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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第八章「包 囲」

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第101話「一案」

「…戻ってきて早々で悪いが、ひとつ聞かせてくれないか?」


山崎の声に、全員の視線が集まった。


「男性売買オークションの件、どうにか出来る妙案があるなら教えてほしい。」


山崎の質問に、中村も山崎もその周りも、息を呑んでいるのが分かった。



俺は前に進み、机に軽く手を置いた。


「……池袋の住人の情報をベースに考えると、甘南備の男性従業員がオークションの商品である可能性が高いと思っています。そして、当日の人の輸送はネットで募集された情の知らない人間が使われています。つけ入るスキはそこにあるかと。」


俺の声は不思議と落ち着いていた。


「ただ、正攻法である刑法第226条の2(人身売買)の確たる事実が在りませんので、それでの捜索差押えが不可能というのは皆さん認識していると思います。なので、今回はLUXEの時に断念した男性保護通報を使います。」


俺の言葉に皆異論はなさそうだった。


元より、中村がその案を出してきていたため、当然だろう。


「既に甘南備には水でぬれた荷物が搬入されていることを現認しました。薬で抵抗できなくした従業員をオークション会場に運ぶと考えるのが自然です。そこで私が薬が効きにくい男だったため、逃走を目論んだが確保されたというシナリオでオークションの輸送車に乗り込みます。」


俺の説明に山崎が反応した。


「それだと、佐藤主任を捕まえて車に乗せる人員が必要だが、どうやるつもりだ?」


「まさか、仮想身分証でその運搬のバイトに申し込むってこと?」


中村が一歩前前に出て、俺に尋ねた。


「そのまさかです。そのために仮想身分証の件をお願いしていました。」


それまで黙っていた後藤が口を開く。


「……分かった。やっぱりあんたは頭のネジがぶっ飛んでるってことがね。自分を拘束して、捜査員に運ばせるとか、気がふれてるとしか思えないね。」


「後藤部長がそういうなら、向こうの想定にも無いでしょう。つまり、やる価値があるということです。」


俺の言葉に皆が頷いた。


「で、保護通報を発した後速やかに集まる必要があるので、防犯パトロールをする池袋部隊に、人から人につなぐリレー形式で車両の追跡をしてもらいます。」


俺がそう言うと、部屋の空気がさらに引き締まった。


山崎が腕を組んだまま、重く言う。


「……なるほど。防犯協会を隠れ蓑に使った完全人海戦術で、輸送中の位置を絶やさず把握するわけか。単純に追いかけるよりリスクは格段に抑えられる。」


後藤が鼻を鳴らす。


「まぁ、やるなら徹底的にやらないとね。で、まだ何かあるように見えるけど?」


その言葉に、部屋の誰もが俺を見たため、俺は静かに息を吸った。


「……あります。まず、倉橋が『おせおせ学園』の跡に居ました。おそらくオークションの際に男性の薬投与や健康状態把握は彼女の仕事かと。」


一瞬、水越が肩を震わせる。


「うちの若葉が撮った写真に確かに倉橋っぽい人物が映っていた。でも、それだけじゃ偶然じゃないか?」


「いえ、偶然ではありません。倉橋は資源庁のDB改ざんにアカウントを使われ、甘南備の店長やLUXEと繋がりがあり、資源庁のページから個人情報を消されたんです。その人間が我々が当たりを付けた場所にいたのは、そのまま答えと見えます。」


部屋が一気にざわついた。


「オークションが始まる前、倉橋が男性達の診察等をしている時に保護通報を発報して、そのまま現行犯で検挙します。逃げる隙は、一秒も与えません。これで倉橋も大原も同時に身柄を抑えることが出来るかと。」


俺は再び息を整え、口を開く。


「ただ、裏切り者への情報漏えいに気をつけてください。」


山崎が深く眉を寄せる。


「……裏切り者?」


その一言で、部屋の空気がわずかに沈み、俺は全員の視線を受け止めた。


「御厨理事官です。」


その瞬間、室内が静まり返り、針が落ちる音すら聞こえそうなほどだった。


中村が震えた声で言う。


「……御厨理事官って……ウチの?」


「はい。人二課長から辞令交付を受ける際に聞きました。『私を池袋の防犯にしたのは御厨理事官だ』ということを。さらに、先ほど休憩スペースで御厨理事官が誰かに電話している声が聞こえました。架電先は不明ですが、気になる発言がありまして。」


「何て言ってたの?」と後藤が声をあげた。


「私の情報を話していました。『佐藤は謹慎処分で池袋には居ないため、安心してください。』と。あの口調は、私を排除できて良かった、という響きにしか聞こえませんでした。御厨理事官は資源庁に出向していた過去もあるので、恐らく資源庁の誰かに連絡していたのかと思います。」


皆が一斉に顔を強張らせ、部屋の温度がほんの少し下がったように感じた。


そんな中、後藤の顔には怒りが浮かんでいた。


「……つまり、あんたが居たらこのまま資源庁の上層部まで検挙されかねない。それを阻止するために、理事官が動いたって言いたいの?」


「そうです。そもそも、切掛になった資源庁のDBメンテナンスの件、御厨理事官だけが理由を知っていたことも、おかしな話では無いですか?」


俺の言葉に皆が静まり返る中、山崎が口を開く。


「振り返ると、御厨理事官に報告した時、『必要悪だ』と言う話をされたことがあったな。これまでも捜査に理解を示す姿勢を見せておきながら、事件をなるべく小さくまとめるように動いていたのか?」


そう言いながら顎に手を当てていた山崎に、中村が質問を返した。


「必要悪だと言ったのは、具体的にはいつ頃ですか?」


山崎は、思い出すような素振りをして答えた。


「LUXEのXでのやり方を報告した時だから、4月上旬だと思うぞ。」


「その辺りから御厨理事官の根回しが活発だったのは確かですね。それがどちらの意図かは分かりませんが、警戒はした方が良いかと。」


俺は、再度皆に釘を刺した。


「御厨理事官の件は、まだここだけの話にしましょう。決裁ラインにいる以上、報告は入れなければいけませんが、最小限の報告でお願いします。」


部屋の空気が、ひときわ張りつめた。


「……分かった。理事官の動きに変化があったら皆で共有しよう。それと写真の人物が倉橋であることを再度確認しておくよ。」


水越が静かに頷きながら言った。


「池袋部隊には、必要最低限だけ伝えとくよ。ただ、リレー追跡に穴が出ないよう、ルートはちょっと見直しとくかね。」


後藤も資料を閉じながら言った。


「……あなたが中に一人で乗り込むっていうのが……やっぱり心配です。」


中村が俯きながら、か細い声で言った。


「……危なくないなんて言わないでください。あなたが戻ってきたばかりなのに、また……」


言いながら中村主任の喉がかすかに鳴った。


言葉より、その震えのほうがよほど彼女の不安を語っていた。


俺は中村の方へ向き直り、はっきりと言った。


「大丈夫です。『LUXEの時と同じ方法』って言いましたよね。私の背中は、中村主任に預けます。そして、潜入後の出口は皆さんが作ってくれる。そうすれば、私は孤立しません。」


山崎が深く頷いた。


「……その通りだ。佐藤主任だけに荷物を背負わせるわけにはいかない。これは特務捜査係全員の案件だからな!」


後藤も腕を組み直しながら、やや照れたように言う。


「……まぁ、誰かさん一人に美味しいところ持っていかれるのも癪だしね。外側は私たちが固めるよ。安心してオークションに出品されなさい!」


森下が苦笑し、横峯が少しだけ肩の力を抜いた。


中村は涙を拭いながら、まっすぐな目で言った。


「……私も、勿論全力で支えます。……佐藤主任が戻ってきてくれたんですから。」


その言葉に、俺は深く息を吸った。


「ありがとうございます。31日は、全員野球です。皆さんの力を貸してください。」


「よし、作戦の方向性は見えた。細かい詰めはこれからだが……1つだけ、ここではっきり言っておく。」


全員が山崎を見た。


「誰か一人が突出する作戦じゃない。全員で積み上げて、全員で成功させる案件だ。それを忘れるな。」


空気が一瞬だけ静まり、次の瞬間、誰からともなく頷きが連鎖した。


俺も、力強く頷いた。


「はい。……必ず成功させましょう。」


その瞬間、部屋に確かな覚悟と静かな決意が生まれた。


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