter、実行ファイルremote_wipe.exeの確認を!!」と叫んでいるのが、やけに遠くに聞こえた。


私はすでに周りを気にする余裕は無くなっていたためだ。


「絶対止める!!」


私はPowerShellを起動しremote_wipe.exe 関連を一斉に止めようとした。


コマンド調べる時間も惜しい。


手癖でコマンドを叩く。


慎重にやればやるほど消されるエリアが広がってしまう。


私の集中力が、これまでの人生で一番高まるのを感じる。


Get-Process | Where-Object {$_.Name -like "*wipe*"} | Stop-Process -Force


画面端に表示させていたCPU負荷グラフがわずかに下降する。


「止まったか……?…いや、別PIDで再起動してる!」


安堵しかけたその瞬間、別のプロセス名がリソースを食っていたのに気づいた。


「スケジュールタスク経由で再起するのか!くそ!」


いま全部止め、winterアカウントも失効させないと取り返しがつかない。


私は焦る手を押さえ込み、もう一度キーを叩く


Get-ScheduledTask | Where-Object {$_.TaskName -like "*wipe*"} | Disable-ScheduledTask

net user winter /domain /active:no


Enterキーを押す指が、わずかに震えた。


ほんの数秒後、ファンの音が静まり、アクセスランプの点滅が止まる。


「止まった……?」


だが、安堵したのも束の間、再びDisk I/Oが跳ね上がった。


「サブプロセスが動いてる?別ドライブの影タスクか!?」


私は再びプロセスを強制終了する。


Stop-Process -Name remote_wipe -Force


「止まったか…?」


端末のリソースが不明なプロセスに食われるのは止まったことがわかった。


「被害確認しないと、ログ見るか。」


[log extract]

[02:53:41] user=winter connected from remote host 183.22.14.**

[02:53:45] process remote_wipe.exe initiated on volume D:

[02:54:02] progress=0%

[02:55:19] progress=3%

[02:57:37] progress=7%

[02:59:21] progress=13%

[02:59:58] status=Aborted (process terminated by user SYSTEM)


「全体の15%弱がイカれたか…くそっ、完璧な押収とはいかなかったか…。」


NASは初手で接続を切ったため無事だろうが、本流の端末のデータを消されたという事実が悔やみきれなかった。


私は自責の念に駆られて、こめかみを抑えた。


「しかし、このタイミングでリモートワイプしてきたwinterとは、一体誰なんだ…?」


ふと、呟いた声を聞いた撮影担当が朧げに答える。


「真冬って名前が被疑者グループにいた気ますけど、直接的すぎますかねぇ…?」


それを聞いて、私はすぐに鞄から今回の被疑者リストを出した。


確かにLUXEのスタッフに『桜木真冬』という名前があった。


その時、別フロアからの連絡が届いた。


<佐藤より一斉。男性三名保護、石田のみ不明。>


私はそれを見てすぐに佐藤に電話をかけた。


「佐藤君緊急事態だ!」


『どうしました?』


佐藤の声は心なしか憔悴しているように聞こえた。


「桜木真冬がリモートで端末データの削除を試みたぞ!他の従業員もすでに目覚めていたら証拠隠滅の虞が有る!」


『水越さんありがとうございます!直ちに夜間張り込み班に状況報告させます!状況次第で即突入もありますので、データ保全班の手隙が居たら、各現場毎2人転身させて下さい!』


佐藤は早口をさらに続けた。


『あと、削除されたというログ、実行したアカウント名、接続元IP等がわかるもの、画像で私と山崎係長宛に送っておいて下さい!』


私の「了解」を待たず、佐藤は通話を終えてしまった。


私は再びモニターに向き直った。


消えた15%に何が記録されていたかは、分からない。


だが、データそのものが無くても、フォレンジックで全ての痕跡を追えば、何かは分かるかもしれない。


私はそう思いながら、残りのデータ保全作業を他の者に託し、桜木の居宅へ転身する準備を始めた。

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