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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第109話「山崎玲奈:吐露」

私は、佐藤に向かって自身の境遇から話始めた。


「もうすでに知っているとは思うが、私の母である山崎澄玲は資源庁の調査対策官でね。昔から出世街道まっしぐらで、少なくとも、仕事に関しては文句のつけようがなかったんだろうと思うよ……ただ、その分、家庭は二の次だったけどね。」


佐藤は何も言わず、ただ頷いた。


私は、天井を見上げるようにして言葉を続ける。


「私はあまり自分の面倒を見てくれない母を好きではなかったし、結構厳しく躾もされてね。愛情よりも恐怖で教育するタイプというのか、そんな感じの家で育ったんだ。」


佐藤はいつにも無く真剣に聞いてくれていた。


「当然母は私を公務員…まぁ資源庁に入れたがったが、私がわざと落ちるように試験を受けたことに激昂してね。『男性に対する優遇措置が受けられないじゃないか!』って。で、その時まだ募集をかけていた警視庁に入れられたんだ。自分の人生を自身で選択できないことに絶望したよ。」


昔の話でとっくに乗り越えたはずだが、未だに込み上げるものがある。


「そんな人生に辟易していた時、豊島区役所の屋上で泣いていたんだ。ただ、泣きながら煙草の匂いがすることに気付いてふと顔をあげると、自分より2~3歳年上に見える男性が居たんだ。それが住田正人だった。」


名前を口にした瞬間、喉の奥がわずかに詰まる。


「男性が喫むことが制限されているのに、平然と吸っている様子がなんだか不審に思って、思わず『吸わないほうがいいですよ。』と指摘すると、彼はただ笑うだけだった。」


私は、膝の上で拳を握りしめた。


「当時の彼は飄々とした雰囲気で、他の男性とは纏っている空気が違ってね。『泣いててもこっちが気になる程度に落ち着いたなら、大丈夫そうだね。』って笑って話しかけてくれたんだ。」


そこまで言って、息を吐く。


「それで、私は気を許されたと思ってしまって舞い上がって自分の事や母の事なんかを全部吐き出したんだ。彼は相槌を打つわけでもなくただ隣で煙草の匂いをさせるだけだったが、とても心地よく感じたんだ。」


今も思い出す光景では、彼は、私の話を遮らなかったし、慰めもしなければ、同情もしない。


ただ、屋上の縁に腰掛けて、私と同じ方向を見ていただけ、それだけの記憶だ。


「全部話して少しスッキリした私に対して彼は『人の愚痴を聞くのは嫌いじゃないんだ。酒があったら良い肴になったかもね。』って笑って返してくれた。私が女が怖くないのか聞くと『脳波のブレが他の男性より少ないから恐怖を感じにくいらしい体質だってさ。』とぶっきらぼうに言っていたな。」


私は、ゆっくりと言葉を選びながら続けた。


「そこで私は連絡先の交換を申し出たんだ。今考えれば通報されそうだが、公務所内と言うこともあってSPの姿も見えなくてね。それに、自分が初めて一人の人として見られた気がして、自分を抑えられなかったんだ。」


佐藤は、身じろぎひとつせず聞いている。


「彼の仕事は個人でデザインの仕事をしていると聞いていて、あまり人と話をしないから新鮮だと言ってくれたんだ。それから少しずつ会うようになったんだ。」


小さく息を吐く。


「……不思議な関係だったよ。友人でも同僚でも無い。ただ、私と会って話をしてくれる人だった。」


私は、指先を見つめた。


「でも、いつからか、彼から連絡が来ないと落ち着かなくなっていたんだ。一通り話題が終わったのにも関わらず、私が『返信してくれなかったね。』と送ったら、彼は少し困ったように返信してきたりしてね。」


私の頭の中で住田からのメッセージが表示された画面が映った。


「……そんな関係だった。付き合おうって私は言えなかったけど、気付いたら一緒に食事をして、気付いたら話をしていた。私は住田にそれ以上は何も求めなかった。警察官としての私にも、資源庁の娘としての私にも。」


少しだけ笑おうとしたがうまくいかず、私の言葉に微かな震えが混じった。


「だから、私は……自分が本当に彼に必要とされている気がしていた。その関係が3年弱続いた時に、彼から『一緒にいるのが当たり前になりすぎたね。約束しない?』って言われたんだ。」


その時の光景が、鮮明によみがえる。


「……その言葉の意味を理解した時、天にも昇る気持ちだったよ。男性と結婚するのは政治的なお見合いばかりのこの国で、彼から婚約の話が出るなんて。一生分の運を使い果たしたと言っても過言ではない。」


声が、わずかに低くなる。


「ただ、その数日後、彼は忽然と姿を消した。私が25歳、彼が27歳の時だ。」


私の言葉に佐藤が目を見開いた。


「えっ!?係長今35歳ですよね?その話が本当なら住田は37歳じゃ……でも行方不明者届は27歳って……」


私は、佐藤の言葉に小さく頷いた。


「そうだ。計算は合わない。」


佐藤は、混乱を隠そうともせず、眉を寄せたままこちらを見ている。


「住田正人は、失踪した時点で27歳。……そして、本来なら今は37歳だ。しかし、行方不明者届に登録されていた住田の年齢は27歳のままだった。」


佐藤が、はっとしたように瞬きをする。


「……つまり……失踪時点年齢が、今の年齢として登録されたということですか。」


佐藤の言葉を口にした瞬間、胸の奥が僅かに軋んだ。


「そうだ。当時私は署の勤務だったから知り合いも少なくてね。休みの日に何度も管轄である池袋署の同期や顔見知りを頼って行方不明届を出そうとした。でもそれが受理されずにいたんだ。何とか受理させたくて我武者羅に階級を上げて、何度も試みたよ。」


私は、机の縁に指をかけた。


「私の届は受理されなかったが、最近急に池袋署で10年前に失踪した人間が、27歳として行方不明者登録された。さらに、そのまま捜査が結了と。普通なら、あり得ない。まして、行方不明者の年齢は、失踪時年齢と経過年数が必ず併記される。」


そのあり得なさが、私の中でずっと引っかかり続けていた。


私の言葉を受け、佐藤は無意識に唇を噛んでいた。


「誰かが、意図的に登録したということですか。それはつまり…」


私は、ゆっくりと背筋を伸ばした。


「……住田は…彼は単なる失踪者じゃない。警察に伝手がある人間に管理されていると、まだ生きていると確信した。」


私は無意識に指先に力が入った。


「そして、彼が生きているのなら……10年前のままの時間で、どこかに留め置かれていた可能性が高い。」


「……だから、係長は行方不明事件を追い続けていたんですね。」


「そうだ。」


私は、目を伏せた。


「結了になった事件を、何度も掘り返した。非番や休日に自力で捜査することをやめられなかった。」


少し間を置いて、続ける。


「母が資源庁にいるおかげで、この国の表に出ない事案の構造を見てこれた。だからもし、甘南備やおせおせ学園で住田に繋がる何かが見つかったら……」


言葉を切り、正直に告げる。


「私は、まともな捜査員として現場判断が出来ないかもしれない。」


佐藤は、少しの間沈黙し、やがて低く言った。


「……話してくれてありがとうございます。ただ、私は係長を信頼していますから、遠慮なく報告は入れますし、他の捜査員からも入れてもらいます。」


私は、驚いて彼を見た。


「きちんと状況を把握して判断してください。それが出来なくなったら、その時は私が係長の職責の一端を担います。」


不思議と、胸の奥が静まり、私は小さく息を吐いた。

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