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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第二章「二転三転」

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第16話「新宿区島原にて」

正午前、灰色の雲が低く垂れこめる中、俺たちは現地に到着した。


島原三丁目の一角、本店所在地として記載されていた場所は、雑居ビルが立ち並び、昼間でも薄暗い雰囲気があった。


怪しい雰囲気の路上の至る所に、マッサージ店やエステ店の看板があるが、どれも似たようなものだった。


どこか均一に偽装された整然さがあり、それが逆に不気味だった。


「……妙ね。どの店舗も営業実態があるようで無い。」


山崎が小声でつぶやきながら、建物の出入りを記録している。


「通行人は女ばっかりで、男が一切いないのは不自然かもね。」


後藤が相槌を打つ形で、不思議そうに答えた。


「この辺り、護衛登録区域外です。保護SP付きでも男性は歩けない場所ですから。」


俺は周囲を見渡しながら言った時だった。


ゴミ収集車が横を通ったかと思うと、ビルの脇道から背の低い女性が慌ただしく段ボールを運び出すのが見えた。


裾の汚れた白衣を羽織っており、医療従事者には到底見えない。


「後藤!あいつつけて!中村はゴミ回収!」


突然の俺の声に驚きながらも、中村と後藤は車を飛び出した。


「係長、すれ違いざまに顔撮って!」


俺は後部座席から運転席に移動し、白衣の女の真後ろに車をつけ、ゆっくりと女を抜かした。


山崎は持っていたスマホを素早く取り出し、女の顔を正面から撮影した。


俺は、スマホのシャッター音が落ち着いたことを確認すると、離れたコンビニに車両を止め、中村と後藤の連絡を待つことにした。


―――


「しかし、佐藤主任すごいな!警大卒業間もない警察官がする現場判断とは思えない!幹部としての講習もするんだろうけど、白衣の女性一目見た瞬間に判断して、あの指示出せるなんて何者なんだい?」


山崎が車の中で興奮した様子で聞いてきた。


「いえ……ただ、白衣の着方と汚れ方が医療関係者のものには見えなかっただけです。…それに収集タイミングに合わせてゴミを捨てるのは、見られたくないゴミを捨てる典型です…」


俺は淡々と答えたが、心の奥では鼓動が早まっていた。


なんとも言えない現場感から、つい昔の癖で指示を飛ばしてしまった。


山崎、中村、後藤とも精神的には俺の方が遥かに年上ということもその一因なのだろう。


そんなことを考えていたらスマホのバイブが鳴った。


「中村と後藤から連絡入ったわね」


「ええ、二人とも成功したみたいで何よりです。ゴミ捨て場で中村主任を拾って、そのまま後藤が張ってる雑居ビルの前確認しますか。」


山崎は端末の画面を見つめ、眉を寄せた。


「ちょっと待って。後藤部長からカメラ通話来たわね。……『Private Reproduction Salon - LUXE』か。聞いたことある?」


「流石にありませんよ。」


俺は答えながら、胸の奥に微かな違和感を覚えた。


再生(Reproduction)という単語が、なぜか御厨理事官の言っていた「再編」という言葉と重なった。


「佐藤主任は目立つから中村と合流してここで待機して。私は徒歩で後藤部長と合流するから。」


山崎はそう言い、ドアを開けた。冷たい風が車内に流れ込む。


「了解です。」


山崎が車を降り、人通りの少ない路地に向かったことを確認すると、ゴミ捨て場に向け車を走らせた。


―――


「中村主任、お疲れ様。」


俺はそういうと中村に缶コーヒーを手渡した。


「ありがとう、遠慮なく頂くわね。」


中村は喉が渇いていたのか、ごくごくと音を立てて一気にコーヒーを飲み干していた。


「しかし、佐藤主任って現場で熱量上がるタイプなんだね。流石にちょっと面食らったわ。」


そう言いながらも怒った様子はなく、普段通りの凛とした表情をしている。


「いやぁ、係長にも言われましたがちょっと興奮してしまいました。すみません。」


「いや、責めてるんじゃないの。ただ、実務一年目まして男性とは到底信じられない的確な対応で。指示出してくれて助かったわ。それに…」


「それに、何です?」


「私と後藤のこと呼び捨てにしてたなぁって。一応先輩なんだけどなーって。」


そういいながら拗ねたような表情を見せる中村に、不覚にも少しドキッとした。


「いや、いやー、まぁ焦ってしまって失礼しました。」


「だから怒ってないって。頼りになる後輩の佐藤くん!」


表情の変わる中村が新鮮で、社内が明るい雰囲気になった。


俺と中村は目線が合い、どちらからともなく笑ってしまった。


「さて、係長と後藤部長を迎えに行きましょう。中村先輩はそこで腕組んでてくださいね。」



そう軽口を叩いて、俺はハンドルを握った。


だがその時、胸の奥ではまだ、あの白衣の女の顔が焼きついて離れなかった。

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