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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第二章「二転三転」

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第17話「段ボールの中身」

夕刻、部屋に戻った俺たちは押さえた段ボールの中身を確認していた。


ガムテープを剥がすと、汚れた服、紙コップ、注射針、検体ラベルの断片、それに未開封の緘封筒が出てきた。


「精液用検体のラベル?…QRコードが付いてる?」


精液専用と書かれたラベルを手に取って中村が息を呑む。


後藤がそのQRコードを取ってスマホで読み取ると、画面に男性情報が表示された。


〈橋本陽太、B-5281293、ランクD〉


「あっ!!橋本陽太って、行方不明者の名前に居た!」


そう言いながら後藤が、ファイルをめくり始めた。


「ほら、これですよ!」


そこには、橋本陽太という男性が3か月前に行方不明となったことが示されていた。


「じゃあ、ここに行方不明者が一人いるってことかもしれない!」


中村と後藤の声が自然と大きく部屋に響いた。


「いや、それはまだ分からないですね。第一、この検体ラベル偽造です。」


俺は盛り上がる二人に対し、冷静に言い放った。


「佐藤主任、どういうことだ?」


山崎も俺の発言の意味が分からないと言った表情を浮かべている。


「精液検体ラベルはSQRCなんですよ。つまり、通常読み取りで見れる公開データと、男性用病院は資源庁のみで見れる非公開データが存在します。そして、公開データで見れるのはこの検体ラベルを使用する病院の連絡先のみのはずです。」


俺の言葉に、山崎の視線が一瞬だけ鋭く光った。


「……つまり、公開層に個人情報が出る時点でおかしいってことね?」


「はい。本来なら橋本陽太の名前なんて、読み取れません。巧妙に作られた偽造ラベルです。」


俺はラベルの端をライトに透かし、印字の微妙なズレを指でなぞった。


「つまり、このラベルで本物を装う必要があったということか…」


「はい。考えられることは……交配権の偽装販売とかですね。」


「まさか……交配権を偽造して、行方不明男性の精液を売るってこと?」


「理論上は可能です。Dランクは繁殖不能のため提出する精液は検査後廃棄となる。どのように使われようが誰も誰も気にしない。」


俺の声が自分でも分かるほど低くなった。


部屋の空気が重く沈んだまま、誰も次の言葉を探せずにいた。


その沈黙を破ったのは、机の上の未開封の封筒だった。


「係長、この封筒……開けてみてもいいですか?」


中村は、山崎がうなずいたのを確認し、手袋を締め直して慎重に封を切った。


中から出てきたのは、庁の認証書式によく似た白い紙と、黒い無地のカードだった。


白紙の中央には『特別交配承認票/Private Reproduction Salon - LUXE』と印字されている。


だが、庁の正式な書式と比べると、ロゴの位置がわずかにずれていた。


「交配承認票って、これを持っていくと人工授精が受けられるアレですよね……?特別って付いてる上に、庁の認可コードが空欄です。」


中村が怪訝な声を上げる。


「これ、仮認証かもしれません。未登録施設の採取でも、有資格医の権限で一時的に正規データとして通し、交配済データの送信ができます。交配を明るみにしたくないVIPや、災害地等での活用が本来の利用目的のはずですが。」


俺は手元の端末にカードを挿入し、カード内ICモジュールに記録されたデータを表示させた。


探しているデータを見つけると、画面に大きく映し出した。


『Last Update Date = 20250329 19:26:56』

『Usage Authority = Onetime』

『Usage History = Used』

『Usage Clinic Code= Null』


「やっぱり。正規の仮認証カードとして作られ、既に使用済み。使われた日付は先月29日、病院コードもNullなので未設定です。」


「つまり、庁システムを悪用して正規の一時カードを大量に仕入れている…」


山崎の声に、後藤が息を呑んだ。


「それって……庁に加担しているものがいるんじゃ…?」


「まだ、分かりませんが庁の職員もしくは庁指定の医師が横流していると考えるのが自然です。」


俺はカードの縁を指でなぞり、金属の感触にわずかに震えた。


「資源を管理・保護する者が、男性たちの行方不明に関与している……」


言葉にした瞬間、国益に携わるものが、裏で資源の再分配をしている可能性に、背筋が冷えた。


「係長、これ……捜査すると警察内部で止められるんじゃ……」


後藤の言葉に、山崎が静かに頷く。


「ええ、確実に警察庁や最高検に報告が行くでしょう。そうしたら上層部は確実に動く。この手の案件は超政治的判断が最優先だから。」



「でも俺たちは刑事です。制度の枠に従うためじゃなく、人間を守るために動きます。」


俺は言い切った。



誰も続かなかったが、その沈黙が何よりの合意だった。

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