穏やかな村
目を覚ますと、俺は知らないベッドに居た。
ここはどこだ……?
どうやらまだ生きているらしいな。外は暗い。
すぐそばに愛刀があったことに、安堵した。
今は夜だな。
俺が周囲を見渡していると、部屋の扉が開き一人の少女が顔を出す。
真っ赤な炎を思わせる輝くような長い赤髪を持った紅い目の少女。
強い意志を感じさせる目に、整った小さな顔をした、十代前半の少女だった。
「あら、目を覚ましたのね。今、ご飯持ってくるから動いちゃ駄目よ。凄い重傷だったんだから」
少女はそう言うと、部屋を出て行った。
俺はどうやら、どこかの村で助けてもらったようだな。
古いが、よく手入れされた殺風景な小さな部屋を見て、そう当たりを付ける。
怪我の回復具合から、おそらく二日以上寝ていたようだな。
よし、もう動ける。
そう考えていると、扉が開き、お爺さんがスープとパンを持ってやってきた。
優しそうに微笑んでいるが、その体は大きく鍛えていることが分かる。
「よう起きた。まずはお腹すいたじゃろ。たっぷり食べるといい」
差し出されたスープはたくさんの野菜の入ったスープだった。
湯気が出ており、お腹のすいた俺には何よりのご馳走であった。
「ありがとう」
俺は小さく礼を言うと、スープを食べる。
温かく、優しい味が体と心に染みる。
パンとスープを二杯ほど平らげたのを見届けた後、お爺さんが口を開く。
「儂はクリフじゃ。孫娘のソフィアが一昨日、川の近くで倒れている君を発見してのう。とりあえず我が家に運んで、村医者に治療してもらったんじゃ。医者が君の回復力に驚いておったぞ」
とにこにこしながら話す。
「そうですか。助けていただいてありがとうございます」
「名前はなんというんじゃ?」
「名前……レイル」
俺は自分の名を久しぶりに名乗った。
暗殺者という仕事の都合上、名を名乗ることは殆どない。
「レイル君か。しばらくうちでゆっくりしとったらええ。今日はもう休みなさい。水はそこに置いておくから、何かあったら隣の部屋に儂がおる」
クリフさんは俺の頭を撫でた後、席を立った。
すぐに逃げようかと思ったが、とりあえず今日はここで体を治すか。
俺はクリフさんの言葉に甘え、再び眠りについた。
翌日、俺は朝早くから目を覚ますと、外で体を動かす。
全快とは言わないが、最低限回復した。十分だ。
「あんた、もう動いてるの!? 重傷だったって言ったでしょ!? 何してんのよ!」
朝から激しい運動をしている俺を見たソフィアが心配そうに大声を上げる。
「もう回復した。問題ない」
「嘘でしょ? 医者は全治二ヶ月って言ってたのに……どんな生活してたらそうなるのよ」
「……ひたすら訓練ばかりしてたな」
「厳しい家だったのねぇ」
ソフィアは可哀想な者を見る目で、俺を見る。
「確かに……厳しいところだったと思う」
「レイル君、もう起きたのか。本当に回復が早いな。そう簡単に治る傷ではなかったはずじゃが。まあ、それは良い。これからどうしたい?」
クリフさんはこちらを見ながら微笑んで言う。
「これから……」
俺はその言葉を聞いて、固まってしまう。
生まれてから今まで、毎日修行と暗殺しかしたことはなかった俺は、自分で決めるということをしたことがなかった。
「なあに、まだ若いんじゃ。ゆっくり考えたらええ。ソフィア、村を案内してやりなさい」
「はーい。行くわよ。ここはラルゴ村よ」
ソフィアに連れられ、俺は村を回る。
まず最初に連れられたのは、広大な畑だった。
小麦が朝日に照らされ、黄金に輝いている。
「綺麗だな」
「そうでしょ。私もこの景色は好きなのよね。うちは小麦の他にも、いくつか野菜を作っているの。これもそのひとつよ」
そう言って、茄子を見せてくる。
大きく立派に育っている。
「一つ一つ、お爺ちゃんが丁寧に作ってるの。この村の人は多くが農家だけど、皆大切に作っているわ。私も作っているけど、段々愛着が湧いてくるのよね」
茄子を見ながら笑う。
「そうなのか。それは良いな」
俺はそれ以上言えなかった。
クリフさんの畑を見た後、村を回る。
百人程だろうか。小さな村だった。
「ソフィアちゃん、おはよう! お兄さんもおはよう」
「おばさん、おはよう!」
村の中は皆知り合いなのだろう。皆、ソフィアに挨拶をしており、ソフィアも笑顔で挨拶を返していた。
俺は小さく会釈する。
「今のはセルおばさんよ。あそこが診療所。あそこはパン屋ね」
ソフィアの村の場所の紹介を聞いていると、前方から叫び声が聞こえる。
「勝手に盗らないでくれ! これも、全部売り物なのよ!」
お婆さんが武装した男二人組に叫ぶ。
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