噂の新人
酒場はどちらかというと、村人の集会所のような雰囲気であった。
「聞いたか? 国王が殺されたらしい」
「デマだろ、それ。あの馬鹿王がそう簡単に死ぬか? 馬鹿なのは領主の息子だけで十分だぜ」
「ちげえねえ!」
俺が入ると、途端に皆こちらを見る。
「おっ! 噂の若者が来たな!」
「さあさあ、こっち来い! 飲め飲め、おごってやる!」
酒で真っ赤になったおっさんたちが絡んで来る。
「飲み過ぎだ。うちに新しく住むレイルだ」
クリフさんが、酒場の店主に俺を紹介する。
「こんばんは」
「へっへっへ。話は聞いているぜ」
「貴方が二人を倒したのね?」
そう言って、声をかけてきたのは、ウエイトレスの格好をした金髪の少女だ。
長い金髪を二つ結びにしており、大きく黄金のように輝く目がこちらを覗いている。
「もう知っているのか」
俺は情報の速さに驚く。
「その話で、うちはもちきりよ」
「兄ちゃん、やるじゃねえか! あいつ等には皆迷惑してたんだ。勝手に作物を持って行くなんてしょっちゅうだぜ」
「若いのに、強いのね。騎士さんなのかしら?」
少女は俺の腕に絡みついてくる。
「アミラ! レイルに色目使うんじゃないわよ!」
ソフィアがアミラと呼ばれた少女を剥す。
「なによー。若い男なんて全然居ないんだからいいじゃない」
アミラは頬を大きく膨らませながら言う。
「あんた、いつも口説かれてるでしょ」
「既婚者とおっさんばっかりじゃない。後、馬鹿」
「俺はおっさんだから、馬鹿じゃねえな」
「お前はおっさんで馬鹿だよ」
さっきの二人組のおっさんはそう言いながら、大声で笑っている。
「騒がしくてすまねえな。皆、新しい人が来てはしゃいでいるんだ。ラルゴ村へようこそ、レイル。こいつはサービスだ」
店主は笑いながら、シチューを出してくれた。
「美味い」
俺は一口食べると、そう呟く。
「当たり前だ! この村一の料理人だからよ!」
店主は豪快に笑っていた。
他にも食べていると、これも食べろと色々な人が料理を俺の前に置いていく。
それを食べているといつの間にか腹いっぱいになっていた。
夕食を食べた後、クリフさんに連れられ家に戻る。
「まだ、怪我は完治しとらんのじゃから、ゆっくり休むんじゃぞ。また明日な」
「はい」
俺は静かにベッドに横になる。
また明日、か。
したいことはまだ見つからないけど、ゆっくり探そうか。
今の俺は自由だ。
俺はクリフさんの言葉を思い出しながら眠りについた。
◇◇◇
レイルが眠りについた後、クリフとソフィアがダイニングで話していた。
「冒険者達と揉めたそうじゃな」
「うん。けど、凄かったわよ。動きが見えなかったもの。気付いたら、二人ともやられていたわ! 一体何してたのかしら?」
興奮気味にソフィアが言う。
「そうか……ソフィア、あまり過去を詮索してやるんじゃないぞ?」
「分かってるわよー」
「あの子の全身は傷だらけじゃった。よっぽど酷い扱いを受けていたんじゃろう……そこまで強くなるしかなかったんじゃ」
「……拾ってきた私が、責任を持って面倒を見るわ!」
ソフィアは自らの胸を張る。
「どうか、この村では穏やかに過ごしてほしいもんじゃ」
クリフはそう呟いた。
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