えれえもん預けてくれたな
「捌き方は知っているか?」
「知りません」
「教えてやる」
俺はベン爺さんから、血抜きと解体を教わった。
解体を終えた後、ベン爺さんは言う。
「明日から、朝うちに来い。狩りの仕方を教えてやる」
「ありがとうございます」
今日獲った鹿を持って家に戻っていると、アランが走って来る。
「レイル君、仕事が見つかったよーーーー!」
「既に決まった。ベン爺さんのところ」
「え? そうなの!? 良かったよ! ベン爺さんのところ決まるなんて凄いねえ。僕も前にお願いしたことあるけど、断られたんだ」
「そうなのか。仕事を探してくれた礼だ」
俺はそう言って鹿肉の一部を差し出す。
「え? ありがとう! 肉なんて久しぶりだから、妹も喜ぶよ!」
アランは俺に頭を下げて、何度も御礼を言っている。
俺はアランに鹿肉をあげた後、家に戻る。
「クリフさん、これ」
俺は残りの鹿肉を全て渡す。
「おおー、流石じゃのう。初の獲物か、めでたい。酒場に売ってくればどうじゃ?」
クリフさんは獲物を見てにこにこと笑いながらそう提案する。
「クリフさんにもらって欲しい」
「そうか……ありがとうのう。じゃが気を遣わんでもええぞ? 今日は鹿肉のスープにしようかのう。残りは乾燥させて、干し肉にしようか。しばらくはレイルのお陰で豪華なご飯になりそうじゃ」
クリフさんはそう言って、俺の頭を撫でた。
「相変わらず、冷静ねー。せっかくの初獲物なのに、少しは喜びなさいよ」
ソフィアが俺の両頬を掴んで、伸ばす。
「感情という奴が、いまいち分からん」
「嬉しい時には笑って、辛い時は悲しむのが人間ってものよ」
「嬉しい、か。感情とは難しいな」
俺も感情を理解したい、な。
「これこれ、ソフィア。無理させるんじゃない。レイル、少しずつでいいんじゃ、少しずつで。いつかレイルも自然と笑える日が来る」
クリフさんにそう言われ、俺はいつかそんな日が来ると良いな、と思った。
◇◇◇
それから数日後、村唯一の酒場に、クリフとベンが集まっていた。
「おい、クリフ。えれえもん預けてくれたな」
ベンは鋭い眼光で、クリフを睨む。
「なんのことだ?」
「レイルのことだ。お前が預かってると聞いているぞ」
「ふふ。レイルはな、ソフィアが拾ってきたんじゃよ。大怪我を負って、倒れておったからな。それ以外は何も知らんよ」
「詳しいことは何も知らねえのか?」
「知らんのう。だが、悪い子ではない。常識はあまり知らないが、これからゆっくり教えてやればええ」
「そりゃあ分かるが……あれほどの腕を持つ者を見たことがねえ。三百メートル以上先の鹿を軽く射抜きおった。王国有数の射手でも難しいレベルだ。それを初めて使う弓で軽くやってのける」
「それほどか……レイルが何者かは分からんが、年寄りの使命は若者を導くことじゃ。儂はあの子を実の孫のように思うとる」
「お前も随分丸くなったみたいだな。昔のお前なら……いや、止そう。だが、レイルとロックは違うぞ。それを忘れるなよ」
「分かっておる。同じ過ちは繰り返したくないだけじゃ。レイルには、次こそは自身の望む道を進ませてやりたいんじゃ。なんとかベンも面倒をみてやってくれんか?」
そう言って、クリフは頭を下げる。
その姿を見て、ベンは頭を大きく掻く。
「ああ……言われなくても見てやるよ。あれほどの原石、俺じゃなくても、育てたくなるもんだ」
ベンはそう言いながらも、どこかもったいなさを感じていた。
あの腕は、この小さな村で腐らせるだけで良いのかと。
王国騎士団長ですら、レイルならなれるのではないかと、そう思ったからだ。
(いや、その考えは良くねえな。人の幸せってのは、地位だけじゃねえ。それは、クリフが誰よりも知っているはずだ)
ベンは考えを改めると、エールを呑んだ。
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