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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第五章「 X 」

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第47話「作戦変更」

帰りは渋滞に捕まることなく、庁舎へ滑り込んだ。


フラッパーの閉まる音が、深夜の静けさに小さく吸い込まれた。


戻る途中、頭の中ではずっと捜索差押のシナリオが反芻されていた。


入り方、男性保護の手順、被疑者らの隔離方法、MDFの位置、資源庁サーバへたどり着く可能性、保全チームの配置…。


だが、内山いまりのイレギュラーによって、やり方を変えねばならない。


俺が部屋に戻ると、雑然としていた机がさらに忙しなく動いている。


モニターに映る地図、印字され散らばる様々な履歴、眠そうな捜査員の目。


けれど、どこか妙に落ち着いた空気だ。皆、やるべきことを知っている。


ポケットの中でスマホが震えた。


画面を見た瞬間、内山班の報告が飛び込んだ。


〈内山いまり、タクシー(品川500ぐ2020)で帰路。現在、R13号線を北上中。自宅着まで20分程度。〉


このまま自宅まで帰れば最初のプラン通り、朝6時に仕掛ける方が良い。


捜査員への連絡もその方がスムーズだ。


再びスマホが震えたため、内容を確認する。


<内山のタクシーが方向変えLUXE方面へ走行中。帰宅前に立ち寄る可能性有り。>


その内容を見て、俺は瞬時に頭の中でプランの変更を考える。


もう予定通りに拘る必要が無い。


LUXEに寄るということは、今回のニュースで消すべきモノがあるということだ。


それは必ず押さえなければいけない。


地図と時計を一瞥し、今すぐにでも決断しなければならないことが分かった。


「係長。内山いまりがLUXEに付き次第、LUXEの捜索差押着手《ガサ開始》に変更。私の保護通報プランは白紙に戻します。」


声に出した瞬間、周囲の空気が引き締まった。


捜査員たちの目が一斉にこちらを向く。


「皆さん、現在内山いまりが乗ったタクシーがLUXEに向かって進行中です。いまりがLUXEの鍵を開けた瞬間、踏み込みます。」


誰一人として声を上げず、男だからと舐めることもなく、俺の声に耳を傾けてくれている。


「内山班が踏み込んだ瞬間、いまりの身体捜索を開始します。スマホと別フロアの鍵は必ず提出させ、データ保全班と男性保護班に連携。」


内山班は既に内山いまりの追尾をしているが、先ほどメッセージで指示は出している。


「データ関連は水越係長を責任者として漏れのないようお願いします。男性保護班は鍵の開け方を確認し、直ちに男性セラピストを保護してください。こちらは、私も同行します。」


この時、水越と目が合い、彼女は静かに頷いて了解を返してくれた。


「現場封鎖班は役割変更。2名を内山いまりの動静監視、ほかは逃走経路を徹底的に潰して下さい。」


ここで山崎が俺の指示の後に、指示を加えた。


「前泊予定だった者もすまない。しかし事件は生き物だ。集中してことに当たって欲しい。」


深夜だと言うのに、眠い目を擦る者は無く、どの捜査員も真剣な顔をしていた。


「ただ、勇み足だけはするな、事故は現場の恥だ!それと、被疑者は何をするかわからん。自分も、仲間も、被疑者らも、怪我なく終わるよう心掛けてくれ!以上!」


山崎の指示が終わり、深夜にも関わらずやる気に溢れた捜査員が部屋から出ていく。


「中村主任、私たちも行きましょう。」


俺が声をかけると、乱れていた前髪をさっと直し、中村が向き直った。


「ええ、佐藤主任。頼りにしてます。」


「任せて下さい。中村主任も内山いまりの取調官として、思いっきりやってください。」


俺がそう言って右手の拳を突き出すと、中村が露骨に戸惑いを見せた。


「え、あー、これは、後でセクハラになりませんよね?」


「1ヶ月一緒にやってきた人の台詞じゃないですね。」


俺の反応に中村が苦笑しながら拳を合わせた。


「……了解、佐藤主任。じゃあ、全力で落とします。」


「頼もしいですね。」


中村は凛としたいつもの瞳はそのままに、口角が少しがった微笑みを見せた。


俺はその表情に少しドキリとしたが、短く息を吐き、気を落ち着けて上着を羽織った。



時計を見ると、午前2時20分。


空は深く沈み、庁舎の外は小雨が降っているようだった。


庁舎を出ると、駐車場の奥に並んだ車列が目に入る。


無線機の点検をする者、腕章を巻き直す者、バッテリーを確認する者。


誰も言葉を交わさないが、全員の視線が同じ方向を向いている。


「佐藤主任、車両準備完了しました。」


声をかけてきたのは、森下だった。


「了解。すぐ行きます。」



出発と同時に、無線のノイズが静かに流れる。


夜の東京の街灯が、車列のボンネットに淡く反射していた。


後藤がエンジンをかけ、軽く息を吐く。


「雨、降ってきたね。悪い予感の雨じゃなきゃいいけど。」


俺が刺された夜もこんな雨の日だったとふいに過った。


思い出すと少し頭が痛むのは昼間のせいだろうか。


「……あんた、緊張してんの?。」


俺は答えず、車窓に流れる街を見た。


コンビニの灯、赤信号、タクシーの列。


すべてが現実味を欠いて見える。


これから起こることが、日常の延長線にはないのを知っているからだ。



LUXE近く、全員の配置が完了し、あとは内山いまりを迎えるだけとなった。


俺は4階のLUXE入口付近の物陰に中村や後藤達と隠れている。


そこで、無線が鳴った。


〈内山班より各班。内山いまり《マルヒ》車両間も無くLUXE。間も無くLUXE〉


俺の背筋がわずかに硬直する。


〈内山いまり《マルヒ》、LUXE前で会計

中。……エレベーター乗車。〉


エレベーターに目を向けると、オレンジのフロアランプが1、2、と順に点灯する。


周囲に緊張が走る。


ちらっと腕時計を見ると、時刻は午前2時42分。


それと同時に、ワンピースにカーデガン姿でキャリーケースを持った女が現れた。


暗闇で女の顔は見えないが、ハンドバッグを漁りカードキーをだした。


指紋認証とともにカードキーを使い、ピーという電子音とカチャンという鍵が開く音が聞こえた。



その瞬間、全員の息が止まった。


いまりがドアに手をかけ、ガチャリと金属音が空気を裂く。


その瞬間、中村が飛び出していまりに声をかける。



「スタッフさん、遅くにどーも。」

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