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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第116話「後藤由紀:突入」

5月31日、午後3時02分。


さっきまで位置情報を発信していた中村の公用携帯が、沈黙した。


最終地点は甘南備の裏手、電波遮断か、電源を切らされたか分からないが、どちらにせよ、想定通りだ。


「……入ったな。」


あたしの呟きに、車内の空気が一段引き締まった。


中村が潜入に成功した合図は、「連絡が取れなくなること」最初からそう決めていた。


「踏み込むぞ。」


各捜査員宛てに短く指示を出す。


本件の踏み込み理由は、あくまで形式的な『廃棄車両プレートの不正使用』だ。


甘南備は、本日定休日で店舗入り口のシャッターは下り、店内の照明も落ちている。


表向きには、完全に閉まっている店だ。


あたしは、シャッター横にあるインターホンの前に立ち呼び出しボタンを押す。



ガリ、と音がして、通話が繋がった。


『……はい?』と面倒そうな女の声が聞こえた。


「池袋警察です。こちらに廃棄された車両ナンバープレートが付けられた車両があったので、お話をお伺いしたいのですが。」


あたしは間を置かず、淡々と告げる。


『……はぁ…今日、店は休みなんだけど。』


「承知しています。定休日の方がお話がしやすいと思って伺いました。車両の使用状況について、確認が必要なので中で話せませんか?」


沈黙少しの時間続いた。


その後、インターホン越しに、舌打ちする気配がした。


『……はい。…今、店の入り口開けるからちょっと待って。』


その声に、諦めと苛立ちが混じる。



しばらくすると、ガシャリと解錠音とともに店舗入口のドアが開き、大原麻子が姿を現した。


捜査資料で何度もみた顔だ。


定休日という割には化粧をきちんとしており、服装も外行きで、完全に仕事モードに見えた。


「どうぞ。」


大原が投げやりな口調で言いながら、道を空ける。


「ありがとうございます。」


あたしはそう言って、一歩踏み込んだ。


その直後、あたしに追従する形で捜査員が次々と店内になだれ込む。


「ちょ、何この人数!?車の話するんじゃなかったの!?」


「勿論話もお聞きしますが、まずはこちらを見てください。ここに対する捜索差押許可状です。」


あたしは茶封筒から書面を取り出し、大原に示した。


心の中で


「道路運送車両法違反…この店舗に頻回に駐車していた車両のナンバープレートが廃棄されたものということで、この店舗で関連するものの捜索を行います。」


大原の表情が、さらに険しくなった。


「……は?それどこの車?ウチのなの?」


「廃棄前は麻麻商事という名義です。しかし、こちらに頻回に停まり、使用者はこちらに出入りしておりますので。関係先として捜索を開始します。」


あたしがそう告げた瞬間、キィンと鋭い電子音が、微かに聞こえた。


どこかで異常を知らせるために鳴っている警告ベルだろうか。


あたしは内心で、中村がまだこの中にいると確信した。


「では、関係するものがあるか確認しますので。」


あたしが言うと、大原は一瞬だけあたしを睨み、それから肩をすくめた。


「そんな車も会社も知らないわよ。他のフロアの間違いじゃない?」


「間違いかどうかはこっちが判断するのでお気になさらず。」


あたしは一歩前に出る。


「我々は、捜索を開始します。立会人として見ていてください。」


それを合図に捜査員たちが、それぞれの持ち場へ散っていく。


あたしはさっき鳴った音が気になり、店舗の奥へと進んだ。


店舗の奥、左手側に閉まりきってないドアを見つけ、手をかけた。


「ちょっと、そこは関係ないんだけど!?」


後ろからついてきていた大原が声を上げた。


「中を見てから判断します。邪魔はなさらないように。」


あたしがそう言ってもう一度手をかけた瞬間、バタッと音を立てて内側からドアが思い切り開いた。


「うわっ!」と思わず声を上げ、中を見るとそこには、見知った顔の見知らぬ姿があった。


脱色したての髪に、濃いめの化粧、グレーの安っぽい作業着を着ながら、肩で息をする女性。


中村だ。


「後藤部長!人足こっちに寄越して!」


正直、今回は行き当たりばったりすぎて中村の安否は心配になっていた。


しかし、中村の顔を見た瞬間、胸の奥に張りついていた緊張が、ふっと抜けた。


言葉にしたら、多分声が乱れる。


だから、あたしは何も言わず、ただ一度だけ頷いた。


「店舗は最低限の人数だけ残して、それ以外は全員、奥の左の部屋だ!」


あたしが大声で指示する姿を見た中村は、すぐに視線を部屋の奥に戻した。


「急いで!こっちから地下に行ける!早くしないと逃げられる!」


その視線の先、開いた扉の向こうから、冷気が流れ出てくる。


「分かった!皆、急げ!」


そう言って、あたしは中村と2人で、部屋の中に隠れていた階段から下に降りた。



「で、何があったの?」


階段を降りながら中村に聞いた。


「多分薬で眠らさらた男性が居る。黒いコンテナ4台だから4人監禁されてると思う。」


「まじか…石田は?」


「分からない。いま休憩中だけど、探す暇はなかったの。まとめ役は慌ててたから、甘南備班が来たって思って。」


中村の回答を聞きながら、あたしは再び前を向いた。


階段を下り終えると、一気に空気が重くなった気がした。


天井は低く、蛍光灯が間引かれて点いている。


近くには女性が2人、床に座り込んでいたが、こちらを見ながら気にする様子も無い。


中央に並んでいた黒いコンテナに近づき、留め金に手をかけた。


「……あけるよ。」


あたしは中村に言うと、「慎重に。」と返事が聞こえた。


ガチャリ、と音を立てて蓋を開き、中を覗き込む。


人だ、若い男。


目を閉じ、呼吸は浅く、腕には点滴の跡がいくつも見える。


首元には、電極のような痕が残り、ゆっくり喉が動いている。


「……生きてる。」


中村の声の震えを感じながら、あたしは、歯を噛みしめた。


こんなことを、人間相手にやった連中がいる。


あたしは、その事実に、取り締まるべき存在をはっきりと意識した。


捜査員が到着したのか、後ろからドタドタという足音が聞こえた。


「誰か至急119して救急要請!他のやつは作業着着てるやつ全員に手錠わっぱかけろ!監禁で現行犯逮捕げんたいだ!」


「待って!バイト達には、自由を奪っているという故意が無い!コンテナの中身は知らされてないから!」


あたしの怒鳴り声の後、隣から中村が静止する声が聞こえた。


「じゃあどうするの!送致前釈放になるの前提でも、身柄押さえるのが普通でしょ!」


任意同行にんどうかければいいでしょ!」


任意同行にんどうでどうすんのよ!物も押さえる必要あるでしょ!その消極さで、あんたホントに組対出なの!?」


言い争うあたし達を見て、捜査員だけでなく作業着姿のバイト達もこちらを気にし始めた。


あたしは、こういう時に佐藤が居たら、明快な指示を出してくれるはずだと心の中で思った。


「早く!どうすんの!あんたの方が階級上なんだから、さっさと決めてよ!」


「わかったわよ!未必の故意ってことでとりあえず現行犯逮捕げんたい!」


中村の悲鳴にも近い指示を受け、捜査員たちが一斉にそれぞれのバイトを取り囲んだ。



その直後、あたしは一人の人影が奥に消えたのを視界の端でとらえた。


「ねぇ、あの扉の奥にだれか消えた!行くよ!」


中村が、一瞬だけこちらを見て、「ついてこい。」とその目が言っていた。


あたしと中村は奥の扉に向かって走り出した。

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