第4話「回想:知識と覚悟の研磨」
この世界の男は、18歳になると「繁殖プラン適応プログラム」に参加する義務がある。
繁殖プランへの理解、遺伝子管理の重要性、国家への奉仕、そんな内容の講義が続く。
だが、俺はそのプログラムを拒否した。
「私は警察大学に進学します。刑事になりたいんです。」
その言葉に、プログラムの担当者の女性は目を丸くした。
「警察大学? 男が? 君は繁殖プラン適応プログラムを受け、その適正に合わせた生き方をするだけで十分な役割を果たせるんだよ?」
女性は理解出来ないといった表情を浮かべた。
「しかも刑事希望?警視庁で働きたいならプログラム受講後に「男性保護課」や「国家生殖資源庁警護部」からの出向という選択肢があるだろう?」
女性は怪訝な表情を崩さずに続ける。
「あそこは男性の人手不足だから適正が少なくても希望すれば入れると思うのだが…」
「違います。私は現場で捜査がしたいんです。仕事とは名ばかりの職場のマスコットはお断りです。」
だが、俺は譲らなかった。
前世で得ている法学、犯罪心理学、捜査手法、体術、それに刑事魂。
それらをこの世界で活かすには、正式な教育を受け、自己研鑽に努めなければならない。
幸い、この世界の警察大学(前世における防衛大のようなもの)は男女差別なく入学を認めていた。
一応、男女平等を掲げているため、男性にも門戸を開いているという建前アピールだろう。
ただし、男の受験者は皆無。
男でプログラムを受けずに警察志望の者がいないためだ。
試験会場で、俺は数千人の女性受験生に囲まれ、好奇と軽蔑の視線を浴びた。
「男が受験で警察大学? 何の冗談?」
そんな囁きが聞こえたが、気にしなかった。
俺は筆記試験、面接試験、体力試験を通過し、無事入学。
しかし、卒業後に警部補として任官される大学であるため、その大学生活は、想像以上に厳しいものだった。
「国家資源」の安全確保のため、SPが常につきまとい、俺の行動は監視された。
トイレへの移動中や自主トレーニングのランニングですら、常に二人の護衛が無言で後をつけられる。
自由という言葉から最もかけ離れた生活だ。
また、週に一度のメンタル診断があり、この診断で精神が少しでも病んだ場合は退校させられてしまう。
同期たちは、最初は好奇や恋慕の目で見ていたが1か月もすると俺を「異分子」と呼びはじめた。
特に身体を使う訓練では、俺が少しでもミスをすれば、嘲笑が飛んだ。
「やっぱり男には無理じゃない?」
「資源が怪我でもしたら、国の損失よ」
「繁殖プランを拒否するなんて、生意気よね」
「まぁでも女臭い部屋だし、竿としては有りなんじゃない?」
「違いないねー!」
だが、俺は黙々と勉強と訓練を続けた。
教練、射撃、体力トレーニング、剣道、捜査書類、警察礼式、刑法、刑事訴訟法、犯罪心理学、鑑識技術。
これらは前世の経験が、俺を支えると同時に、この世界でも通用することが分かり自信に繋がった。
そして俺は前世の経験に、この世界の知識を十分に重ね合わせた。
夜遅くまで図書館にこもり、学生に対し公開されている捜査資料を読み漁った。
時には、前世の事件の記憶がフラッシュバックしたが、あの刺された背中の痛みや解決できなかった事件の悔しさが、俺を突き動かした。
ある日、俺の教場の担当教官である関教官が俺に質問をぶつけてきた。
「佐藤、君は本当に刑事になりたいのか? この世界で、男がそんな危険な道を選ぶなんて、狂気だぞ。」
俺は迷わずこう答えた。
「狂気と思われても良いです。資源ではなく一刑事として、事件を解決して生きて行きたいんです。」
「刑事は時と場所を選べないぞ?必要があれば深夜に女性専用区へ臨場することもあるだろう。男性への嗜虐趣味のある被疑者もいるだろう。それでも決意は揺らがないか?」
「はい!全て覚悟しています!」
関教官はしばらく俺を見つめ、やがて小さく頷いた。
「…なら、やってみろ。しかし、その道はどんな道より険しいぞ!」
この世界で、男が刑事になることは、確かに狂気かもしれない。
それは、今世の俺の記憶からも分かっていた。
だが、前世で果たせなかった使命を、この世界で果たすことが、俺の覚悟だった。
一つでも多くの事件を解決し、この世に落ちる涙を減らしたい、と。




