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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第四章「それぞれの準備」

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第40話「全体会議」

Xデーまで、残り二日。


本部庁舎の第一会議室は、女性の汗と異様な熱気に包まれていた。


いつもは閑散としている広い部屋に、きっちりスーツを着込んだ顔がぎっしりと並んでいる。


机の上には、LUXEの見取り図、資源庁サブサーバのネットワーク構成図、捜索差押え場所の写真、分刻みのタイムスケジュール、関係者一覧、これまでの経緯の報告書などが並ぶ。


どれも、何十回と見返した資料だ。


不思議とざわつきはなく、顔見知り同士が目を合わせても会釈をするだけだった。


ただ、重い沈黙と椅子の軋む音だけが続いている。


この場に集まっているのは、刑事部捜査第一課、刑事部SSBC、生活安全部サイバー犯罪対策課、警務部被害者支援課、その他各部各署、総勢百余名。


竹村と御厨の尽力により、当初の2倍の人員が集められた。


俺と山崎だけではここまで集められなかっただろう。


誰もが、重大事案であることを理解していた。


山崎が壇上に立ち、声を張る。


「それでは、これから捜査会議を始めます。まず、全体指揮官の錦部長から。」


錦が立ち上がり、マイクを握る。


ハスキーと言うよりはドスの聞いた低い声だ。


「この件は、単なる違法風俗店の取締りではない。男性を食い物にする被疑者ゴミクズの悪事を詳らかにするものだ。LUXEは社会的立場が上の人間と繋がっている可能性がある。そのため、この件に関する一切のことは最重要機密として扱う。くれぐれも情報漏洩には気をつけるよう。全力で取り組んでくれ。」


そう檄を飛ばし、錦部長は着席した。


「では、次に竹村課長、お願いします。」


次に竹村がスッと立ち上がった。


「既に資料を見た皆さんならわかると思いますが、被疑者らは男性に対する詐欺、監禁、強要等、いくつもの犯罪に手を染めている。またその背景には資源庁の影がある。今回はLUXEという店舗を潰し、首魁にたどり着くための架け橋の意味合いもある。そのことを意識して現場では些細な事も見逃さず、情報連携を確実にして、成果に繋げてほしい。以上。」


竹村はハキハキと話し終えると、すぐに着席した。


「では、当日の動きを含めて佐藤主任から。」


山崎に促され、マイクを受け取ると、少しだけ空気がざわついた。


人前に立つ男性警察官が物珍しいからだろうか。


突き刺さる視線はどれも睨みつけられているようで、どの捜査員からも「こんな小僧がメインでこの事件は大丈夫か?」と値踏みされているような心の声を感じた。


手のひらに、わずかに汗が滲んでいた。


「はい。まず、全体の流れを説明します。当日午前五時、各班は庁舎を出発し、六時までにそれぞれの現場に到着。」


俺、中村の順に先に店舗に入ったところで、先行突入犯は防カメの死角に潜んで合図を待つこと、俺が保護通報をかけた後、中村がトイレを装ってドアを開けたのを合図に一気に踏み込むこと。


俺が保護通報をかけられない場合は中村の合図で、廃棄物処理法での捜索差押許可状を執行すること。


保全チームはMDF室と思われる箇所を優先的に捜索すること。


従業員、客、男性はそれぞれ確保し、すくさま本部の取調室に連れて行くこと。


その他もろもろの注意点を説明した。


「最後に、くり返しますが、最優先は国家資源の保護です。被害者四名が確認された場合は、まず安全確保を優先してください。被疑者らが逆上して国家資源に手を出すようなら、すぐさま資源毀損未遂で現行犯逮捕げんたいかまして良いです。」


有無を言わさず現行犯逮捕、その重さに俺の目の前に並んだ捜査員は固唾を飲み込んだ。


「被疑者らに激しい抵抗があった場合、拳銃発砲の予告での制圧は許可されています。国家資源に当たる恐れがあるため実射は不許可です。逃走に備えて機動捜査隊キソウにも話通してますので、無線吹いてください。なお、被疑者の重傷はなるべく避け、説得と特殊警棒とっけいでいけるのがベストです。」


俺の声が自分の耳の中で響く。


マイク越しの音が、少しだけ震えている気がした。


百名を超える視線の圧力は、想像以上に重い。


「では、各班個別の打ち合わせに移る前に、質問がある方、挙手願います。」


何人かの手があがったので、1人を指し示した。


「桜木班の古賀だ。現場での身体捜索は裸にしていいのか?あんたも現場にいるんだろ?」


熊のような大きな体の女性がじろりと俺を見ながら質問した。


「構いません。私のメンタルを気にされているなら大丈夫です。女性の裸は見慣れていますので、その程度で職務執行が滞ることは有りません。」


そして、次々と質問者を指していき、最後の質問者になった。


「現場封鎖班の的場です。これだけの捜査員が動くと新聞記者ブンヤに囲われます。事実、この会議室前の廊下に記者クラブがうろついてます。マスコミには『報道の自由を奪うな!』と叩かれるの覚悟で、完全排除で良いですか?」


精悍な顔つきの若めの捜査員が不安気に問いかけてきた。


「それについては、私から答えよう。」


腕を組み座っていた御厨理事官がマイクを取った。


「マスコミに関しては私か竹村課長に速報してほしい。いるいない含めてだ。そして、あくまで私見だが、マスコミは基本的に来ないと思ってくれていい。こちらの“ゴミの不法投棄”より、ニュースバリューのあるネタなんてごろごろあるからな。」


と、含みのある言い方で質問を終えてしまった。


その言葉の裏には、“すでに手を回してある”という確信めいた静けさがあった。



御厨の言葉を合図に、室内の空気が少し緩んだ。


しかし、それは決して安心ではなく、この作戦が動き出すという現実の重みが押し寄せてきただけだった。


「他に質問がある方?」


百人を超える視線が、一点に集まっているのがわかる。


「……では、これで全体説明を終わります。班ごとの打ち合わせに入ってください。」


俺がそう告げると、ざわめきが一斉に広がった。


椅子が動く音、紙の擦れる音、パソコンのキーボードを叩く音。


どの音も、いよいよ始まるという緊張を孕んでいる。


俺は壇上を降りると、資料を抱えたまま竹村のもとへ向かった。


「課長、御厨理事官の言葉……やはり、裏で手を?」


竹村は短く息を吐き、目だけで答えた。


「聞くな。お前に公報対応はまだ早い。」


それだけ言って、資料を閉じた。


沈黙の重さが、返事の代わりだった。

これにて第四章は終了。

次回から第五章です。

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