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微妙な二人

作者: ほのかな

いつもの朝。いつもの時間。新聞を取りに玄関から外へ出ると、家の右隣のあの子も同時に出てくる。

 いつもの朝。いつもの時間。新聞を取りに玄関から外へ出ると、家の左隣りのあの子も同時に出てくる

「あー・・・ねむ・・・」 「ふぁー・・・ねむ・・・」

 いつもの声が聞こえてくる。

今日も同時だったみたいね。

 「おはよう。アキ」 「おはよ。ナツ」

 僕はずっと昔からこの時間に新聞を取りに来る。寝癖だらけの黒い短髪を全く直さずに

 私はずっと昔からこの時間に新聞を取りに来る。寝癖だらけの茶色のショートヘアを

全く直さずに。

「今日って一時間目は何だ?」

「ん~・・なんだっけ?」

「まあいいや。じゃ、また後で」

「んー。遅れる時はケータイに連絡して」

「わかった」

 僕達は今日も一緒に学校に向かうのだろう。

それは幼稚園の頃からずっと変わってない。


 それからしばらくして

「行ってきまーす」「行ってきまーす」

 家から同時に出てきた僕達は、特に意識せずに横に並んで歩き始める。

 私達のこの並び方。昔からずっと変わらない。

「なあ、今日の数学ってテストだっけ?」

「え?私そんな話全然聞いてないよ」

 歩き続けて学校が見えてくると、後ろから友達の聞きなれたセリフが聞こえてきた。

「アキ、おはよ。またナツと一緒?」

「よう、ナツ。相変わらずアキと仲いいな。ホントは付き合ってんじゃねえのか?」

 昔から同じような事を聞かれる。そしてその質問に対する二人の答えも、昔から同じような感じだった。

 私達はいつも声をそろえてこう言う

「べつにそういう関係になりたいってわけじゃないから」

 


 


 僕は定奈都(さだめなつ)。今年で高校二年生。物心ついたときからアキと一緒にいたので、

アキとの付き合いは十七年ぐらいになる。思えばこの十七年間、僕とアキと離れた事は無い。幼稚園も小学校も中学校もずっと一緒。だからいろんな人からよく聞かれる。「お前ら付き合ってんの?」って。いろんな人の期待を裏切るようで悪いけど、アキは僕の彼女ではない。彼女だったわけでもない。ただ単になんとなく近くにいただけ。彼女にする気はないし、したいと思った事も多分ない。まあ、友達とは違う感じだとは思っている。お隣さんとはいえ週に五~六回は遊びに行ってるし、人には言えないようなアキの秘密も知ってるしな。

 

私は羽佐間明希(はざまあき)。今年で高校二年生。物心ついたときからナツと一緒にいるから、

ナツとの付き合いは十七年ぐらいになる。そういえばこの十七年間、私とナツが離れた事は全然ない。幼稚園も小学校も中学校もみんな一緒。そんな私達だから、こんな事をよく聞かれる。「ナツと付き合ってんの?」って。わくわくしながら聞いてきた人にこんなこと言うのは申し訳ないんだけど、ナツは私の彼氏ではない。彼氏だったわけでもない。ただ単に気分的に一緒にいるだけ。彼氏にする気はないし、したいと思った事も無い。でも、友達とも違う気がする。ナツは毎日のように私の家に遊びに来るし、信じられないようなナツの秘密も知っているし。


 そんな訳で僕達はなんとなくずっと一緒にいる。友達でも恋人でもない状態で。

 だからって、今の状況に私は不満を感じない。

 アキと僕で恋人同士の関係にあるような人達がする事をしたいとは思わない。

 私がナツとキスとかしたいと思った事は無い。

 僕としてはそんな事どうでもいい。

 私としてはそんな事どうでもいい。


「信っっっじらんない!なんで?なんでそんなに一緒にいて、相手の事を意識したりしないのよ!」

 昼休み。アキの友達のカエこと木下楓(きのしたかえで)が、屋上で目を吊り上げながら叫んだ。あまりの大声に、手元にある弁当が吹っ飛びそうだ。

「確かに。俺達なんか、数ヵ月間一緒にいて彼氏彼女の関係になったんだぜ」

 ナツの友達であり、カエの彼氏であるシンこと谷川進亮(たにかわしんりょう)はあきれた感じでそう呟いた。

「いいじゃんべつに」 「いいじゃないのべつに」

 まるで双子のような返答をした私達を見て、カエのイライラはますますひどくなる。

「ああもう!そんだけ気もあってるってのに、どうしてあんたらはただの友達なのよ!」

「確かに気はあっているな」

ナツは当り前のようにそう言った。

「下手したら、そこら辺にいるカップルよりも意思伝達ができているかも」

 アキは「それが普通」とでも言っているようだ。

「全く・・・アキ。こんな中途半端な事をずっと続けて、その結果どっかの女に奈都を取られたらどうすんのよ。そん時に泣きついてきても、私知らないからね」

 どっかの誰かと・・・・ナツが・・・・

「・・・・べつにいいと思うけど。ナツが『その人がいい』って言うなら」

 アキの返事はあまりにもガッカリなものだったらしい。シンとカエは、まるで漫画のようにこけた。ズコッとかガクッといった効果音がしそうなぐらい派手に。

「・・・・はあ~・・・・」

「だから毎回言ってんだろ、こいつらに何言っても無駄だって」

 シンは既にあきらめモードのようだ。目から気力が失せている。

「でもおかしいじゃない!かっこいい男の子にかわいい女の子!二人は幼馴染でいつも

一緒!長い間一緒にいた二人は、いつしか互いを異性として意識するようになり・・・・ってなるのは世界の法則じゃないの!」

 長いセリフだな。

 長いセリフお疲れ。

「よしっ!今週の土曜日、奈都とアキは一緒に駅前のデパートに行って買い物をしなさい!そして少しは進展しなさい!」

「いいよ。どのみち、今週は言われなくても行くことが決まってたけど」

「っていうか、そ―ゆー事は結構やってるけど」

 本日二度目の漫画こけ。シンの方はこけなかったが

「あーもう!やっぱりおかしいって!」

「おい。落ちつけ、アキ」

 ヒステリックを起こしつつあるカエを、シンが冷静になだめる。

 なんだか彼氏彼女と言うよりも、酔っぱらいとその面倒をみる部下って感じに見えるわね・・・

 

 その後、いつものように僕とアキは一緒に授業を受け

 いつものように私とナツで駄弁ったりして

 いつものように僕達は一緒に帰る。

 でも、下駄箱で私達を待っていたのは『いつも』ではなかった。

「ん?」

「あれ?」

 僕の靴の上に・・・かわいらしい便箋が一枚。

 私の靴の上に・・・小さな紙切れが一枚。

 これはいわゆる・・・

 『恋文』ってやつよね・・・

「アキの方にも入ってたの?」

「うん。すごい偶然」

 まさかこんな事になるなんて、差出人も全く思って無かっただろう。

 う~ん・・・貰った事が無いわけじゃないけど、こんな事は無かったなー・・・

 僕はピンクのかわいらしい便箋。アキは小さな手紙を読み始めた。

 手紙に書かれていた内容はただ一言。

「あなたの事がずっと前から好きです。私と付き合ってください」

 とてもまっすぐで単純で純粋な思いが溢れていた。ただの一枚の紙きれに。

「こっちもそんな感じね」

 うちのクラスにそんなピュアな男子がいたんだなー・・・なんてちょっと感心。

「どうする?」

「私に聞かないでよ。自分で考えないと」

 それはそうだ。きちんと自分で考えて、自分で返事しないと。

 危なかった・・・ナツが言うのが遅れていたら、私が「どうする?」って言ってた・・・

「とりあえず帰りましょ。ここでグダグダやってもしょうがないし」

「そうだな」

 僕とアキは手紙を鞄に入れ、靴を履き替え、二人並んで校舎から出た。

 お日さまは、黄色なんだかオレンジ色なんだかわからないビミョーな色をしている。

今はお昼でも夕方でもない時間なんだろう。

 そんな中途半端な日差しを浴びながら、僕達は坂を下る。

 今日も二人並んで。


 家の玄関の扉を開けながら、念のため僕はアキに今日も伝える。

「じゃ、またあとで」

 相手が恋人だったら、こんな事を言うのはすごく緊張しそうだな。「あとでそっちに行きます」なんて。言う瞬間、口なんかブルブル震えたりしそうだ

「はいはい。夕飯食べたらこっち来るのね」

 今のやりとり。恋人同士だったらどんな事を感じるのかな。やっぱり緊張するんだろうなー。頭の中なんか大パニック。心臓がドクンドクンと思いっきり跳ねまわったりなんかしちゃって。


 でも、アキと話していて口が震えた事は無い。

 でも、ナツと一緒の時はそんな事にはならない。

 家の中に入り、扉を閉めて中の音が完全に外に漏れないようにし、アキに聞こえないように呟いた。

 ナツが家の中に入り、扉を閉めて外の音が完全に中の方に入っていかない事を確認した後、ナツに聞こえないように呟いた。

「やっぱりアキは好きな人じゃないよな・・・」

「やっぱりナツは好きな人じゃないかも・・・」

 なんで聞こえないように呟いたのかはわからない。



夕焼け色の太陽が今にも沈みそうな夕食後。僕は夕方なのか夜なのかわからない空模様の下、アキの家へと向かっていた。チャイムを鳴らす必要はない。玄関を通る必要もない。必要なのは僕の部屋の窓をから家の屋根に乗る事。それから、

「よっ、と」

 幅五センチほど離れた隣の家の屋根までジャンプすること。最後に、

 コンコン

「来たぞ~」

 その家の二階の窓にノックをすること。この道を最初に通ってから十年以上経つ。多分。

「はーい」

いつものように窓の外にナツが現れた。知らない人がこの光景を見たら、泥棒と勘違いしてすぐに警察を呼ぶだろう。もしくは幽霊と勘違いして念仏を唱えだすか。知っている私はすぐに窓を開けた。

「いらっしゃい」

「なあ、昨日読んでたあの漫画の続きは?」

「え~っと・・・ちょっと待ってね」

 アキは本棚に向かい、上から順番に眺め始めた。いつ見ても綺麗な本棚だ。並んでるのは全部漫画だけど。

「え~っと・・」

あの漫画どこいったかな~・・・未だにどの棚に何があるのかわかんないんだよね~。

あまりにも漫画が大量にあるから。

「・・・あった!いくよ―」

 次の瞬間、ポーンと漫画は空を飛んだ。

「よっ、と」

 漫画をキャッチしたナツは壁に寄りかかりながら床に体育座りをし、漫画を読み始めた。まるで自分の部屋にいるみたいに。女の子の部屋でこんなに落ちつけられるのは、私とナツが長い付き合いだからだろうな。ナツが「落ちつくな~」とか口にした事は無いけど。

ナツは他の女の子の部屋ではどうなるんだろう・・・

「ねえナツ」

「なに?」

 丁度いい所だったので、目を漫画から離さずにテキトーに返事をした。

「・・・・今日の手紙の返事どうするの?付き合うの?」

 僕は漫画から目を離した。

 手紙をくれたあの人の事は知っている。少し地味だけど普通にかわいくて、

優しそうな感じの人だ。嫌いじゃないし、どちらかというと好きな方だと思う。

「付き合うってことは彼女にするってことだよな」

彼女か・・・どんな感じなんだろう。手をつないだりキスしたりするんだろうな。あの人が見たまんまの人なら、最初のうちは緊張して顔とかを真っ赤にするタイプかもしれない。・・・なんかそういうのもいいかも。

「・・・アキはどうなんだよ」

「えっ!私?」

 手紙をくれたあの人の事は知っている。他の男子よりもちょっと落ち着いていて、顔もそんなに悪くない。まあ、下駄箱に手紙入れるなんて事をする人とは知らなかったけど・・

でもちょっとかわいいかも。案外照れ屋なのかもなー。デートの時とか緊張してカチコチになったりなんかして。そ―ゆー人も案外いいかも。

「・・・・・・・」

アキは僕の質問に答えなかったけど、なんとなくその気でいるのはわかった。

まあ、僕もその気だったし。

「なあ。付き合うんだったら、もうこっちに来ない方がいいよな」

「・・・ああ。そういえばそうね」

 別の男が毎晩部屋に来ているなんて知ったら、普通怒るだろう。もし怒るような人じゃなかったとしても、傷つくのは明らかだ。その相手が幼馴染だってんならなおさら。

よく考えてみると、他にも止めるべきものがたくさんある。

「あと、登下校も別々にしたほうが方がいいね」

確かに。僕達は幼馴染だから、少しでも変な事をしたら疑われそうだ。

「あとは何だ?・・・あっ、一緒に買い物も駄目だな」

「傍から見たらデートに見えるみたいだしね。お出かけ関係は全部ダメかも」

「・・・まあ、適度に離れればいいんだよな」

「たぶん・・・」

 そう、適度に・・・・

 離れる・・・・・

 明日からは今までのようにアキと一緒にはいれない。

 ナツと今までのように一緒にいるわけにはいかない。

 彼女がいるのに、別の女の子といる時間の方が長くなるわけにはいかないから。

 彼氏よりも仲よくしている男子がいるのはちょっと不謹慎な気がするから。

 だから明日からは

 お互いを今より遠くに

 アキを遠くに・・・・・・

 ナツを遠くに・・・・・・

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 なんだろう

 それは少し嫌な気がする

 べつにアキに彼氏がいてもいいけど・・・・

 べつにナツに彼女がいてもいいけど・・・・

 どこか遠くには

 行ってほしくない

 僕は呟くように小さく言った

 私は呟くように小さく言った

「・・・・断って来る」 「・・・断ろっかな」

「へ?」

「え?」

 アキも断るのか。

 ナツも断るんだ。

「なんで?」

「べつになんとなく・・・・ナツはなんでよ」

「僕もべつに・・・・なんとなく」

 何故かわからないけど

 理由を言うのはなんとなくためらった 


 次の朝

 今日も僕とアキは同じ時間に家を出る。

 そして私とナツは、特に意識しないうちに横に並んで歩き始める。

「おはよーアキ。今日もナツと一緒?」

「おはよーカエ」

「おっ、シンも一緒なんだ」

「おう」

「・・・・ねえ。もう一度聞くけど・・・」

「なんだ?」

「なに?」

 まあ、何を聞くかは予想がつくけどな。

 絶対あの事ね。

「本当に付き合って無いの?」

 ほらな。

 やっぱり。

 聞かれた僕達はいつものように

 声を合わせて言った

「べつにそういう関係になりたいわけじゃないから」

 同時に心の中で

 こう思いながら

『ずっと近くにいたいと思ってはいるけど』


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