第8話 『2人の始まる運命』
(アコウ&ミコト再会)
がしゃん、と鉄の扉が閉じる音が響いた。
ダンジョンの第2層。
足元はひび割れた煉瓦、壁はうごめくようにゆがみ、空気はぬるく湿っていた。
「こっちは“諦め”って感じじゃないな……もっと、ムカつく空気……」
アコウは剣を構えながら歩いていた。
さっきから、どこからともなく聞こえる囁き声が不気味でしかたない。
「……なんで描いたの? どうせ続かないのに」
「恥ずかしくないの? あの絵」
「そんなの、夢って呼べるの?」
心の奥を抉るような幻聴。
ダンジョンが“怒り”を刺激してくる――他人への怒り、自分への怒り。
「うっさいし! 余計なお世話だし!」
アコウは声を張り上げ、剣を振り回した。
空を裂いたその一撃の向こう――
バチンッ!
「いったぁ!? ちょっとあんた! なにすんのよ!?」
「……え、ええええええっ!? ミコト!?!?」
剣の風圧が真正面からミコトの前髪を吹っ飛ばしていた。
まさかの再会、というより事故。
「てかあんた、なんでここに!? 尾行!? いや、侵入!? 通報案件じゃん!」
「こっちのセリフよ! なんであんたコンビニの裏で異世界行ってんのよ!? え、隠れスカウト? 鍛冶屋の弟子入り? それとも夢オチ狙い!?」
「違うし! ダンジョンで夢を――って、うわああもう説明めんどくさい!!」
一瞬の沈黙。
ふたりは肩で息をして、にらみ合う。
どちらも、なにかを押し込めていた怒りが、少しずつ滲み出ていた。
「……なんであんた、いつも飄々としてんの?」
アコウがぽつりとこぼす。
「こっちだって、ずっと不安なのに。やりたいことあっても、ヘタクソで、見せるの怖くて……でもやっとやろうって決めたのに」
「……じゃあ見せればよかったじゃん。最初から。変なとこで隠すくせに、後で“誰にも見せたくないのに見てほしい”みたいな顔すんの、ムカつくわ」
「なにそれ! じゃあミコトはいつもキラキラしてるみたいにして、実は何考えてるか全然わかんないタイプのくせに!」
ばちばちと火花が散るような睨み合い。
しかしそのとき――
ゴゴゴゴ……!
ダンジョンの奥から、怒りの具現化のような巨大な獣が現れた。
黒煙を纏い、目は赤く、牙をむき出しにしてこちらへ向かってくる。
「わかった、口喧嘩は一旦やめよう」
「異議なし!!」
ふたりは同時に背を合わせた。
アコウは剣を、ミコトは小さな短剣を逆手に構える。
「いくよ、ミコト!」
「アンタこそ、足引っ張んないでよね!」
怒りに満ちたフロアの中で、
ふたりの怒声が、モンスターにぶつかっていった。
その一撃の中には、
まだ言葉にできない“本音”と、
まだ気づいていない“絆”が、少しだけ混じっていた。