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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第十章「本 星」

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第140話「三種の目的」

倉橋は、小さく息を吸った。


視線を一度だけ天井に向け、そして逃げることなく、俺を見た。


「……甘南備と、LUXEの男性達ですね。」


倉橋の声は落ち着いていたが、それは平静とは少し違っていた。


「最初は、研究対象とは別枠という扱いでした。」


「別枠…ですか?」


「ええ。協定第11号に基づく被験者ではなく、あくまで準備段階というか前段階というか…」


前段階という言葉が、嫌な予感を連れてきた。


「表向きにはLUXEは準合法セクター、甘南備はシーシャバーです。LUXEがどのように今の形になったかについては、内山から聞いているでしょう。ただ、男性の研究としては、男性の行動、精神状態、性衝動の変化を長期的に観察するための場所でした。」


「観察……ですか?」


「はい。日常生活に近い環境で、薬剤を投与し、反応を見るためです。」


倉橋は淡々と続ける。


「薬は、疲労回復、精神安定、男性機能の補助という名目で渡されていました。LUXEで毎日点滴する訳にはいかなかったので、脳波に影響を与える成分が含まれたものを経口で服薬させていました。あとは、脳波計をつけるだけですから、LUXEのスタッフでも済みました。」


俺はメモを取る手を止めなかった。


「そこで異常が出た男性は?」


「医療的ケアが必要という名目で、施設へ移送というパターンと、施設ではなく甘南備に移送するパターンがありました。直近だと石田さんという方が甘南備移送パターンでした。」


「施設というのは例の弁天島の地下施設ですか……」


倉橋は、わずかに頷いた。


「弁天島の施設は、協定第11号に基づく正式な研究拠点です。甘南備やLUXEは、そこへ至る選別工程と言えるかもしれません。」


選別という言葉を聞いた瞬間、胸の奥がわずかに軋んだ。


それは男を、人ではなく材料として扱う言葉だと思ったからだ。


「……協定第11号、国家生殖資源安定化に関する特例研究協定その正式な内容を教えてください。」


俺は、意識して声を抑えられて質問した。


それに応えるように、倉橋は少しだけ言葉を選んでから口を開く。


「男性は国家生殖資源であり、国家存続の基盤です。その安定供給を目的とする研究については、通常医療では認められない試験設計を、限定的に特例として許容されるべきである。そして試験に必要な男性を非公知で供給するもの、です。」


「特例、とは?」


「研究目的の3種の中に当たれば、倫理を度外視してよいという内容ことです。」


倉橋は、指を1本立てた。


「第1に、男性の脳波と性衝動の相関解析を行う場合。」


そのまま倉橋は中指を起こした。


「第2に、精神状態の変動と、精液量・質の関係性の把握する場合。」


そして、倉橋の指は3本を示した。


「第3に……効率的な精子採取を可能にするための、精神状態の人工制御を試みる場合です。」


俺は、すぐには言葉を返さなかった。


この協定は、間違いなく人の権利を侵害するものではあると理解した。


だが、それがどれほど歪んでいても、俺は即時違法ですとは言えなかった。


警察は直罰規定のある法令違反に対する取締りは出来ても、憲法違反そのものを取り締まる権限は持たない。


それに、協定が公知でなければ、国民が知りえないのだから違憲審査権を行使することもできない。


どこかの罰条に当て嵌めることが出来なければ、結局このような仕組みを作った福田まで辿りつけないだろう。


その事実が自分の中で強く悔しさを生み出した。


その悔しさに流されそうになりながらも、俺は考えをまとめ、質問で場をつなぐ。


「…結局、被験者はどのように選定され、確保されるのですか。」


「すみませんが私は知りえません。ただ、条件に合う男性を見つけて、SPと交渉してといったようなことを、祖母井から前に聞いたことがあります。」


倉橋が説明口調だったことに気づいた俺は、逃がさないように声を落とす。


「SPと交渉、というのは?」


倉橋は一瞬だけ視線を泳がせた後、答える。


「交渉が何を指しているのかは…ちょっと……」


そう言い終わった後も、なぜか倉橋の視線は泳いでいた。


「そうですか……、SPとの交渉として何をしていたかはわからないということで良いでしょうか。」


「はい、申し訳ありません。」


そう言って倉橋は、ゆっくり会釈をした。


「そうですか。…もう1つ聞かせてください。その男性の選定について最終判断は誰が行うのですか?」


倉橋はまたも目を泳がせながら、少し震えた声を出す。


倉橋は意を決した顔つきで、しっかりした口調で俺に答えた。


「…今は福田弥生対策官……」


一拍置き、倉橋はさらに言葉を続ける。


「取組が……始まったころは……誰だったかしら。」

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