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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第120話「不可逆」

「そのプログラムですが、拒否できませんか?」


俺の問いに、御厨は一瞬だけ言葉を選んだ。


「そうしたら、おそらく…国家資源として責務を果たさぬ者としてランクDにされた上、再教育が待ってる可能性がある……」


山崎が、歯を噛みしめる。


御厨は、はっきりと肯定した。


「下手したら、今日ここで掴んだ情報…全てがランクD男性の自棄っぱち…つまりは個人的な暴走として…証拠価値ゼロとして切り捨てられる虞がある…」


俺は、背中を冷たいものが伝うのを感じた。


「……つまり。」


俺は、御厨を真っ直ぐに見た。


「資源庁は、私が来ようが来まいが圧力で事件を潰すということですね。」


「その理解でいい。」


御厨は腕時計を見た。


「今すぐ来い…となるともう時間は無いな。」


山崎が、はっとして顔を上げる。


「母なら……母なら、資源庁内部で時間稼ぎが出来るかもしれません。」


御厨は小さく頷いた。


「それが出来るとしても、それほど長くはないだろう。」


俺は、ゆっくりと息を吐いた。


事件捜査によって、資源庁の悪事が見えてきて、それを追い詰めていたつもりだった。


しかし、実際に退路を断たれ、包囲されたのは俺のほうだった。


刑事としての佐藤悠真も、国家資源としての佐藤悠真としても。


「……御厨理事官。」


俺は、拳を解き、静かに言った。


「今から、私が弁天島に行きます。そして、資源庁の膿を世間に晒せば、資源庁も私を諦めるでしょう。」


俺の言葉に山崎は目を見開いた。


「佐藤主任を出張させる決裁は、そんなにすぐには…」


山崎の声は、弱く、消え入りそうだった。


「山崎係長、先ほど言ったでしょう。都合をつけるために私がここに来たと。」


そういって御厨は前髪を一度掻き揚げた。


「佐藤主任、今から弁天島に向かうぞ。山崎係長は準抗告への対応を頼む。」


「はい!」と返事をしたが、俺は御厨の発言の一部に疑問を感じた。


「御厨理事官、ひょっとして私と御厨理事官で向かうのですか?」


俺の質問に、御厨は当たり前のような表情で答えた。


「その通りだ。SP適の捜査員を用意する暇も無ければ、人員もいない。」


御厨の言葉に、山崎が思わず立ち上がった。


「理事官自ら行くなんて……あまりにも……」


「異例中の異例だな……勿論、管理監督者がプレイヤーになってはいけないと私も思っている。ただ、私が行った方が早いということもあるんだ。」


御厨は遮るように言った。


「今回は、ある程度の裁量がある人間が必要だ。通常運用では佐藤主任が無事である保証が無い。再教育か、拘束か、あるいは……存在の消失すらある……」


俺は、その言葉の裏にある意味を理解した。


「弁天島は、公にはなっていない施設だ。……そこを探られるのは何とでも阻止したいと奴らは思っているだろう。」


御厨は、淡々と事実だけを積み上げていく。


「山崎係長、今の状況で、最優先は何だと思う?」


山崎は一瞬、唇を噛んだまま俯き、絞り出すように答えた。


「……証拠の保全と、捜査の継続、です。」


「そうだ。」


御厨は短く頷いた。


「佐藤主任をここに留めれば、資源庁は合法の皮を被って身柄を押さえに来る。そうなれば、佐藤主任はどうなるか分からない。……どうしても、こちらの手は届かなくなる。」


俯いたままの山崎を見れば、その言葉に反論出来なかったことが分かる。


その時、スマホが短く振動した。


俺は横目で確認すると後藤から<男性4名保護、石田も救護完了。住田は見つからず。>とメッセージが来ていた。


俺が山崎の方を見返すと、メッセージを見たのか瞳が曇ったのが分かった。


「山崎係長、後藤部長からのメッセージで住田が結局見つかっていないな。もしかしたら、弁天島……そこには眠っているかもしれない。」


御厨の言葉に、俺は無意識に喉を鳴らした。


「でも御厨理事官、弁天島へのルートと、中への入り方はどうするんです?」


俺は、ふと気づいた。


実際に弁天島に行こうが、そこに入る権限が今の俺たちには存在しない。


「それについては問題ない。山崎係長に後で指示をする。」


山崎は、ゆっくりと息を吐いた。


「……分かりました。」


そして、震えを抑えるように背筋を伸ばす。


「では私は、ここで出来る限りのことをしますので、何卒よろしくお願いします。」


「頼む。」


御厨が、短く言った。


山崎は、俺の方を向き、わずかに微笑んだ。


「佐藤主任。……必ず、戻ってくるんだ。」


その言葉が、胸に重く響いた。


「分かりました。住田の保護、大原の検挙、そして……隠れている罪の証拠を必ずつかみます。」


山崎は、一瞬だけ目を伏せ、そして力強く頷いた。


それを見ていた御厨がドアに手を掛け、廊下の喧騒が一気に流れ込んできた。


俺は一歩踏み出したとき、ふと背中に、言いようのない違和感を覚えた。


そう、あの日刺された傷の部分が。



まるで、ここから先に進めば、もう戻れないと、誰かに告げられたような感覚だった。


俺は、その感覚を振り切るように、前を向いた。



弁天島に何が待っていたとしても。

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