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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第四章「それぞれの準備」

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第38話「情報整理」

Xデーまで残り一週間となり、久々の捜査会議だが、誰も顔を上げようとしなかった。


静まり返った空気の中に、焦りと疲労のにおいが混ざっている。


参加者は特務捜査係の4人に加え、竹村課長、御厨理事官、水越技官もいる。


「それでは、現在の状況と来週までのタスク、それに当日のざっくりとした動きのすり合わせをします。」


眼の下がすでに黒くなっている山崎が言った。


「まずは、全体の振り返りから。佐藤主任よろしく。」


山崎の指示を受け、俺はその場で立ち上がり関係者や関係組織を一枚にまとめたスライドをモニターに映した。


「本件の端緒は2つあり、一つは4つの行方不明事件、もう一つが男女喧嘩の110番通報です。」


4つの行方不明事件とは、山崎が本所署、池袋署、渋谷署、八王子署において届出がされ、その後捜査が決了となっていたものだ。


それぞれの被害者の情報をまとめると、

本所署:北村南人(33歳):共生区「喫茶店『トルエン』」従業員

国立男性総合病院新宿にて、ランクCからランクDに降格

元SP:毒島霧子(クシハラ有限会社)


池袋署:住田正人(27歳):共生区「シーシャバー『甘南備カンナビ』」従業員

国立男性総合病院新宿にて、ランクCからランクDに降格

元SP:大原麻子(CBD-THC株式会社)


渋谷署:丸山義春(21歳):プログラム4年生

国立男性総合病院新宿にて、ランクCからランクDに降格

元SP:緑川ひなみ(株式会社みくら)


町田署:橋本陽太(21歳):プログラム4年生

国立男性総合病院新宿にて、ランクCからランクDに降格。

元SP:桜木真冬(株式会社KZM)

である。


「4人の行方不明者の情報整理していた際に、110番通報が来たため臨場しました。そこで石田翔一と言う者が急遽ランクの降格があったうえ、元SPから現SPに変わった途端置き去りにされたとのこと。元SPが腕に傷のある女性と聞き、行方不明者元SPの毒島霧子の特徴と一致しました。」


情報のおさらいとはいえ、皆の真剣な視線に身が引き締まる。


「そして、元SPの所属法人の本店所在地が全て同じだったため、現場確認をしたところ『Private Reproduction Salon - LUXE』という準合法セクターが営業していました。ただ、内偵の結果、生身の男性を強制的に女性に奉仕させる違法風俗店でした。」


俺すがここまで話したところで、中村が説明を加える。


「通称LUXEの男性セラピストは4人で行方不明の北村、丸山、橋本に加え、石田が勤務していることが判明しました。男性4名はほぼ毎日出勤しており、休みもそれほどなく奉仕を強要されている状況です。」


これで行方不明者のうち3名が見つかったが、まだ保護には至れていない。


さらに『住田正人』の行方は相変わらずわかっていない。


「所定の捜査の結果、LUXEの従業員の人定事項も特定が終わっています。」


後藤がそういうと、LUXEの従業員が顔写真付きでモニターに表示された。


内山いまり(通称“兎”):スタッフ名:雲隠雪乃

6年前まで妹と同居、現在は一人暮らし


毒島霧子(通称“タトゥー”):スタッフ名:桜井志穂

校内暴行による非行歴あり(文書保管期限切れにより詳細不明)

過去、内山と同じ男性(田沼氏)をSP担当した


緑川ひなみ(通称“プリン”):スタッフ名:篠崎鈴美香

前住所は北海道苫小牧市、IT企業での就業経験有り


桜木真冬(通称“顎”):スタッフ名:須山刹那

東京工業大学の大学院中退(B4時論文はCTF関連)からSPになった異色の経歴



「綺麗に元SPがスタッフとして勤務しています。既に全員の居宅も判明しており、通勤パターン、ルートも把握済みです。」


後藤が小さく息をこぼすと、会議室の時計が小さく鳴ったのがよく聞こえた。


「では、データ関連私から少し説明致します。」


水越が立ち上がり、店舗図面を表示させた。


「店舗内に既に怪しい部分を特定しています。ここを中心にフォレンジック部隊を送り込みます。他の捜査員はパソコンやスマホを見つけたらすぐに我々に連絡してもらい、その報告を受けたら全台保全をかけます。」


以前、水越がMDF室があると推測した部分が赤く光る。


「資源庁のデータベースにアクセスした履歴を現場で確認し、対象データを資源庁のサーバーから丸ごと複製します。全ての作業をGoProで撮影し、証拠品の改ざんなどの誹りは受けないようにします。」


ここまでの説明を聞いた竹村が頭を抱えながら、俺の方をゆっくりと見た。


「それで、どうする?風呂敷広げるのは誰でも出来る。広げれば広げるほど畳むのが難しいものだ。ずっと検討中と言っていた適用法令は?検察官との調整は?」


針はまだ午前十時を指しているのに、もう夕方のような疲労感が漂っている。


「基本は廃棄物処理法ですが、現場で国家資産の監禁状況が確認され次第、国家資産毀損罪、監禁罪、職安法違反等、臨機応変に適用して身柄を押さえます。」


竹村はその回答に満足しないのか、さらに質問を続けた。


「厳重な店舗にどうやって大量の捜査員を踏み込ませる?重機で穴でも開けるのか?」


言葉は鋭いが、その奥に“無茶をするなよ”という苛立ちが滲んでいる気がした。


「私は求人のため、中村主任は客として先に入り、中から扉を開けます。」


竹村の鋭い目がさらに鋭さを増す。


「開けられなかったらどうする?」


「それは…」


思わず言葉が詰まった。


どうせ現場に入るまで、何が起きるかなんて誰にもわからない。


それでも説明を求められるのがこの仕事だ。


事前に立てられる策がそのままうまく行くことは稀であることは明白だというのに。


「まあいい、で、検察官はなんと言ってる?」


竹村の視線がこれ以上ないほど鋭くなり、ほぼ睨みつけている表情だ。


「地検の検察官には『上に報告するから』と言われた以降、折り返し頂いてません。」


竹村は俺の回答を聞くなり、こめかみが青筋だった。


「資源庁と国家資産絡み。最高検案件だ。完璧に基礎捜査をしていたとしてと報告だけで2ヶ月はかかる。今月回答が来るわけないだろう。」



竹村はこめかみに指を当てたまま、しばらく沈黙した。


その間に、部屋の空気がさらに重くなる。


山崎も後藤も、誰も口を開かない。蛍光灯の光だけが、白く俺たちを照らしていた。


「……検察官の判断を待っていたら今月中に動けないということだ。それで君たちはどうしたい?」


竹村の凄みで、誰も口を開かないまま10秒ほどがたった。


その時、手を挙げたのは意外な人物だった。

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