第144話「削除」
6月3日、午後4時42分。
祖母井、大原を含め、今日は勾留質問の日だ。
そのため、各取調官は執務室で水越達の作業を手伝っていた。
そのせいか、普段よりも部屋の密度は高く、少し暑苦しく感じる。
「はい、これで複写は全部終了!解析に入るよ!」
水越がそう言いながらハードディスクとノートPCを並べた。
それぞれハードディスクには付箋が張られ、祖母井方、資源庁、甘南備、大原の手荷物、倉橋のスマホと、それぞれの差押え場所ごとに分かれていた。
「二勾満期までにこれら全部の中身を見るのは、流石に難しそうですね…」
並んだディスクの多さに驚きながら、長机2つが解析ブース化した。
「まぁ、中身はこっちも複写しながら見てたのもあるから、今時点で気になるとこだけ抜粋で出すよ。」
水越がそう言って画面に表示したのは、ファイル名と閲覧ログが時系列で並んでいる画面だった。
「……皆さんもこれ、見てください。」
水越がマウスを動かし、一覧を一部を拡大すると、時系列でイベントが並んでいることが分かった。
「資源庁のファイル共有の仕組みのログを見やすくしています。」
<
Event Type:PREVIEW
User Name:Fukuda Yayoi
Item Name:LUXE_customers_pre_modification.xlsx
Event Type:PREVIEW
User Name:Ubagai Junko
Item Name:LUXE_customers_pre_modification.xlsx
Event Type:PREVIEW
User Name:Uchiyama Minori
Item Name:LUXE_customers_pre_modification.xlsx
>
「福田、祖母井、内山。三人とも、このファイルを閲覧しています。アクセス元はいずれも資源庁の業務端末です。」
画面には、見知ったファイル名が確認できた。
「LUXE_customers_pre_modification.xlsx……?」
俺が読み上げると、水越は小さく頷いた。
「ええ。ファイル自体の発見には至りませんでした。その理由は……この操作が閲覧だけじゃなかったためです。」
水越がそう言ってスクロールすると、次の行が現れた。
<
Event Type:SHARE
User Name:Uchiyama Minori
Item Name:LUXE_customers_pre_modification.xlsx
>
「ここです。」
水越が言った。
「内山が、このファイルに対して共有操作をしています。外部共有リンクの発行ですね。ダウンロード可能設定付きです。」
「……この時にダウンロードした最新版を遺書ファイルに隠したってことですか。」
俺が言うと、水越は頷いた。
「そういうこと。この時のファイルの最終更新は4月28日でしたので、間違いない。…で、その数分後にこれだ。」
<
Event Type:DELETE
User Name:Ubagai Keiko
Item Name:LUXE_customers_pre_modification.xlsx
>
「削除か。」
山崎が冷たい声で言い放った。
「はい、内山の端末からフルサイズの通信が出た直後です。福田の指示で消したのかは分かりませんが、祖母井が元データを消したのは間違いないですね。」
「……それがアクセスログには残っていたんですね。」
「はい。Boxの仕様上、管理ログには痕跡が残ります。ただ、1行づつ見ることは、インシデント発生等以外では稀なので、そのままにしたのかなと思いました。」
そう言いながら水越がPCに向き直った。
「それと、もう一つあります。」
水越が画面を切り替える。
「男性DBの操作履歴なんですけど……削除処理をしてるのが、望月です。」
日時は、警視庁に被害届が出される前日だった。
「……次、男性DBの操作履歴です。」
水越が画面を切り替えた。
表示されたのは、サーバのセキュリティログや、DBの監査ログを突き合わせた一覧だった。
「男性DBは、資源庁内部のサーバ上で動いてます。当日、現場で確認しました。認証とDBは完全に連動してます。誰が、いつ、どのテーブルを触ったかが残らない構造じゃありません。」
画面には、そのDB監査ログの一部が表示されていた。
<
Audit Action:SELECT
DB User:KURAHASHI
Object:male_subject_master
Audit Action:SELECT
DB User:UCHIYAMA
Object:male_subject_master
Audit Action:SELECT
DB User:UBAGAI
Object:male_subject_master
Audit Action:SELECT
DB User:FUKUDA
Object:male_subject_master
>
「……倉橋、祖母井、福田の名前ですね……内山もある。」
中村が小さく呟いた。
「はい。これは男性DBそのものにアクセスしたという閲覧記録なので、次に進みます。」
水越は少し間を置いて、次の行を表示した。
<
Audit Action:DELETE
DB User:MOCHIZUKI
Object:audit_male_subject_log
>
「……望月による削除って書いてないか?」
画面を見ていた山崎が疑問を口にした。
「……はい、ですが男性DBのデータではなく、監査ログ用の履歴テーブルです。ちなみに、削除日時は、資源庁が被害相談をする前日でした。」
水越は淡々と説明する。
「それと、資源庁側で収集している各端末のイベントログがこれです。」
さらに、水越はWindowsのイベントログを並べた。
<
Event ID:4624(Logon)
Account Name:MOCHIZUKI
Logon Type:3
Event ID:4672(Special Privileges Assigned)
Account Name:MOCHIZUKI
>
「望月のアカウントだけが、管理者権限でログインして、監査ログのテーブルを直接操作しています。」
そう言いながら水越は少し怒りを滲ませた。
「監査ログの改ざんになりますから、通常業務でここを消す権限を使うこと自体、まずありません。」
「祖母井や福田の閲覧履歴は残ってるということは、一部だけを削除したということですか。」
俺は画面を見つめながら呟くと、水越は頷きながら削除前後の差分を表示した。
「外部提出用に出力される監査ログから、この2人の名前だけが恐らく更新等の行だけ抜け落ちる形で処理されているのではないか、と思っています。」
祖母井と福田も、自身のアカウントを用いて男性DBの改ざんをしていたが、閲覧しかしていない状態にされていた。
そのまま、内山だけに男性DB改ざんの罪を押し付ける形で、内山はそのままな亡くなってしまった。
その瞬間、これまで感じていた疑わしいという思い、証拠品から漂う違和感が、はっきりと形になった気がした。
「やはり、資源庁を何かしらで取締るべきです。膿は全て出さないと。」
中村が小声で呟いた。
「そうですね。そのためにも他の証拠品から追い詰める方法を考えましょう。」
俺の言葉に皆が頷いた。
その頷きがひと段落した時、水越は一度画面を閉じ、別のディスクを差し込んだ。
「続いて、こっちも見ていただきたいんですが。」
そう言って水越が画面に表示したのは数字の羅列だった。




