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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第十章「本 星」

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第143話「悶々」

6月2日、午後1時1分。


「戻りました。」


そう言って俺は、執務室の扉を開いた。


部屋には珍しく、山崎、後藤、中村の三人ともが揃っていた。


「お疲れ。倉橋の供述状況はどうだ?」


山崎がそう言いながら、缶コーヒーを俺に投げてきた。


俺はそれを受け取り、開けもせずに机の上へ置いた。


「話すべきことは、ほとんど話してくれたように思います。」


先ほどの取調べで、倉橋和美は驚くほど多くを、正確に淡々と、語った。


3人の視線が、同時にこちらに向く。


「研究の経緯も、手法も、薬の話も、協定第11号の話もです。それに資源庁の構造と、福田や祖母井の関与も、倉橋が話せることは一通り……」


倉橋の供述内容はどれも曖昧さはなく、今把握している捜査情報とも矛盾しない。


論理は通っているし、自己弁護に聞こえる箇所もなかった。


だが、どこかで、納得していない自分がいる。


「それにしては煮え切らない顔してんじゃん?」


後藤に指摘されて、俺は再度自分の納得しない気持ちと向き合った。


自分自身に何度も問いかけてみたが、なぜ納得できないかの答えが出なかった。


取調官として見れば、供述としては十分すぎるほどだ。


調書に起こしても、不自然ではないだろう。


「何というか、釈然としなくて…筋は通っているんですけど…」


そう言いながら俺は、取調べ中の彼女の視線を思い出していた。


ある質問を投げかけたとき、ほんの一瞬だけ揺れた、あの視線。


倉橋に対して『最終的に、誰が判断していたのか』と問うた時、倉橋は言葉を選んだ。


答えは返ってきたが、核心には触れていないような気がした。


「それって具体的にはどんな質問なんですか?」


中村が首を傾げながら質問をした。


「2つあって、1つはSPと交渉していたという発言があったので、その具体的な内容について。もう1つは、男性の選定のジャッジをしていた人物を教えて欲しい、という質問です。」


「別に話してもよさそうな内容だけど、なんで何でしょう。」


中村の反応に俺も心の中で同意した。


推測の形でしか語られず、確定的な言い回しは避けられていた。


あれだけ詳細に話していたのに、その点は知らない、というのは不自然ではないか。


倉橋はただの研究者ではない。


非人道的な男性実験の中核を為す人物だ。


倉橋は嘘をつくなら、もっと上手くできたはずだ。


俺は、取調室の中での倉橋の姿を思い返した。


質問には正確に答え、言葉を濁すこともなかった。



「倉橋は、研究者としての説明も、被疑者としての自覚も、どちらも欠けていませんでした。それは、我々から逃げていないと思っています。」


それでも、ある話題に触れた瞬間だけ、倉橋はわずかに言葉を遅らせた。


「でも、語らなかった部分があります。そこだけは、現時点で越えられない一線なのかもしれません。」


山崎が、ゆっくりと頷いた。


「なら、次は証拠の番だな。」


少なくとも、同じ形で倉橋に聞けることは、もう残っていないだろう。


そして、今の供述の答えはまだ手付かずの証拠品解析から、導かれるのかもしれない。


山崎の発言に確信めいたものを感じながら、次に進むべき手順を頭の中で整理し始めていた。


倉橋の沈黙が意味するものは、証拠品解析の先にしか、現れない。


この事件の核心は、語られなかった判断にある。


そんな感覚だけが、はっきりと残っていた。




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