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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第二章「二転三転」

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第19話「漸進」

「戻りました。」


ガチャリと扉があいたと思ったら、中村の声がした。


山崎は椅子にもたれたまま二人に向かって、短く手を挙げた。


「お疲れ。成果は?」


「税務署の開業届は出ていました。ただ、代表者名が『雲隠雪乃』ではなく、『内山いまり』。それと、管轄の新宿署には準合法セクターとして営業届もあります。こちらも代表は同じ『内山いまり』です。」


中村はそう言いながら、開業届の写しを机に置いた。


「準合法セクター…か……」と山崎が低くつぶやく。


この世界で風俗と言えば、国家管理下のセクターか準合法セクターのどちらかだ。


国家管理下セクターは国営施設で、VRやAIを用いた理想男性との会話・接触を、メンタルケア目的で行う。


準合法セクターは、男性型アンドロイドやクローン体の一部を使った疑似風俗。


もちろん、生きた男性との接触は禁止だ。


「違法風俗の線もあるな」


山崎の声に、中村が頷く。


違法風俗とは、本物の男性を使った恋愛サービスや性的サービスで、国家資源の不正使用にあたる重い犯罪。


警大講義で聞かされた言葉が俺の脳裏を過ぎった。


『彼らは抵抗できない環境で、精神的にも肉体的にも搾取される。これは絶対に許されない犯罪行為だ。』


「準合法を装った違法施設、ということになるか?」


山崎がごくりと喉を鳴らした。


中村は封筒からクリアファイルを三枚取り出し、机に並べる。


「ハローワークの記録だと、雇用保険加入者は三名。『桜井志穂』『篠崎鈴美香』『須山刹那』。加入時期がまちまちで、一番古いのが桜井ですね。」


情報が積み重なり、輪郭を帯び始めてきたことが分かる。


「従業員も偽名の可能性が高いですね。」


俺の呟きを聞いた山崎は立ち上がり、ゆっくりと手を組んだ。


「どういうことだ?可能性はあるだろうが、高いとまでは思わないだろう?」


分からないと言った感じで、山崎は首を傾げた。


「姓名の頭文字が『さしすせそ』。しかも加入期間が長い順に50音になってます。流石に偶然とは考えにくいです。」


山崎はゆっくり頷いた。


「ふむ、なるほどな…やはり営業実態を確認したいな。行方不明者がいるのかも、LUXEが何をしているかも見たい。」


「内偵しよっか?」


後藤が軽く言った。


「したいとは思うが、気付かれる可能性を出来るだけ減らしたい。あれだけカメラがあるんだから何か考えないと…」


後藤は「そうだよねー」と言いながらスマホをいじり始めた。


俺の頭にはひとつの案が浮かんでいたが、口にすれば全員が止めると分かっていた。


それでも、真実に近づくためには誰かが中に入るしかない。


「なぁ、佐藤主任。何かないか?」


山崎が縋るような視線を向けてきた。


「ないわけじゃないですが……俺が、雇われるためにLUXEに」


「却下だ!!」


全て言い切る前に山崎が叫んだ。


「何を考えてるんだ君は!そんなこと絶対に許可しない!何されるか分からないんだぞ!薬で無理矢理性液採取されるかもしれない!客に性的なサービスをさせられるかもしれない!」


激昂という言葉が適当なほど、山崎は苛烈に怒鳴った。


「君は警察官の前に男性だ!国家資源だ!そのことを忘れるな!自分を粗末にするな!」


「…失礼しました。案を取り下げます。」


俺は内心ではそれが一番手っ取り早いと思ったが、やはりこの世界の一般的な感覚との乖離を感じた。


やはり、この社会ではそれが狂気に映るらしいことを、あらためて思い知る。


これほど強く注意を受けるとは思わなかった。


「係長、佐藤主任も致し方なく出した案でしょうし、落ち着いて下さい。冷静さを欠いては適時適切な職務執行に障ります。」


凛としたよく通る声で中村が山崎を諫めた。


「ただ、正直ここまで偽装しているなら、中に入るのは一つの手段です。佐藤主任にさせられないのだから私たちの誰かが客として行くしかないのでは?」


俺にも客として行くという案はあるにはあったが、何を確認されるか分からない以上、慎重に考えるべきだと思っていた。


まして、山崎と後藤は感情のコントロールが苦手で、詰められたらボロが出る可能性が高い。


客として入るのに必要なものさえ分かれば、用意すればいいか。


「今日は遅くなってきたし、明日にしない?あたし今から予定あるんだよねー。」


皆が悩んでいる中、後藤のどこか能天気な声が部屋に響いた。


「……そうだな。今日はもう遅いから明日考えよう。」


山崎の声はかすかに掠れていた。


「じゃ、お先に失礼しまーす。」


後藤がスマホをスーツのポケットにねじ込んで、バックをつかみ立ち上がった。



「待て待て、残業申請ちゃんとするように。後藤部長だけじゃなく、お前達もだぞ。」


係長の慌てた声が、ようやく張り詰めた空気をほどいた。

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