第26話「報告会」
ガチャリと音がして、扉の方を見ると、何だか顔を赤くした3人が戻ってきた。
「お疲れ様でした。ボタン使わなかったということは概ね成果が出たということですか?」
俺の質問に対し「あ、ぁぁ、まぁ…」と何だか煮え切らない返事を返す山崎。
メインで潜入した中村は俯いていたが、耳まで赤くなってるのがわかった。
どうやら、彼女達にとって刺激の強い店舗だったようだ。
「まぁ、ゆっくり話して下さい。お茶と乾き物とか買ってきたんで、ちょっと一息入れましょう。」
俺はそう言って煎餅やチョコレートを配り始めた。
「気遣ってくれてありがとう。それじゃ話します。」
こうして中村は顔を真っ赤にしながら潜入捜査の一部始終を語り始めた。
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「というわけで、店から出て係長達と合流したんだ。」
「お疲れ様でした。意外と男性の被害の程度は少ないですね。」
中村の話を聞いて、俺は素直に前世の感覚で感想を述べた。
「はぁ!? 国家資源である男性が女に接触を強いられてるんだぞ!しかも裸に近い女に素手で接触してるんだぞ!?」
山崎が声を張り上げ、中村は俯いたまま、まだ紅潮した頬を手で押さえていた。
その指が、わずかに震えているのが見える。
「係長、中村主任、落ち着いてください。」
俺は、静かに言った。
「報告内容を整理しましょう。“太陽”と名乗っていたセラピストの男性。年齢は20歳前後で目が虚だった……で、反応や体温から生身の人間であることは間違い。」
「彼はアンドロイド等ではなかった。でも、でも、あれは自分の意志で動いているようには見えなかった。」
中村の声はかすかに震えていた。
「つまり、奴らは行方不明になった男性を調教して使っていることになります。薬などによる精神の制御か、あるいは肉体や精神に苦痛を与える強制的な従属行為か…」
俺の言葉を受けて、後藤が唇を噛むのがわかった。
「男が女に触るなんて、普通の精神状態じゃないよ!」
「ええ。だからこそ、あの優しさは異様でした。」
中村の言葉に、室内の空気が一瞬止まる。
俺は腕を組んだまま、彼女の言葉を受け取った。
「異様……どういう意味ですか?」
「彼の声も、手も、表情も全部完璧に訓練されてた。まるで、男が優しくあろうとすることを強制されているみたいだった。」
その言葉に、山崎は拳を握り締めた。
「この世界で、そんなことをさせるなんて……!男性に奉仕を強いる?それは生きながらの拷問だ!」
「係長。」
俺は静かに口を開いた。
「怒りは理解しますが、あくまで冷静に。今は石田がどのような過程でLUXEに渡ったのかを突き止めるのが、今の最優先です。」
「……佐藤主任。お前はそれでも男か?」
山崎の低い声が、微かに震えていた。
「男が、あんな目をして、女の手を取って……奉仕しているのを聞いて、何も感じないのか?」
確かに、この世界の一般男性は女性に対して『恐怖と警戒』が基層となっている。
会話や接触を求められても、「裏があるのでは」と疑うことが多く、子どもの頃から教育で『自己防衛』教え込まれる。
恋愛感情や性的興味が生まれたとしても、それを理性で抑制するような訓練まである。
そんな男性が確かに、女性を癒すリラクゼーションの仕事等、人権侵害甚だしいのかもしれない。
俺はしばらく黙りながらそれを考え、その後、ゆっくりと答えた。
「……失礼しました。いずれにせよ、他人の意志を奪う行為を放置するわけにはいきません。この件の根を断たなければ、また誰かが同じ目に遭う。」
3人の視線は俺に向いたままだ。
中村は言葉を失い、後藤は眉をしかめ、山崎はただ沈黙していた。
「あとはシリンジサービス、これはもう精液を注射器で直接注ぐタイプの違法交配とみて間違いないですね。これは大きな組織か、社会的立場のある人間の協力が不可欠でしょう。」
俺は静かに続けた。
「スピード感を求めて男性を保護するか、着実に犯罪グループを割り付けるか、選択しないといけません。」
部屋に重い沈黙が落ちたが、考えていることは全員同じだろう。
なるべく早く踏み込まなければいけないと。
「……どちらにしても、悠長にはしていられません。」
沈黙を破るように中村が口を開いた。
その声には、さっきまでの震えはなかった。
「石田翔一があの店にいる限り、毎日、同じような苦痛を受けてるはずです。」
「けど、焦りすぎて証拠を押さえ損ねたら意味がないよ!」
後藤が反論する。
「頭が痛いな。ここまで把握してるのに、廃棄物処理法の令状では押収範囲がゴミ関連に限定されてしまう。捜索差押後は店の人間が資源庁に情報を流すだろうから、事件がポシャってしまう……」
山崎が頭を抱えて心情を吐露した。
「…実は、全部をクリアする案が一つだけあります。」
俺の声に反応し、皆の視線が俺に集まった。




