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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第115話「中村英子:コンテナ」

5月31日、午前11時39分。


指定された場所についた私を待っていたのは、帽子にマスクをした女性だった。


「バイトの米田です。」


「年齢確認するから免許見せて。」


私が声をかけるとぶっきらぼうに、手を出してきた。


事前に作ってもらっていた仮想身分証を差し出すと、女はカードスキャナで読み取りをした。


ICチップの中身もきちんと情報が書き込まれているのか不安になり、私は一瞬だけ呼吸が止まった。


10秒程度で免許証が返されると、女が「乗って。」と言い、ワゴンの後部座席に乗るよう指示された。


乗車すると、中にはどこにでも居そうな女性たちが面倒そうに座っていた。


お互いに会話している様子はなく、空気は重かった。


車内には、消毒でも香水でもない、鼻を付くような匂いが漂い、鼻の奥に絡みつく。



ワゴンが動き出し、窓の外はスモークガラスで見えなかった。


運転席との間にカーテンが引かれており、ナビ画面も見えない。


そんな状況にもかかわらず、誰も行き先を聞かない。


それが、この車の暗黙のルールなのだろう。


私は、太ももの上で指を組み、爪の先が皮膚に食い込むのを感じていた。


警察手帳、無線、私物携帯、何も持ってきては居ない。


ここまで来たら戻れないという事実を、頭の中で静かに確認する。


「……今日、何の担当か聞いてる?」


前の座席に座っていた女性が、振り返らずに言った。


声は低く、抑揚がない。


「搬送と受付、ってだけ」


私は余計な情報を足さないように、出来るだけ短く答えた。


「じゃあ当たりの日だね。」


あまりに軽いその言葉の意味を考えないようにしながら、私は視線を戻した。



時間的には数十分なのか数時間なのか分からないが、ようやく車がとまり、扉があいた。


降りた瞬間に周囲を確認すると、森下の報告書にもあった甘南備の裏手だった。


建物のシャッターが半分ほど開き、目の前に階段が広がっていた。


その奥から冷えた空気が流れ出てくる。


中は薄暗く、天井の蛍光灯が間引かれたように点いていた。


私達は中に誘導され、中に入るとシャッターが下りた。


「スマホ、全部ここ入れて。」


入口に置かれたプラスチックケースを指差される。


誰も文句を言わず、次々に端末を放り込んでいく。


私も、それに倣って公用スマホの電源を落として置いた。


連絡手段が完全遮断されることは予想通りだが、改めて確認すると胃の奥が重くなる。


「説明はあと。まず着替え。」


倉庫の一角に、簡易的なカーテンが張られていた。


中には、サイズも色もバラバラな作業着が積まれている。


私は無地のグレーの上着を取り、袖を通した。


布は薄く、やけに軽いことから用済み後に廃棄しやすい素材だと、直感的に分かる。


「準備できた人から、奥。」


私達は指示に従いながら、奥へ進むと床には台車。


その脇に、黒いコンテナがいくつも並んでおり、サイズを見るとまるで棺のようだった。


「これ、中身なに?」


誰かの問いかけに返事をしたのは、さっきの女だった。


「薬と商品。中開けないで。運ぶだけ」


一瞬、場の空気が張り詰める。


「……やばい系?」


その問いに、女が面倒そうに答える。


「フェンタニルとかじゃないよ。リスペリドンとプロポフォール、ただの医療用麻酔と抗うつ剤だから。」


「ヤバくない薬なのに、こんなところから運ぶ仕事なの…?」


質問した女が恐る恐る尋ねた。


「それ以上は守秘義務違反。あんたの母親攫われたいの?」


それ以上の説明はなく、再び無言の空気が流れた。


私は近くにいた女と一緒にコンテナの取っ手に手をかけ、持ち上げると、思ったよりずっしりと重かった。


「落としたらバイト代無しね。」


女の言葉に、誰かが小さく舌打ちした。


私は腕に伝わる重さで、直感的に理解した。


これはおそらく、眠らされた男性達《商品》何だと。


私は、呼吸のリズムを意識的に整え、心の中で、驚いた顔をしてはいけないと何度も呟いた。


ここでは、何も考えていない顔が一番安全だ。


「……行くよ」と相方の女が、短く言った。


私は頷き、コンテナを乗せた台車を押し出した。


「……何回目?」


不意に、相方が小さく聞いてきた。


「なにが?」


「ここ来るの」


私は一瞬考え、首を横に振り「初めて」と端的に答えた。


「じゃあ一個だけアドバイス。会場に運び終えたら目を合わせない方がいい。」


「……何と?」


「商品と。」


そう答えた相方は以降何も話さなくなった。



「車の荷台に積んで。」と言う女の声に従い、コンテナをシャッター付近の階段前まで運んだ瞬間、短い警告音のような電子音が鳴り響いた。


驚きながらもゆっくりコンテナを下すと、階段の上には面倒そうな態度の女性がいた。


「搬送中止、何か車のナンバー登録の件で警察が来たみたい。私が店舗で対応するから、あんたらは休憩。」


目を細めて顔を見ると、捜査書類にあった大原麻子によく似ていた。


大原はそれだけ言うと、階段上の扉に入り、ガチャリを鍵をかけたようだった。


「じゃあ、いったん休憩。適当に座ってて。」


指示を出していた女がそう言うと、相方の女は床に座り始めた。


私は、指示をだしていた女に近づき耳元で「トイレに行きたいんですけど。」と囁いた。


女が一瞬こちらを見て返事をする直前に、再びさっきより大きな電子音が鳴った。

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