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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第119話「圧力」

御厨は、俺と山崎を一瞥すると、ゆっくりと腕時計に視線を落とした。


淡々とした口調だったが、その声には、場の空気を強制的に整える力があった。


先ほどまで慌ただしく鳴っていた無線や電話が、嘘のように遠のいた気がする。


「御厨理事官……今のお話、どういう意味ですか。」


山崎が慎重に問いかける。


御厨は答える前に、執務室のドアを一度閉め、内側から施錠した。


その仕草だけで、これから出る話が公にできない類のものだと理解できた。


「いった通りだ。都合をつけるのは、捜査本部で作業する人員、これからの令状決裁とそれに伴う報告関連、それから弁天島に行く人間だ。」


淡々と提示する御厨に、俺は思わず反応する。


「待ってください。そもそも、私は御厨理事官を信用出来ていません。正直、今回の捜索差押え(ガサ)のこと、外部に漏らしてませんでしたか。」


俺の言葉に、御厨が不敵に笑った。


「まぁ、漏らしたと言えなくは無いな。」


御厨はそう言って、俺に一歩近づいた。


「認めるんですね。捜査情報がどれほど漏れてはいけないものか、ご存じなはずなのに。」


「認めるよ。捜索差押え前に資源庁の職員に情報を伝えた。具体的な日取りまで含めてね。」


御厨は視線を上げ、はっきりと告げた。


その対応にふてぶてしさすら覚えた俺は、強い憤りを感じた。


俺が声を荒げようとした瞬間、御厨の言葉が続く。


「調査対策官の山崎澄玲。彼女にすべて伝えていた。どうか協力してほしいとね。」


「…えっ!?…あ、あの、母に知らせていたのは、御厨理事官だったんですか!」


俺が反応するより早く、山崎が驚愕した。


「佐藤主任が言ったように地方公務員法違反ではあるだろう。しかし、やむを得なかった。資源庁に門前払いされたら、この捜査全体が亡き者にされかねなかったからね。」


御厨は一拍置いて続ける。


「山崎澄玲、山崎係長の母は、資源庁の中でも特別な立場でね、主管しているのは男性保護や人権問題に対するテロ調査。我々の仕事とも密接に関りがあると同時に、資源庁がどこまで歪んでいるかを、客観視しているんだ。」


「それで、資源庁の捜索差押えできちんと押収できるように頼んでいたと仰るんですか?」


俺は、ゆっくりと質問をした。


「そうだ、そうしなければこの国を歪ませている悪を取り締まる好機を逃すと思ってね。」


その言葉を聞いてもなお、俺は納得できなかった。


「それでは、私の異動させたのも御厨理事官だと伺いましたがなぜですか。それに、謹慎処分の件を誰かに話したのは誰にでしょうか。」


俺は質問を抑えることが出来なかった。


「ふむ。まぁ折角だから答えておこう。」


御厨はそう前置きして、ゆっくりと口を開いた。


「1つ目だが、LUXEの件で、資源庁の上層部から佐藤主任はかなり危険な立場になっていてね。受講率がほぼ100%の繁殖プラン適応プログラムを受けずに警大に入り、そのまま資源庁の闇に手を出した。奴らからしたら、何としても排除したい存在になっていたんだ。」


俺は自分の置かれた立場を初めて聞き、何も喋れなかった。


「このままだと、佐藤主任に危害が及ぶ可能性があったから、奴らには警察署に配置換えにして刑事課からも外すという印象を与えたかったんだ。説明出来ずにすまない。」


そういいながら少しだけ頭を下げる御厨に、何とも言えない感情が胸に広がった。


「ただ、普通の署の地域等ではこの事案の進展は無いと思ってね。池袋なら管内に甘南備があるし、防犯であれば地域住民からの貴重な情報も集められると判断したんだ。」


「それで佐藤主任は、きっちり成果を出してくれたということですね。」


山崎の問いかけに対し、御厨はにこやかに頷いた。


「そうだ。ただ、今度は佐藤主任が、池袋で甘南備を探っていたことがヅカれてね。炎上騒ぎに託けて謹慎にし、それをプレスリリースすることで奴らの目をくらませたんだ。2つ目の回答だが、そういう経緯で、謹慎の件は福田弥生に伝えていた。」


御厨の言葉が終わると、室内に沈黙が落ちた。


俺は、無意識のうちに拳を握っていた。


怒りなのか、理解なのか、自分でも判別がつかない。


「……つまり。御厨理事官の工作……私の異動も、謹慎も、それ以外も全てが資源庁の後ろ暗い部分を摘発するための嘘だったと。そう仰るんですか?」


「そういうことになる。」


俺の言葉に御厨は即答した。


「結果として、ある程度の証拠資料が押収でき、資源庁のやろうとしていたことも浮かび上がってきた。」


「……随分と都合のいい言い方ですね。」


俺の皮肉に、御厨は表情を変えなかった。


「だが事実であり、好機に成った。」


山崎が、そっと割って入る。


「……正直、御厨理事官はどこまで知っていたんですか。」


御厨は一瞬だけ視線を伏せ、それから口を開いた。


「どこまで、というのは資源庁の再教育についてという意味か?」


「はい、答えていただけるのであれば…ですが…」


御厨は、歯切れ悪く言う山崎から俺の方に一瞬だけ視線を動かすと、小さくため息をついた。


「そうだな。では…」


御厨が言いかけた瞬間、山崎の卓上の電話が鳴った。


山崎が「失礼します。」と言い、電話に出ると焦ったような表情になった。


「……はい………こちらは範囲を逸脱したりは…えぇ…わかりました。では失礼いたします。」


受話器を置くと、山崎は溜息をついた。


「……資源庁の代理人弁護士が今回の押収に対して準抗告申立書を提出したようです。」


「もうですか!?流石に早すぎませんか?」


「奴らならあり得る話だ。そして、裁判所も資源庁の申立てなら処理の優先度を高くするだろう。…係長に対しては、捜索状況の報告書等の提出が求められた感じかな。」


俺の驚きの声に、御厨が冷静な声が返ってきた。


「仰る通りです。今回の押収に至るまでの詳細な捜索状況を提出しろという話でした。流石に準抗告は認められないとは思いますが、…書類作成は今から取り掛からないといけませんね。」


山崎がそう言って暗い表情になった瞬間、再び電話が鳴った。


「今度はなんだ!」と言いながら、山崎が電話に出て、3言程度会話するとすぐに受話器を置いた。


「今度はなんだったんです?」


俺が山崎に尋ねると、すこし青ざめた顔で山崎が口を開く。


「佐藤主任……総監のところに資源庁から申し入れがあったらしい。佐藤悠真に繁殖プラン特別・・適応プログラムを受講させるため、今すぐに資源庁まで来るようにと。」


山崎の言葉が、室内の空気を完全に凍らせた。


「……繁殖プラン、特別適応……?」


俺がその言葉を反芻するように呟くと、御厨は、ゆっくりと頷いた。


「なるほど。奴ら証拠品は準抗告で、捜査本部のキーマンである佐藤自身をプログラム未受講者への受講勧奨を使って身柄を押さえる算段だ。」


隣にいた山崎がギリッと歯に力を入れた音が妙に耳に大きく聞こえ、俺は資源庁の圧力の大きさを感じた。


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