飲み
ソフィアが走り始めてからもう一か月。
元々農作業をしていたからか、ソフィアには体力があった。
今では、数時間程度なら余裕を持って走れるようになった。
そろそろ次の段階だな。
「ソフィア、今日からは剣を使った訓練をしようか」
「分かったわ! ようやくね!」
ソフィアはそれを聞いて、嬉しそうに笑う。
俺は木を削った木剣をソフィアに渡す。
「俺は口下手だから、どれだけ教えられるか分からない。だから、見本を見せる」
俺は帝国流剣術の基本の形を見せることにした。
俺達アスガルドの暗殺者はどこに侵入しても違和感なく振舞えるように、主要剣術三種は全て教わる。
その中でも帝国流剣術は基礎と言われる剣術であり、大陸でもっとも使っている者が多い剣術である。
俺は剣を持ち、構えを見せる。
そして、一つずつ、一つずつゆっくりと形を披露した。
一通り披露すると、ソフィアが拍手する。
「綺麗ねー! 絶対あんた、どっかの騎士の家系でしょ。そうじゃなきゃ、あんなのできないわよ」
と疑っている。
「違う。習ったことがあるだけだ。まずは一つ目の形だけ覚えて」
ソフィアが見様見真似で構える。
「違うな。こうだ」
ソフィアの形を修正する。
「一緒じゃない?」
「違う」
構えを覚えた後、少しだけ打ち合う。
「ちょっ! レイル、速いって!」
「反応が鈍い」
俺はソフィアの構えで隙の見えた箇所に、木剣で一撃を放つ。
しばらくの打ち合いをした結果、ソフィアはぐったりと倒れ込んでいた。
その日の夜、夕食を食べた後、クリフさんに肩を叩かれる。
「レイルや、今日は久しぶりに酒場に行って飲みたい気分なんじゃ。付き合ってくれんか?」
「分かりました」
珍しいな、と思いつつクリフさんと酒場に行く。
「おっ、クリフさんにレイルか。奥の席に座ってくれ」
店主に言われて、俺達は奥の席に座る。
クリフさんはエールを飲み、俺は水とツマミを貰う。
がやがやする店内で、クリフさんはエールを呷ると小さく呟く。
「最近、ソフィアに修行をつけているらしいな」
「……はい」
やっぱりその話か。
「……あまり無理はさせてくれるなよ」
「はい。心配?」
「ああ、心配だ。大事な孫だからな。だが、自分の未来は自分で決めるべきだ。ソフィアが望むなら儂に止める権利はない。ならせめて信じられる者に任せたい。レイルなら任せられる」
「……俺にできるでしょうか。人の気持ちすら、俺にはよく分かりません」
「レイルはよう頑張っておる。気持ちか……儂もそんな分かる訳じゃないが、その人のことを思って動いたらええ。きっとその思いは伝わるはずじゃ」
そう言ってクリフさんは俺の頭を撫でて笑う。
「儂はレイルのことも孫のように思うておるよ」
「ありがとう」
「お爺ちゃんと呼んでもいいぞ」
「考えておきます」
そんな恥ずかしいこと言える訳がない。
その人のことを思って、動くか。
難しいな。
国王の暗殺よりもずっと難しい。
けど、皆それをしているんだな。
クリフさんにも頼まれたし、俺も頑張ってソフィアを鍛えないとな。
俺は水を飲みながら、そう思った。
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