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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第十章「本 星」

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第135話「橋頭堡」

俺の問いかけに、倉橋はすぐには答えなかったが、それは迷っている雰囲気はなかった。


これから口にする言葉が、供述として記録されることを、正確に理解した上での沈黙だった。


「……あなたが唯一の再現可能な脳波パターンの起点であり、国家資源安定供給の鍵であると、認識していました。」


胸の奥が、冷えていく。


「だから、資源庁の徽章を外した後も、私を手放さなかったんです。医師としてではなく……研究資機材の一部として。」


その声は、医師のものでも、母のものでもないもので、ひどく疲れた声だった。


ただ、倉橋は、自分を正当化しに来たわけではなく、赦しを乞いに来たわけでもないことが分かった。


俺は、机の上の資料に視線を落とした。


そして祖母井の犯罪事実について、聞くなら今だと直感でも思った。


「……倉橋さん。……話を変えますが、重要なことなのでお聞きします。」


俺がそう言いながら顔をあげると、倉橋は静かに頷いた。


「…祖母井が、貴方に対し『資源庁DBの改ざん方法について』メールを送信したと思います。その経緯を教えてください。」


倉橋は、すぐには答えなかったが、それは逡巡ではなく、記憶を正確に切り出すための沈黙に見えた。


しばらくしてから、倉橋はゆっくりと口を開いた。


「確認というか、一応という体裁だったと思います。……『念のため共有するから把握しておくように』、そういう書き方でしたね。」


依頼でも命令でもない、逃げ道を用意した言い回しだった。


だが、知る必要のない者に送られた時点で、意味は変わる。


俺は手を動かさず、ただ耳を傾ける。


「内容は、資源庁の保有する男性関連の情報のうち、精液ランクの更新手順と、ログの扱いについて、そして第三者が私のアカウントを利用して更新作業をする可能性の示唆。……直接的に誰かのデータを変えるような指示はありませんでした。ただ……」


倉橋は一度、唇を噛んだ。


「メールのほかに電話も来た記憶があります。必ず『資源庁職員であっても、口外禁止』と。……まぁわざわざ言われなくともそれは分かっていましたが…」


祖母井が釈放されるか否かは、このやり取りが単なる業務連絡か、資源庁情報の外部漏洩(・・・・・・・・・・)かで決まる。


俺はその分岐点に、今立っていた。


「……もし祖母井から知らされなければ、倉橋さんはその情報を知ることは無かったと理解してもいいですか。」


「はい。それは資源庁のシステム関連の情報ですから。災害等の緊急時を除き、男性関連DBは例え医師であっても容易にデータ変更出来るものでは無い認識です。」


そのまま倉橋は少し目を伏せた。


「まして、当時の私は資源庁の身分はありませんでした。さっき言った通り、祖母井さんも、勿論そのことは把握していました。」


「……そしてその情報は、倉橋さんの職務上、知る必要のない内容だった。」


俺がそう整理すると、倉橋は小さく頷いた。


「はい。当時の私の業務内容では、それらの情報に触れる必要はありませんでした。」


倉橋が迷わずに整然と答え、俺は視線を資料に落とさずに質問する。


「では、そのメール内容は、現在も確認できますか。」


倉橋の指先が、わずかに動いた。


「……完全な形では、残っていません。」


部屋の空気が一瞬張った。


「メール自体を削除した、ということですか。」


「いいえ。祖母井は慎重な人ですから、機微にあたるようなものは『情報保護モード』で送信をしています。個別に保管しない限りは、期限を過ぎたら内容が見れないようになります。」


内山みのりはその事も分かった上で、メールアイテムとしてファイルを保全し、さらに隠し持っていたということになる。


俺はその事実を思い出し、心底驚いた。


「では、倉橋さん視点で確認できる不完全な形というのは?」


倉橋は一度、言葉を選ぶように間を置いた。


「…当時、メール内容を要約したメモを、自分用として手帳に記録していました。正式なメールの複写ではありませんが、日付と、祖母井の名前、要点、あとは電話を受けた時のメモも追加で書いてあるはずです。」


胸の奥で、確かな感触が生まれる。


「その手帳、任意提出していただくことは可能ですか。」


倉橋は、俺を見た。


医師としてでも、母としてでもなく、ただ1人の参考人として。


「はい。家のありますので、提出します。……それが警察の……佐藤さんのためになるのであれば。」


俺は、静かに頷いた。


この供述だけでは、決定打にはなり得ない。


しかし、客観資料と組み合わされば、祖母井を自由にさせないための、最初の足場になり得るだろう。


「ありがとうございます。すぐに車を手配しますので、これから捜査員とご自宅に伺っても良いですか。」


「ええ、勿論構いません。」


「では、少し手配がありますので……一旦、失礼いたします。」


俺はそういって、立会補助者に目配せし、取調室を後にした。

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