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笑顔の男

 それから二週間程経つが、全く領主の動きはない。

 流石にずっと警戒し続ける訳にもいかず、皆日常に戻り始める。

 村長やクリフさんはたまにどこかに行っているようだが、大多数の者は仕事をしないと生きてもいけないため、いつものように働いている。


「おい、行くぞ。レイル」


「分かったよ、ベン爺」


 二人で草木をかき分け、山を登る。


「そんな心配するな」


 ベン爺が珍しく、狩りの最中に話しかけてきた。


「やっぱり心配だ」


「なるようになるさ。ずっと頭抱えていても仕方ねえ。俺もクリフも戦える。若けえ者には負けねえよ」


「流石にもう無理でしょ」


「なんだあ、まだまだ現役だぞ! 昔は冒険者もしてたんだ!」


 そう言ってベン爺が笑う。

 おそらくしかめっ面の俺を励まそうとしてくれているのだろう。


「分かったよ、ベン爺は現役。分かったから」


「なら、いい。村長もクリフも頑張って動いとるみたいだし、少しは肩の力を抜け」


「はいはい」


 じゃあ、いつものように働くかね。

 俺は矢を持つと、獲物を探し始めた。

 いつものように鹿を獲った後、一頭は自宅に持って帰った。


「おう、レイル。また獲って来てくれたんか。ありがとうなあ。今日は儂が作ろうかな」


 解体された鹿を見たクリフさんが、そう言った。

 その夜に作ってくれたのは、俺が来た時に作ってくれたものと同じ沢山の野菜の入ったスープだった。

 前と違うのは、鹿の肉が追加されていることだろう。


「寒うなったからなあ。レイルも風邪をひかんようによう食べるんじゃぞ」


「分かった」


 暖かい。

 俺はこのクリフさんが作ったスープが好きだ。

 体だけじゃなく、心も温かくなる気がするから。


「美味しいわ!」


 ソフィアも幸せそうに食べている。

 誰かと囲う御飯は美味しい。

 そう、俺は思った。


 数日後、俺は再び狩りのために山へ向かう。


「レイル、今から山か?」


「うん。行ってくるよ、クリフさん」


「おう、行ってこい。気を付けてな」


 俺はベン爺と共に、山へ向かった。


 ◇◇◇


 ラルゴ村を目指す一行の姿があった。

 皆鎧を纏い、馬に乗って進むその姿は戦に向かう兵士達の姿でしかなかった。

 その人数は総勢五十人程。

 その先頭に立つのはにこやかな笑顔をした、他より良い装備を纏った一人の男だ。


 年は二十後半程。

 そのにこやかな顔だけを見ると、兵士より牧師のように見える。

 だが、鍛え上げられた体がそれを否定している。


「気が乗らないなあ。村人の虐殺なんて」


 そう言いながらも、にこやかな笑顔は全く変化がない。


「隊長がいくほどの件ですかね」


「なに。隊長が動くから、部下もやる気がでるってもんだよ。もうすぐ村だね……僕が先に行こうかな。君達は後からゆっくり来るといい!」


 男はそう言うと、馬を走らせた。


「行っちゃったよ……。よく言うよな、誰よりも殺しが好きなのに」


 部下の一人はそう呟いた。




 現在村は正門に二人の門番が立っている。

 その門番が、馬に乗って駆けてくる笑顔の男に気付く。


「おい、止まれ! そこの男!」


 門番が叫ぶ。


「止まらなければ、応戦するぞ!」


 だが、笑顔の男は答えない。


「くそっ! 構えろ!」


 二人の門番が槍を構える。

 そして、騎馬した笑顔の男と交差する。

 同時に二人の門番の首が宙を舞った。

 笑顔の男はそのうち一つの、門番の頭部を掴むとそのまま村に侵入する。


「きゃああああああああ!」


 見知った門番の生首を見て、村人の一人が絶叫を上げる。

 笑顔の男は絶叫を聞いても、微笑んだ表情に全く変化はない。


「どうも皆様。僕は、貴方達を虐殺するためにホーキンス子爵から派遣されました。どうか僕を恨んでください」


 と優雅に笑いながら、会釈をする。


「では、心が痛みますが、一人ずつ殺していきましょうか」


 男はそう言うと、その剣を抜き近くの村人に襲い掛かる。


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