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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第110話「祖母井方」

5月31日、午前7時17分。


捜査本部は集められた捜査員が班毎に固まっている。


それぞれの現場責任者が必要最低限の指示を飛ばし、皆神妙にその話を聞いている。


俺の祖母井自宅班は既に指示を終え、先行部隊は既に現場で張っている。


その他の者は、淡々と捜索差押え用の資機材の確認を進めている。


俺は自席で、自身の装備とスケジュールをもう一度確認していた。


壁際の時計の秒針が、やけに大きな音を立てて進んでいるように感じる。


この日を迎えた以上、それぞれが決められた役割を、それぞれが黙って実行するだけだ。


俺は祖母井の居住地住所を頭の中で反芻しながら、ジャケットに袖を通した。


「係長、祖母井班向かいます。」


山崎が俺の方を一瞥し、静かに頷いた。


---


同日、午前7時47分。


俺は祖母井の自宅前に到着し、目立たないように車両の中から玄関に目を向けた。


資源庁の出勤時間を考えると、そろそろ自宅から出る時刻だ。


俺以外の捜査員は玄関や裏口を固め、じっと待機している。


<祖母井自宅、配完>とシンプルなメッセージを山崎に送り、俺はスマホをポケットに突っ込んだ。


祖母井がまだ家の中にいる以上、余計な音は不要だ。



しばらく待ち、時計の針が8時を示す寸前、祖母井の自宅玄関扉が開いた。


中から出てきたのは祖母井純子本人だった。


「来た!押し込め!」


俺は、端的に無線を飛ばし、それに呼応するかのように捜査員が祖母井を取り囲んだ。


俺も即座に車を降り、玄関へと駆け出した。


朝の空気は思ったより冷たく、指先がわずかに震えた。


「……こんな時間に、何の用なの?あなたたち誰?」


きっちりスーツを着込んだ祖母井が、少し震えながらも怒鳴っている。


「おはようございます。祖母井さん。先日はどうも。」


俺の言葉を聞くなり、祖母井が睨みつけてきた。


「朝から善良な公務員を取り囲むのが、警視庁の仕事なの?邪魔なんだけど、どかしてくれない?」


「穏やかじゃないですね。まぁ近所の目もあるでしょうし、中に入れてもらえませんか?」


「あなたが普通の男なら歓迎だけど、小僧刑事に敷居は跨がせるつもりは無いわ。」


「残念ですが、今日は歓迎を受けに来たわけではありません。」


俺は一歩前に出て、鞄から書面を取り出した。


「何?わざわざお手紙届けに来たの?郵便局に転職したのかしら?」


「いえ、これは捜索差押許可状といって、祖母井さんの居宅から強制的に物を押収できるという書面です。」


これまで噛みついていた祖母井が、驚愕の表情に変わった。


御厨から連絡が行っているにしては、演技に見えない表情だ。


「被疑事実は、国家公務員法違反です。資源庁の秘密情報を漏示したというものです。倉橋和美という女性に資源庁のDBのデータ改ざん方法を教えていたという内容です。それでは、ご自宅の確認を致しますので…午前8時10分、捜索差押え着手!」


祖母井の表情が、はっきりと固まった。


「……ふざけないで!何かの間違いでしょ!」


祖母井の声は低く、だが震えはなかった。


「ちゃんと簡裁発付の令状ですよ。中で再度確認しますか?」


俺は書面を開き、祖母井の目の高さに合わせて差し出した。


祖母井は数秒間何も言わずに令状を睨み、ゆっくりと視線を俺に戻す。


「……あんた、覚悟はあるの?」


「あります。」


俺が即答したことで、祖母井の口元がわずかに歪む。


「意味が分かってないようね。……この家には、資源庁だけじゃない、警視庁やその上の警察庁の人間が来ることもあるのよ?あなたたちが踏み込めば、私がどこに報告するか分かってる?」


「報告して頂いて構いませんよ?私は警察官として、上司に報告されて困るような職務執行は1度もしたことがありませんので。」


俺は一歩、さらに踏み出した。


「あと付け加えますと、これ以上我々の捜査を妨害するようなら、公務執行妨害の現行犯になってしまいますけど、抵抗を続けますか?」


祖母井はしばらく沈黙し、その後、肩をすくめるように息を吐いた。


「……好きにしなさい。」


そう言って祖母井によって玄関の扉が大きく開かれる。


「でも、ここには何もないわよ。」


祖母井は俺を真っ直ぐ見据えた。


「それは我々が確認することですので。」


俺は短く言い、後ろに手を振った。


「捜索開始。」


その一声で、捜査員たちが一斉に動き出した。


俺は玄関に立ったまま、祖母井と向かい合った。


「……佐藤警部補だったかしら。」


祖母井は、俺の階級を確かめるように、ゆっくりと言った。


「若い男にこんな仕事を任せるなんて、警視庁は人材不足みたいね。」


「そうかもしれません。」


俺は視線を逸らさず答えた。


「ですが、令状は警察官毎に効力が変わるものではありません。」


祖母井は俺の言葉に反応を返さず、玄関脇の靴箱に手をかけ、履いていた靴を脱いだ。


そしてそのまま、ゆっくりと家の中へ入っていった。



俺は祖母井を目で追いながら、<8時10分、祖母井方、着手>と山崎に送信した。

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