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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第四章「それぞれの準備」

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第32話「MDF室」

水越の話が真実であれば、当初の案通りシスサポ社に保管してあるであろうログデータを強制力を使って手に入れるほかない。


「わかりました。実はログ側はシステム運用会社から差押えようとしてます。逆に現場でしか出来ないことを優先して下さい。」


「わかった。なら現場の端末からアクセスできる範囲のものを根こそぎ取ろう。ちなみに、この図面を見てほしい。」


そういって水越がモニターに表示させたのは、様々な線が入り乱れた図面だった。


「ごちゃごちゃでよく分かりませんが、配線図面か何かですか?」


俺の発言に水越は目を見開いた。


「流石だよ、佐藤君。察しの通りこれはLUXEの回線工事を担当した業者から取り寄せた図面だ。裏から手を回したら10分くらいで送ってくれたよ。くくっ」


そう言いながら、水越は図面に指をさした。


「中村主任が書いた現場の略図と比較するとこうなる。どうみても施術室の廊下に入り手前から2番目がMDF室になっている。これは通常あり得ない。普通のビルなら1階に作るのが最も効率的で安全だからだ。」


俺は、MDF室とは、建物が必要とする回線の引き受けと分配する装置がある部屋だと、前に水越の講義で聞いたことがあったことを思い出した。


「つまり、ここはLUXEの通信を集中管理する目的で設置された可能性が高いんだ。データ保全班はここを最重要ポイントとする方針が良いだろう。」


「…わかりました。正直、水越さんに全てお任せしたほうが良いような気がします。」


俺は、そう言いながら水越に向かってほほ笑んだ。


しかし、水越は目じりをあげ、不機嫌そうに眉をひそめた。


「佐藤君は私の講義を覚えていないのか?解析屋と事件屋、お互いがお互いに認識を合わせ、互いのことを深く知ることが大事だと。散々講義で言ったはずなんだが?」


水越は口をとがらせながら、なおもじっと見つめてくる。


まるで小動物が拗ねているようで、その仕草に、一瞬だけ肩の力が抜けた。


「水越さん、非礼を詫びます。当然覚えています。ただ、水越さんの能力があまりに凄くて感服してしまったんです。」


水越の表情がわずかに緩んだ。


「……まぁいい。そう言われたら悪い気はしないけどね。」


彼女は腕を組み、再びモニターに向き直った。


指先がキーボードを叩くたび、画面上の線が整理され、構成図が次第に立体化していく。


「さて、MDF室の優先確保は決まり。あとは時間配分と動線の設計だ。」


「動線、ですか?」


「そう。入ってすぐに保全班が動けるよう、突入部隊と連携して人流を制御する。LUXEは女性客ばかりだ。多少乱暴でも構わないだろう?」


「なるほど……」


俺は、改めてこの世界の男女比の妙を感じた。


「あと、念のため言っておくけど、LUXEの裏は綺麗じゃない。このMDF室の位置、つまり施術室の並びにある理由、わかる?」


「……まさか、顧客データのリアルタイム収集ですか?」


水越は小さく頷いた。


「これだけの施設だ。客の情報を取って、どこのだれかって特定をしないはずがない。既に中村主任は顧客データベースに登録されているだろうな。どこまで素性がばれているか分からんが。」


部屋の空気がわずかに冷え、蛍光灯の唸りが一層はっきり聞こえる。


「つまり、早く現場に踏み込む必要がある上、このタイミングでの押収に失敗すれば、証拠ごと消え、非人道的な犯罪が、二度と表に出なくなるってことですね。」


「そう。だから、準備は確実に、効率よく、漏れなく進めて。データ保全関係の資機材、ツール、人員選定は私がしよう。」


「了解しました。」


「あと……」と、水越はわずかにためらい、声を落とした。


「午前中に生殖特捜の捜査員から電話が来たんだ。『テラサイズのハードディスクを廃棄するため、データ完全消去するのにどれだけ時間かかるかー』ってね。土曜にそんな下らない質問してきたのが気になったんだけど、念のため気を付けて。」


俺は短く息を吐いた。


「……早いですね。もう動いてる。」


「さぁ?私は解析屋兼ヘルプデスクだからね。そういうことはよくわからないよ。」


沈黙が落ちた。


モニターの青白い光の中、水越がわずかに唇を噛むのが見えた。


彼女の横顔には、疲労よりも苛立ちに近い緊張が走っている。


「水越さん。」


「ん?」


「あなたの講義、覚えてます。解析屋と事件屋が互いを知ること。それが最強の捜査になるって。」


「へぇ、それを覚えてるなら上出来だよ。」


「じゃあ、現場で一緒に証明しましょう。講義が正しかったって。」


彼女の目が一瞬だけ柔らかくなった。


「……言うじゃないか、佐藤君。」


そう言って彼女は立ち上がり、俺に向かって手を差し出した。


「君相手じゃセクハラにならないだろう?」


その一言に、思わず笑ってしまった。


俺は水越の手を取り、力強く握手をした。


冷えた空気の中、指先の温度だけがやけに現実だった。



「もちろんですよ。」

やはり水越は結構お気に入りのキャラクターです。

立ち位置が難しいですが、活躍させていきたいと思っています。

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