表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/87

第85話 『再び図書館へ』

「……なんでだろ」

 駅の改札を抜けたあと、アコウは立ち止まって、空を見上げた。

 夏の空は高く、蝉の声が遠く響いている。

 隣では、ミコトが少し汗をぬぐいながら首をかしげていた。

 

 「ねぇアコウ。何で私たち、図書館行こうとしてるんだっけ?」

 「わかんない。でも、行かなきゃって気がした。……ううん、“行かないとダメ”って感じ」

 

 まるで、忘れてはいけない何かを探すかのように。

 目的も、理由も、はっきりしないまま、ふたりは駅前の大きな図書館へと足を向けていた。

 


■図書館──午後の静寂の中で

 自動ドアが静かに開き、冷房の効いた空気がふたりを包み込む。

 アコウとミコトは、まるで緊張するように足を止め、ゆっくりと館内へ進む。

 本棚の間を抜けて、窓際の閲覧スペースに並んで座った。

 

 「……なんか落ち着くね、ここ」

 「うん。初めて来たのに、なんだか懐かしい……ような?」

 

 隣同士で机に肘をつきながら、なんとなく黙りこむふたり。

 風が外を揺らし、図書館の中はひたすら静かだった。


■ユウ──カウンターの奥から

 遠くから、窓際のふたりを見つけたのは、カウンター内にいたユウだった。

 午前の休憩後、軽い業務を終えて手隙になった彼女は、ふと閲覧席を見回して――

 あの写真のふたりを見つけた。

 

 目の前で、まさに微笑み合って座っている黒髪の少女と、明るい茶髪の少女。

 

 「……っ」

 

 スマートフォンの中にあった、あの知らないはずの写真。

 それを思い出した瞬間、心臓が高鳴った。

 

 喉の奥がつまる。

 言葉が出ない。

 立ち上がりそうになった身体を、自分で押しとどめた。

 

 「……まさか、ほんとに……」

 

 たまたま似ているだけ――そう思いたかった。

 けれど、顔も、笑い方も、目の光も。

 あの画面の中で見た、ふたりとまったく同じだった。

 

 “声をかける?”

 “何を言えばいい?”

 “……私、何も知らないのに?”

 

 胸の奥で何かが疼いて、涙がこみあげそうになった。

 でも、それを必死で飲み込む。

 

 ──記憶はない。でも、このふたりは、きっと。

 

 「……」

 

 ユウは静かに立ち上がった。

 だけど、まだカウンターの外には出られなかった。

 ガラス越しの光の中、ほんの少しだけ手を伸ばして、そっと胸の上に置く。

 

 心臓の鼓動が、今もまだ、早いままだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ