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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第102話「応募」

「本当に、押しますよ?」


中村が恐々そう言いながら、スマホの画面を見せてきた。


画面には、<かなり稼げる仕事ということで、応募しました。>と記載されたDMの下書きが表示されていた。


「お願いします。ここで採用されることが肝要ですから。」


俺の声に、中村がぎゅっと唇を噛んで頷き、そっと送信ボタンを押した。


「……もう後戻りできないんですよね。」


「元々、戻る気はありませんよ。」


俺が軽く笑うと、中村は怒ったような、それでいて泣きそうな目で睨んできた。


「……ほんと、こういう時だけ強がるよね。」


そう言いながら、後藤がクリアファイルを1つ持って近づいてきた。


「応募したなら、次はそれっぽい人物像づくりをしないとね。仮想身分証と、一応職歴と住所、まとめておいた。」


俺は受け取り、中身を確認した。


「……ものすごくリアルなんですね。」


「当たり前でしょ。本物に見えなきゃ意味ないでしょ。」


横で森下が小声で呟く。


「中村主任のオーラだとまともすぎるから……逆に浮きませんか?何かどちらかというと出来る女感強めっていうか……」


「まぁ確かに、中村主任の見た目でこういうの応募しませんよね。」


横峯が真面目な顔で加勢してきたため、俺は少しだけ笑った。


「中村主任。いっそ、髪染めてピアス開けましょうよ。」


俺の発言に、中村が目を見開いた。


「えっ!?それって服務規程違反なんじゃ?」


「用心に越したことはないから、それもありだな。」


山崎が腕を組みながら歩み寄ってきた。


「職務上の染髪だったら許可が下りるだろう。写真は差し替えればいいから、美容院に行ってきなさい。」


山崎の言葉に、中村は完全に固まった。


「……係長…本気で言ってます?」


「本気だ。どう見ても警察官《PM》の状態で潜入なんて出来んだろう。それに、中村主任はLUXEに通ってたから、大原や倉橋にバレる可能性もある。」


後藤がニヤリと笑いながら付け加える。


「ついでにメイクも少し濃いめにしなよ。お堅い職場の薄化粧じゃ『違法風俗《LUXE》通い』の慣れてる感じが出ないよ。」


「……慣れてる感って!私そんなイメージじゃないから!」


中村が抗議するが、誰も止めない。


森下がぽつりと言った。


「中村主任がそういう格好したら、佐藤主任はどう思います……?」


「ん?まぁ普通に興味ありますね。中村主任は目鼻立ちが綺麗なので、華やかな姿も似合うのでは?」


俺の言葉を受け、中村が呼吸の仕方を忘れたように固まり、耳まで真っ赤に染め上げた。


「な、なにそれ……!普通に、って……そんな軽く……」


言葉にならない言葉をこぼしながら視線を泳がせている。


後藤が呆れたようにため息をついた。


「はいはい、色気づいてる場合じゃないから。作戦の話、進めようよ。」


「い、色気づいてなんてないませんからですから!!」


中村の口調が乱れて声が裏返った。


それを見ていた森下と横峯が、同時に吹き出しそうになって口を押さえた。


山崎が咳払いをして場を締めに入る。


「……とにかく、中村主任は変装必須だ。髪色は明るめに、メイクも濃いめ。服装も違和感がない程度の華やかさに調整してくれ。」


「……違和感が無い程度の華やか……?」


中村は頬を押さえながら視線を落とす。


俺は少しだけ声を落として言った。


「大丈夫です。きっとお似合いですよ。むしろ、見慣れたら違和感がなくなるくらいかもしれません。」


「や、やめてください……!本当に……!」


赤面がさらに濃くなり、もはや顔全体が湯気を立てそうだった。


後藤が笑いながら背中を軽く叩く。


「はいはい、そんな赤面してる場合じゃないでしょ。潜入の要なんだからしっかりしてよ。」


中村は深呼吸して、ようやく顔を上げた。


「……わかりました。じゃあ予約して……美容院、行ってきます。」


その声音はまだ震えていたが、覚悟の色があった。


「……佐藤主任。」


中村が、ふと俺の方に振り返った。


「どうしました?」


中村は一瞬だけ俺の目を見つめ、いつもより小さな声で言った。


「……あとで、ちゃんと感想、聞かせてください。」


中村の言葉に、俺は真面目に答えた。


「もちろんです。変装が成功しているか、しっかり確認します。」


中村がまた真っ赤になって、逃げるように部屋を出て行こうとしたとき、中村がDMを送ったスマホが震えた。


「……返信ですかね?」


俺の質問を受けて、顔が赤いままの中村がスマホを確認して答える。


「ええ。ひとまず別のコミュニケーションアプリに誘導されました。電話番号の登録が要らないタイプの匿名化アプリですね。」


中村はそう言いながら、スマホを操作し始めた。


その後ろで、水越がスマホをのぞき込み、眉をひそめた。


「……あ、このアプリ……位置情報を切らないと危険だよ。端末情報収集するタイプだ。」


そう言いながら、水越がスマホの設定を切り替え、再び中村に端末を渡した。


「はい、どうぞ。……もう設定関連はいじらないよう注意してね。証拠保全のためにウチのサーバにデータ同期するようにもしたから、削除とかされても問題ないよ。」


「ありがとうございます。これで遠慮なく忍び込めそうです。」


そう中村は頷き、メッセージ画面を読み上げた。


「で、向こうから来た文面は<興味を持ってくれてありがとうございます。身分確認が出来たらバイトを斡旋するので、免許証等と顔写真を送ってください。>とのことです。」


「とりあえず、『外出中だから後で送ります』とか送っておきましょう。その間に中村主任は美容院に急いでください。」


中村は画面を見つめたまま、頷いた。


「じゃあ、ほんとに急いで行ってきて。職務上の必要性で許可は取っておくから。」


「服装も、ですか……?」


山崎の言葉に、中村が気まずそうに言う。


「そうだね。全部見繕ってきて。後藤部長でも森下でも好きな方連れてっていいから。」


中村は一瞬だけ笑ったが、その笑みには緊張と覚悟と、少しだけ照れが混ざっていた。


「……分かりました。じゃあ、美容院と服の調達、すぐ行ってきます。」


そして、部屋を出る前に中村はそっと、俺の方へ向き直った。


「佐藤主任。」


中村は、さっきよりずっと小さな声で続けた。


「……似合うかどうかは……ちゃんと、佐藤主任の目で見て判断してくださいね。任務のため、ですから。」


中村の言い訳の一言が、かえって俺の胸に刺ささった。


「任務で必要な確認です。……ただ、似合わないとは思いませんよ。」


「……はい。」


中村はまた頬を赤くし、息を整えて扉へ向かった。


俺には、その後ろ姿が、いつもより少しだけはずんで見えた。

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