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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第十章「本 星」

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第139話「協定第11号」

俺はさっきまでの憤りを、無理やり飲み込んで質問を返した。


「……薬の……調達はどうしたんですか?」


以前倉橋から説明された『安定した脳波パターン』という単語が、脳内を駆け巡った。


「……私の元第二母親である大原芥子が、PMDAに勤務していましたので、福田が興味を持ち、私は大原芥子に福田を引き合わせました。」


一瞬、言葉を選ぶ間があった。


「最初は、未承認薬や審査前の薬剤を、横流ししてもらいました。もちろん、対価は支払っていたようです。……その調整は福田が行っていたと聞いています。」


「最終的には、承認薬を使った?」


「最終段階では、そうです。」


倉橋ははっきり答えた。


「ただ、検証段階では国内外の未承認薬も多数使いました。主に、素行不良と判断された男性に対して使いましたが、通常では想定されない方法です。」


いくら素行不良者とはいえ、丸っきり人体実験を続けていたことに再度憤りを感じる。


「……男性の中で…死亡例はありますか?」


「……幸いなことに、死亡は確認されていません。……ただし、社会復帰が困難な状態にまでなった方は、複数います。資源庁は彼らを『不要』と判断し、療養施設へ隔離しました。」


指示に従っていたとはいえ、人体実験を繰り返したことや、その男性達に『幸い』という言葉を使ったことに吐き気を感じながらも、俺は黙って聞いていた。


「最終的に辿り着いたのが、リスペリドンとプロポフォールという薬の併用です。通常医療では、あり得ない組み合わせで、死のリスクがあります。」


倉橋は少しだけ間をおいて、言葉を続ける。


「どちらも中枢神経に作用しますが、併用すれば呼吸抑制や循環抑制のリスクが極端に高まります。……まず、プロポフォールで急速に脳活動を抑制し、深い鎮静状態に導きます。その間に特定の脳波パターンを提示し、電気刺激を直接脳内に送ります。……イメージとしては、大脳皮質にその脳波の入れ墨を入れることに近いです。」


「…………リスペリドンは?」


「鎮静中の脳の揺らぎを抑制する目的です。ドーパミンやセロトニンの伝達を抑え、抵抗や感情の発露を最小限にします。脳波をモニタリングしながら、その状態を維持できるようになったら、段階的に薬剤を減らしていきます。」


その説明が淡々としすぎており、倉橋はあくまで研究者の口調で話ていた。


「……最終的にどうなったんですか。」


「治験者は、感情や意思決定が抑制され、指示に従う状態になります。一種の催眠状態に近いと思います。…そして……資源庁が望む、国家資源を安定して産出する存在になり得ます。」


「……その治験者を確保した方法が、協定第11号ということですか。」


俺が言うと、倉橋はわずかに目を見開いた。


「そんな公になっていない協定まで把握されているとは……驚きました。」


その声に皮肉はなく、ただ純粋な驚きの響きだった。


「その協定第11号……『国家生殖資源安定化に関する特例研究協定』と正式には言います。……つまり、素行不良男性やに生殖能力が欠如した男性を、治験者として資源庁と研究する大学や病院に提供するもの……」


倉橋の説明を聞き、俺は自身で考えていた言葉を、ゆっくりと口にした。


「治験者の確保方法について定められた、内部協定。……ですが、次第に治験者としての男性が減っていった。そこで、資源庁は男性を詐欺に嵌め、逃げ場を奪い、研究に組み込んだ……その理解で合っていますか。」


倉橋は、わずかに唇を噛んだ。


「……はい。正確には、研究の円滑化のための補助的取り決めという建前でしたが、直近の実態はその通りです。」


「……わかりました。それと、あれだけの施設を今も維持しているのに、金銭的な問題は無かったのですか?」


「いえ、金銭的な部分も次第に足りなくなり、研究の一環で簡易脳波適用をした男性がどこまで従順かを試すためにLUXE等で働かせて稼いだり、薬や脳波を相性が悪かった男性は『どんな男性でもいいから傍に置きたい』という好事家に売るということが進んでいきました。」


「……酷い話です……倉橋さん自身は、その一連の犯罪行為に直接関与しましたか。」


「……最初は、研究結果だけを求められていました。」


視線を落としたまま、彼女は続ける。


「ですが、被験者が確保できないという理由で研究が停滞すると、やがて……確保方法についても、意見を求められるようになりました。」


「そして……倉橋さんは自分の出来ることを、述べたと。」


「はい。簡易的な適用により男性が機械のような反応になることも分かっていましたので……研究を続けるために、必要だと……そう判断しました。」


取調室に、沈黙が落ちた。


空調の音だけが、一定のリズムで耳に届く。


「……倉橋さん。」


俺は、声のトーンを変えずに続けた。


「その判断が、どんな結果を生むか……分かっていましたね。」


倉橋は、少し時間をかけてから、はっきりと頷いた。


「はい。ですから……私は真摯に警察に、自分の罪に向き合おうと思って、……ここにいます。」


その言葉には、自己弁護も、同情を誘う響きもなかった。


ただ、事実を受け入れた人間の声音だった。


俺は、PCの画面に視線を落とし、次の聞くべき項目に目を通す。


「では、……次にお聞きしたいことに進みます。」


淡々と、だが確実に取調べは進んでいる。


「協定第11号に基づいて確保された被験者の話をしてくれましたが、その中で、甘南備、LUXEに監禁された男性について、具体的に教えてください。」


倉橋は、小さく息を吸った。


そして、逃げることなく、再び口を開いた。

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