第85話 『再び図書館へ』
「……なんでだろ」
駅の改札を抜けたあと、アコウは立ち止まって、空を見上げた。
夏の空は高く、蝉の声が遠く響いている。
隣では、ミコトが少し汗をぬぐいながら首をかしげていた。
「ねぇアコウ。何で私たち、図書館行こうとしてるんだっけ?」
「わかんない。でも、行かなきゃって気がした。……ううん、“行かないとダメ”って感じ」
まるで、忘れてはいけない何かを探すかのように。
目的も、理由も、はっきりしないまま、ふたりは駅前の大きな図書館へと足を向けていた。
■図書館──午後の静寂の中で
自動ドアが静かに開き、冷房の効いた空気がふたりを包み込む。
アコウとミコトは、まるで緊張するように足を止め、ゆっくりと館内へ進む。
本棚の間を抜けて、窓際の閲覧スペースに並んで座った。
「……なんか落ち着くね、ここ」
「うん。初めて来たのに、なんだか懐かしい……ような?」
隣同士で机に肘をつきながら、なんとなく黙りこむふたり。
風が外を揺らし、図書館の中はひたすら静かだった。
■ユウ──カウンターの奥から
遠くから、窓際のふたりを見つけたのは、カウンター内にいたユウだった。
午前の休憩後、軽い業務を終えて手隙になった彼女は、ふと閲覧席を見回して――
あの写真のふたりを見つけた。
目の前で、まさに微笑み合って座っている黒髪の少女と、明るい茶髪の少女。
「……っ」
スマートフォンの中にあった、あの知らないはずの写真。
それを思い出した瞬間、心臓が高鳴った。
喉の奥がつまる。
言葉が出ない。
立ち上がりそうになった身体を、自分で押しとどめた。
「……まさか、ほんとに……」
たまたま似ているだけ――そう思いたかった。
けれど、顔も、笑い方も、目の光も。
あの画面の中で見た、ふたりとまったく同じだった。
“声をかける?”
“何を言えばいい?”
“……私、何も知らないのに?”
胸の奥で何かが疼いて、涙がこみあげそうになった。
でも、それを必死で飲み込む。
──記憶はない。でも、このふたりは、きっと。
「……」
ユウは静かに立ち上がった。
だけど、まだカウンターの外には出られなかった。
ガラス越しの光の中、ほんの少しだけ手を伸ばして、そっと胸の上に置く。
心臓の鼓動が、今もまだ、早いままだった。




