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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第一章「110番」

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第10話「竹村松子:悩み」

窓から差し込む強い光が、快晴であることを教えてくれる午後の昼下がり。


そんな天気とは裏腹に、私の気持ちは深く沈んでいた。


机の上の書類に視線を落としながら、冷めきったコーヒーを口に含むと、いつもより苦みが強く感じ、舌に刺さるようなだった。


報告書の表紙には、「佐藤警部補 指導実績」とあるが、この名前を何度も見るのはうんざりだった。


紙の向こうから、あの男の視線すら感じる気がして、書類を伏せた。


「警察大学の入学試験、満点に近い一位。学力も体力も非の打ちどころがない」

「警大での成績も優秀であり、ほぼ全ての科目で優を取得している」

「同期内でのコミュニケーションも円滑にでき、性的なからかい等にも上手くかわす対応ができる」

「刑事で捜査をしたいという熱量は人一倍高く、モチベーションが維持されている」


どの書類も彼を高く評価しているが、私にとって彼の属性である「男性」というだけが負担になっていた。


この評価を見ると、男女比1:96の世界で国家資源として生きてきたとは思えないほど優秀な男性だ。


多くの男性は、プログラムを受講し、割り当てられた職で生活することで、精神的安定や静かな時間を得ると聞いている。


実際、これまで私が接してきた男性もそうだった。


しかし、佐藤にはこれまでの常識が通じない。


表面的には理想的な警察官だが、彼は国家資源でもある。


これが普通の女性警察官であれば大手を振って喜んだというのに。



男性であるという事実だけが、この組織ではあまりに重い。


彼は資源であり、資源としての役割が果たせないようなことはさせられない。


「俺は、刑事として生きる。繁殖のために生まれたわけじゃない。」


そう配属前面談では言ったらしい。


上層部は彼を面白がり、Sランクだというのに「男性初の刑事」に任命した。


こっちの身にもなってほしい。


精神面だろうと肉体面だろうと、Sランクの国家資源を毀損させたら、私の首が飛ぶ。


「誰かの嫌がらせか…」


巡査の時から必死に努力し、叩き上げでは異例の50歳にして捜査第一課長になった。


このまま行けば、任警視監での退職も見えていたというのに。


「さて、どうするか…」


男性被疑者・男性被害者はそこそこ割合でいるが、男性被害者のメンタルケアをしながら聴取をする「被害者支援課」や男性被疑者の留置及び聴取を担当する「男性留置管理課」が既にある。


血生臭い捜査現場に出すわけには行かないし、内偵捜査何かさせてみたら途端に女に囲まれるだろう。


いくらメンタルが強いであろう佐藤でも、不能になる危険性がある。


ここで捜査をで仕事をするというのは常に何らかしら傷つく可能性があるというものだ。


「何かさせるから…か?」


だったら、何もさせなければいいということか。


佐藤のための新設の係を作り、あえて仕事を割り振らない。


特異な例であるから人事畑の承認も得やすいだろう。


「それに…こいつか……」


私は人事データからある署の警部を表示した。


山崎玲奈、母親が国家生殖資源庁の上級職員だ。


警察組織に関しての上位監督権を保有している「国家生殖資源庁」にルーツがあれば、仮に何かあっても責任追及がしにくいだろう。


「流石に二人係とはいかないか…あとは…佐藤が自然に退職し、プログラムを受講する形が望ましいな…」


私は再び人事データを検索し、二人の名前が目に留まった。


中村英子、それに後藤由紀。


中村は感情表現が乏しく、男性の扱いも淡々としており、実務優先との評だ。


佐藤の近くに置くには理想的な同僚になりそうだな。


それに後藤、貧困層出身で富裕層、キャリア、男性といった社会的立場が上の人間を憎む傾向か。


上手くコントロールして佐藤の仕事への熱意を下げられば御の字か。



「粗方、方針は決まったな…」


特務捜査係(庁内ニート)を新設し、佐藤をそこに押し込める。


仕事の少なさは男性を慮ってのことで、問題が起こっても山崎経由で報告としよう。


「あとは名前か…重要っぽい名前の方がいいな…」


そうだ、『特務捜査係』にしよう。


名目上は特別任務、実態は隔離だ。


そうと決まれば早速人事調整をしなければな。



私は目の前にある電話から、某署の署長へと架電した。



「あ、署長?ご無沙汰だね。実はそっちにいる山崎警部について話が聞きたくてね…」

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