ここで働かせて下さい
翌日、俺は早朝からソフィアとともに村の外れへ向かっていた。
しばらく歩くと、小さな小屋に辿り着く。
「ここがベン爺さんの家よ。まず私が頼んで来るから待ってなさい」
そう言って、ソフィアが中に入る。
数分後、突然大声が中から聞こえた。
「弟子ィ!? 断る! 狩人なんて一人で十分でぇ! 帰りな!」
「なによ! ベン爺にはもったいないくらいの男を連れて来たのに!」
「そんな男、この村に居るか! 馬鹿野郎!」
俺も咄嗟に中に入る。
「ベンさん、どうかお願いします」
そう言って、俺も頭を下げた。
「……お前か?」
俺と目を合わせたベン爺さんは、少しの沈黙の後そう尋ねる。
「はい。レイルと言います」
ベン爺さんは俺をしばらく観察し考えるそぶりを見せる。
「……来い。森に行く」
ベン爺さんは俺に弓を投げると、準備を始める。
「行ってきなさい」
「ありがとう、言ってくる」
俺はソフィアに礼を言った後、ベン爺さんに付いて山へ向かった。
草木をかき分け、山を進む。
「お前、狩りの経験者か?」
「いえ、ありません」
「……確かに狩人の身のこなしじゃねえが、俺より音を出さずに山を歩ける奴は初めて見たぜ」
「ありがとうございます」
暗殺者時代の名残だろうな。
俺は基本、移動時に音を一切出さない。
その音、一つが任務失敗につながるからだ。
ベン爺さんは手で止まれの合図をする。
「お前、弓は使えるか?」
「はい」
「四百メートル先におそらく鹿が居る。こっちが風下だからこのままじゃ気付かれちまう。風上に回り込むぞ」
「はい」
俺はベン爺さんについて、鹿に気づかれないように大回りで風上に移動する。
風上に回り込んで、すぐ俺は矢を掴む。
「鹿、捉えました。射ます」
俺の言葉を聞き、ベン爺さんは苦笑いする。
「馬鹿言え。ここから獲物まで何百メートル先だと思ってんだ。五十メートルくらいまでは距離を詰めねえと、無理だ。俺でも百は欲し――」
俺は矢を番えると、集中する。
久しぶりだな、弓を使うのは。
大きく息を吸い、そのまま息を止め、手を放す。
放たれた矢は、鹿の頭部を横から貫いた。
「ば、馬鹿な! この距離を……普通の弓で一射だと⁉」
それを見たベン爺さんは大声を上げる。
「お、お前……何者だ?」
「……狩人志望でしょうか?」
俺はそう答えるしかなかった。
「んなことは知ってらあ! ソフィアの嬢ちゃん、とんでもねえもん連れてきやがって。まあいい。行くぞ」
ベン爺さんは仕留めた鹿の元に行くと、静かに膝をつく。
そして、両手を合わせ鹿を拝んだ。
「なぜ、拝むんですか?」
「俺達は常に何かの命を奪って生きている。山に、命に俺達は感謝して生きねばならん。奪ったのであれば、食べる。それが狩人の礼儀だ」
俺達とは違う考え方だな。
だが、良い考えだと思う。
俺も一緒に、鹿を拝んだ。
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