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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第106話「守秘義務」

俺と山崎が庁舎に戻ると、部屋の前はいつもより少し騒がしかった。


「戻ったぞー。」


山崎が声を張りながら扉を開くと、目に飛び込んだのは白と金を混ぜたような髪だった。


「お疲れ様です。」


そういいながら金髪が振り返ると、いつもより少しメイクが濃い中村と目が合った。


しかし一瞬、俺は言葉が出なかった。


眉の形もいつもより細く、まつ毛が妙に主張しているが、瞳だけは見慣れたままだ。


服装はラフ目だが、少々露出があり目のやり場に困る。


「……どちら様?」


俺が思わずそう言うと、中村は一拍置いてから、むっとした顔をした。


「……佐藤主任…さすがにひどくないですか、それ。」


中村がそう言いながらじっと睨んできた。


「いや、悪くはないですよ。本当に、悪くはないですが……」


俺が言葉を探していると、後ろから笑い声がした。


「ふははっ!成功じゃん!」


後藤が椅子に腰掛けたまま、楽しそうに言った。


「何というか、絶妙に金欠感と定職に就いてない感があって…少なくとも警察官には見えませんよ。」


そういったものの、俺は変装としては成功だと頭では分かっているのに、どこか不安が消えなかった。


「…ちょっと不本意ですがありがとうございます。一応、褒め言葉として受け取っておきます。…まぁ後藤部長のアドバイスで、ブリーチのみで色を入れてないので、変装としては成功ですかね。」


中村はそう言いながら、肩までの髪を軽く払ったが、その姿が妙に板についている。


「なんというか、本当に髪型と服装と化粧で変わるな。真面目な中村主任の面影はないな。」


山崎が頷きながらに言う。


「昨日の夜にネットで動画を見ながら、練習したんですよ……でも三回くらいは失敗しました…」


「失敗って、どんなだ?」


「隈取みたいなアイラインになったり、左右の眉が別人になったり、結構、苦労しました。」


中村の回答を聞いて後藤が吹き出した。


「それはそれで面白いじゃん!」


「証拠写真見ます?…あ、佐藤主任は見ないでください。」


中村がスマートフォンを俺以外に見せると、今度は山崎が笑った。


部屋の空気が軽く感じたが、それは潜入時の準備が整った証拠でもあった。



「で、別の話ですが、向こうとの連絡はどうですか?」


俺の言葉に中村は、スマートフォンを操作しながら頷いた。


「相手は何回かアカウントを変え、最終的に『ASK@イベント責任者』というアカウントからオンラインイベントスタッフのバイトであることを伝えられました。」


「具体的な仕事内容は何ですか?」


「オンライン受付補助、荷物の運搬・管理としか知らされていないです。でも…」


一瞬、中村の指が止まった。


「……条件が、いくつか付いていました。」


中村の声色が変わり、笑いの余韻が自然に消えた。


「どんな条件だ?」


山崎が静かに尋ねた。


「当日までに海外暗号資産取引所のアカウントを作ってくること。当日キャンセル不可。それと……」


中村は一度、画面を伏せてから言った。


「危険が伴う可能性があるため、『すべての指示に従える方』と。」


部屋の空気が、わずかに沈む。


「それだけ?」


後藤が軽く聞いた。


「そう。その一文だけ、妙に強調されていて『守秘義務があるため事前質問は不可』、『当日に個々の判断は求めない』とも記載があります。」


「報酬の支払いはどうなってますか?」


「一日の作業全てが終われば、実施した作業分をその場で支払うと。出来高で判断するため、額も通知されていません。」


後藤が舌打ちする。


「この不審すぎる条件でも来る人間を求めてるんだね。」


「不審さに目を瞑っても即日払いに惹かれる人間、もしくはこの条件を不審だと思わない人間のみにするためのスクリーニングですね。」


「応募する側に少しだけ、同情しました。」


中村はそういって、小さくため息をついた。


同情が職務を狂わせることを、俺が指摘しようとした瞬間、山崎が釘を刺す。


「中村主任、わかっているだろうが同情は禁物だ。職務執行がブレる。」


「わかっています。…わかっていますよ。」


中村の声が次第に萎んでいくのがわかった。


「で、集合場所と時間は来ましたか?」


空気を変えるため、俺が端的に聞いた。


「まだ確定していません。『池袋近辺だと思いますが、当日の朝10時に連絡します』という案内が来ているだけです。」


それ以上、中村から新しい情報は出てこなかった。


「……中村主任、一つだけ確認します。相手は中村主任を人として見ていますか?」


中村は、少し考えてから首を振った。


「それはないです。自由に使える道具として扱っている感じ……としか思えないです。」


「そうだな。…もし、もしも本当にやばい雰囲気を感じたら逃げろ。誰も中村主任を責めたりはしない。」


山崎が言う。


「はい。当日もし甘南備関連以外に変わったら離脱しますので、大丈夫です。」


中村は、そう言いながらも、覚悟を持った瞳を逸らさず山崎を見ていた。


「いったん話はここまでだな。」


山崎が言って、場を締める。


「甘南備とおせおせ学園跡へのカメラ設置や監視もあるし、それぞれの仕事に戻ろう。」


俺たちは頷き、中村はスマートフォンをポケットにしまった。


俺は、金髪が蛍光灯の下で不自然に光る姿を見て、ふと思った。


本当に大丈夫かと。



俺は、漠然とした不安を感じたため、顔を洗おうと部屋を出た。


少し離れた男性用トイレに向かうため、歩いていると前に御厨が誰かに電話をしていた休憩スペースに人影が有ることに気づいた。


胸騒ぎがして、足音を殺して近づくと、小さく御厨の声が聞こえた。


「…そうです。……流石に罪名までは言えません。……そうですね、内山みのりの上司同僚部下のエリアは対象に入るかと……えぇ、その認識で問題ありません。」


俺は、その会話の断片を聞き、腸が 煮えくり返った。



「……えぇ、その通りです。…今月の31日……資源庁のシステム企画課に捜索差押えが入ります。」

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