第2話「回想:始まりの記憶」
俺の人生は、正確には二度目の人生だ。
この"異常な世界"に生まれる前の俺は、佐藤悠真という名前の刑事、年齢は38歳で警視庁の警部だった。
俺が死んだ日のことは、今でも鮮明に覚えている。
東京の片隅、雑居ビルの裏路地。
雨が降りしきる深夜の殺人事件現場。
被害者は50代の男性、鋭利な刃物で胸を刺されていた。
血がアスファルトに広がり、雨に洗われながらも赤黒く光っていた。
「佐藤代理、お疲れ様です。」
「山村係長、お疲れ。状況は?」
「害の人定は特定済み。現場の状況から兇器による強殺かと。現場保全の人員はいますが、周囲の防カメの収集と聞き込み要員が足りません。」
部下の係長の報告に俺は頷きながら、現場の空気を肺に吸い込んだ。
「そうか。ちょっと増員の電話してくるよ。」
「お願いします」
俺はポケットからスマホを取り出しながら、被害者の遺体をじっと見つめた。
彼の瞳は開いたまま、空虚に夜空を映していた。
この仕事に慣れることはない。慣れたら終わりだ。
刑事として生きることは、残酷な現実と向き合い続けること。
だが、それが俺の選んだ道だった。
電話をするため現場から少し離れたところ、背後でかすかな物音がした。
俺は振り返る間もなく、鋭い衝撃が背中に走った。
「——っ!」
熱と痛みが同時に広がり、視界が揺れた。
犯人がまだ現場に潜んでいたのだ。
俺は膝をつき、地面に倒れ込む。
部下が叫ぶ声が遠く聞こえた。
「奴を追え!お前は救急車を! 早く!」
だが、俺の意識は急速に薄れていく。
最後に見たのは、雨に濡れたアスファルトと、被害者の遺体だった。
刑事として、事件を解決する前に死ぬなんて——悔しかった。
そして、すべてが暗転した。




